PandraBOX
遥か昔。
開けてはならぬ箱があった。
火を得た人類がそれに至るのは必然だった。
やがて一人の女がそれに触れた。
箱は開かれた。全ての災厄が、全ての絶望が解き放たれたのだ。
女は、自分の為した行いを知った。
開けてはならぬと知っていたのに。
絶望は彼女すら満たした。「後悔」の名を持つ絶望だった。
「やってくれたなぁ」
ふと、知らぬ声が彼女の耳に聞こえた。誰が?どこから?
全てを吐き出したはずの箱が蠢く。そして言った。
「あいつらはな、ずっと昔にオイラに封印されてた連中さ」
箱は名乗る。「ピトス」と。
「誰にそそのかされたか知らんが、まあ、きっとお前のせいじゃないさ」
箱は彼女に慰めの言葉をかける。絶望に満ちた女に、ふとある感情がわいた。
「また封じなきゃならねえが、そんなことできる奴が今いるのかね」
「私がやる」
声が地面に跳ね返る。女がピトスを掴む。
「私がまいた種なら、私が刈り取る」
「オイオイ、そこまで責任持たんでもいいんだぜ?」
責任?違う…この沸いた感情は、私に最後に残されたモノだ…。
「力を貸して。アンタに封じればいいんでしょう?」
「そりゃあ力を貸してくれるならありがたいが…お前さんじゃ…」
「何が絶望だ」
「え?」
「何が災厄だ」
ピトスを掴む手に力がこもる。たまらずピトスの「口」が開く。彼女は目を見開く。
「奇特な奴もいたもんだ。オイラの中に残ってたんだよ」
彼女の湧き立つ感情が残されたそれと強く引かれ合った。それは「エルピス」であった。彼女はそれを受け入れた。
「おい、お前」
「…止めないで」
「違うよ。名前、なんていう?」
パンドラ。それが彼女の名だ。
こうして、幾千年続く人類と絶望との戦いが始まったのだ。
パンドラは拳を握りこむ。右手には絶望たちを捕らえるためのピトスの口、そして左手には、絶望たちをこそ絶望に叩き込むための手甲。細腕には似合わぬほど大きく、硬い鉄拳。
絶望に告ぐ。希望(かくご)せよ。
登場人物
パンドラ
主人公。女性。謀略により絶望の箱ピトスを開けてしまう。
残されたピトスとエルピスを武器に全ての絶望と災厄を封じる決意を拳にこめる。
ピトス
絶望と災厄を封じた箱。それ自体に人格めいたものがあり、パンドラを導く。パンドラの絶望再封印行為には消極的であるが、それは絶望封印の過酷さを誰よりも知ってるからである。かつては人ならざるものが成し遂げたらしいが…
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