きょうふのてらおくん

僕には不思議な力がある。中二病真っ盛りな年頃ではあるが、これは本当の話だ。
両親や周囲の人々がこの力に気付いたのは幼稚園の頃。自覚し始めたのは小学校に入ってから。今では多少コントロール出来るが、基本的にパッシブな…パッシブっていうのは…各自検索してほしい。

それがどんな力かというと…
「…イテッ」
肩がぶつかる…いや、少し掠った程度だ。相手の男子高校生はこちらがチビだからって端から舐めてかかってくる。僕は、こういうのは慣れてる。
「おいチビ」
ほら。まあ、見た目もモロにナードだし、不良っぽい連中にすぐ絡まれるのは、運命かも知れない。 

「てめえ、ぶつかって…」
それで、僕の力というのは…
「…エ?…」
「すいません、ボーっと歩いてたんで…前見てなかったです…すいません」
「…あ、ああ…」
男子高校生は突然、顔面蒼白、呼吸困難、悪寒発汗、そういったものにみるみるまみれていった。僕のことを見ながら。
「気をつけます」

「お、おう…気をつけろよ…」
そそくさとその場を後にする男子高校生。脚が震えている。恐怖しているのだ。何に…?
僕はその後姿を横目で眺めていた。別に勝ち誇ったわけではない。慣れているからだ。そして、学校へ向かい歩き始める。

僕の力は「人に恐怖を与えること」だ。


──半日後。
僕は体育館裏で殴り倒されていた。頬が、かなり痛い。
今朝の高校生に比べればいかにもな不良連中3人に囲まれてる。所謂カツアゲだ。まあ、慣れっこだ。
「おま、お前、目つきが生意気なんだよ」
知るか。震えながら何言ってる。口に出そうになった。
僕の力は、恐怖を与えるんだ。

「おら!」
ぐふっ。うずくまっていたら腹を蹴られた。これも痛い。
「お、お前、お前ふざけんなよ!」
知るか。プルプル目を泳がせながら何言ってる。
そう、連中は恐怖している。僕の力でだ。
恐怖してても、殴る蹴るは出来るというわけだ。

僕の力は、人に恐怖を与えること。「それだけ」だ。

人は、恐怖に打ち勝つことが出来るし、勇気を振り絞って立ち向かうことが出来る。ああ、人間てすばらしいな。くそったれ。
「お、おい…その辺で…」
「なにビビッてんだよ…たいしたことねえよ…ケンカ弱えよコイツ」
その通り。いくら恐怖を与えられるからってケンカに勝てるわけじゃない。 

とはいえ、このままやられっぱなしってわけにもいかない。
「あっ…起き上がるぞ」
「てめえ!」
「もういいでしょ…」頬が痛い。けど、集中する。伏せていた目を奴らに向ける。
さあ、恐怖を与えよう。

「あ…」
普段、人に視線を合わせることはしない。ナードだから、というのもアリだけど、この能力が「指向性」になってしまうからだ。

すると、どうだろう。

「い…いやお前…」
「これ以上やるなら人を呼ぶけど…」
それはハッタリだ。もっとも、この力自体がハッタリなんだけど。
正直、僕には相手がどんな風にこの力を味わってるのか想像がつかない。どこまで恐怖が伝わっているか。どんな…恐怖の光景を「見て」いるか。

「ヒ…」
「おい、ヤヴェえよ…」
「う…ウオオ?!」

──5分後。体育館裏には僕一人。
目の前には、さっきの不良の吐瀉物。こっちまで吐きたくなってくるよ。
「…今日もなんとか生き延びた…」
コンクリートの段差に大の字に寝る。まだ頬が痛い。

結局、連中はより大きな恐怖を感じたのだろう。
僕を解放し吐き散らしながら去っていった。
恐怖を与える力は、普段は体臭のように(イヤな例えだな)自然に漏れ周囲の人間に悪寒を与えるようだ。
そしてさっきのように、視線を合わせたり、攻撃的に向き合ったりすると…。

本当に不思議な力だ。便利でもあるけど、不便のほうが大きい。

「まともに話とか出来ないもんな…」
ひとりごちる。ひとりごちと言うのが正しいんだ。詳しくは各自検索してくれ。
やっと一人になり、貴重な昼休みを…
「お~い寺尾く~ん」
昼休みは終わったようだ。洞(ほら)あかね…!幼馴染の女子…!


【続くかな】


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