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ノーブラでコーラ買いに行った話

5月ですね。なんやかんやもしてない内に季節は巡り、時は一巡し、けれど加速もしないまま、かと言って止まりもせずただ月日は流れ、5月です。

4月と5月

4月はわたしにとっては誕生日マンスでした。父と兄と、極楽に立って久しい祖父が4月生まれでした。父の誕生日は4月1日なのですが、最近知ったんですけど他の4月生まれとは学年が違うんだそうですね。一学年上、早生まれと同じ扱いになると。最近知って驚きました。だからどうしたという話なんですけど。

じゃあ5月はなんだとなったらこれは、今も元気いっぱいにBSで渡鬼を見ている祖母の誕生日です。

渡る世間は鬼ばかりの再放送を毎日ひたすら見続けて、あたかも近所の家庭の事情を覗き見てるゴシップおばさんのように「あそこの夫婦はこうこうこれこれで」「うだつのあがんない旦那さんだよねここの人は」と感想をこぼす、今月で82歳の歌の上手い祖母。自粛要請が出てから二週間に一度電話をしています。歳が歳ですからほら、ずっと家にいて足腰動かさないで認知症の気が出てきたらどうしようと思って。

でもたぶん無用な心配に終わりそうです。亡くなった祖父もそうでしたけど、頭がしゃっきりしてるので。それでもタバコを吸う人なので肺に異常はないかとかね。聞いとかないと。

それともう一個イベントがあって、これは何も我が家だけの話じゃありませんけど、母の日。
母の日はもう毎年どうしたもんかです。去年何かしたっけか。何かを送るにしてもそんな大したもんは送ってなかったかと思います。記憶が定かじゃない。

わたしの母

わたしの母はお洒落な人で、若い頃は新宿ルミネで働いていたそうです。今でも服は好きだしアクセサリーもバッグも靴も唸るほど持ってる。趣味といえばわりとコロコロ変わるけど一貫してハンドメイドが好きで、自分でアクセサリーを作ったり、バッグ作ったり、ニット編んだり、なんでもそこそこのクオリティで作れてしまう。そしてわたしが家を出てから子1人分浮いたお金で家電をバンバン買うし、ここ数年は携帯の機種変くらい気楽に車も2年ごとに買い替える。コストコで買い物しすぎて食料の保存をどうしようか、悩む間もなく業務用冷凍庫を買いに行くという判断をくだす。わりと金で物事を解決するというか、金をとにかく回すというか、欲しいものはだいたい自分で手に入れられちゃう人なのです。

そんな母にわたしのような貧乏人が贈れるものって何がありますか。

いや、こういうのは、子から贈るという気持ちがまず第一に大切なんだと。それはよくよく分かっています。なんならLINEでお母さんいつもありがとうと送る、これだけでもあるいは充分だろうと、わたしの母は少なからず喜ぶだろう、そのくらいの想像力はわたしにもあります。
じゃあそれでいいじゃないかと思うでしょう。しかしそうもいかないのです。ここでおもむろに妹の話を挟み込みますね。

妹は現在高校3年生です。こんな時期に高校3年生。可哀想な妹。去年修学旅行で沖縄に行ったら楽しみにしてた首里城が直前に無くなっちゃった妹。学年末には部活の先輩の追いコンがあったのに、コロナで中止になってしまった妹。新入生の新歓とか文化祭とか体育祭とか、大切な青春の思い出が消し飛んでしまいそうな妹。
救いがあるとしたら妹は部活命!!他は何も考えられない!!っていうタイプではなくて、わりとクールというか、部活は部活として真剣にやりつつ、高校生活は自分の将来の夢に進むためのひとつの過程として真摯に取り組むっていう姿勢を持ってる子なので、高校=人生の全てみたいな思考じゃないからまだそんなメンタルやられてはなさそうな点。
そんな妹は今学校に行けない分バイトに時間を注ぎ込んでいてお金がすごい。去年からバイトはしていて、遊びにもほとんどお金を使わないから稼いだ分ほぼまるまる貯金になってる。将来のために貯金をするという祖母や母やわたしにはまったくない未知の発想をする妹。そして先月もらった給料はわたしの役者収入より圧倒的に多い額だった。ウハウハだそうだ。金を数えるのが楽しくて仕方ないという。小さい頃は末っ子らしくよく泣きよく怒り母に怪獣と呼ばれていた妹が今は金の亡者だ。成長というのは恐ろしい。
しかし妹はお祝いには金を惜しまないというタイプらしい。それでも上限はあるだろうけど、家族それぞれの誕生日の他、母の日父の日のお祝いにもきちんとケーキやプレゼントを選んで買ってくるのだそう。きっと先月ウハウハしてた妹は今月の母の日にもきちんと何かを用意するのだろう。

そうなってくると28歳の姉がLINEでお母さんいつもありがとうなどという簡素な12文字で終わらせていいはずがない。そうこれ、これがいつもわたしを悩ませる。妹、高校生の妹がやれることを、30前のおばさんがやれない。そんなことがあってたまるか。
そういうわけで今年はAmazonに頼ることにした。

さて何を贈る

ここで問題になってくるのがさっき書いたなんでも自分で手に入れてしまう母の性分。今離れて暮らしてる分よけいに分からない。母が欲しがるもの、あらこれ嬉しいわとなるもの。この点も同居してる妹にイニシアチブがある。
ピンポイントであら!と思われるものを探すのは難しい。じゃあどうしよう。母は花が好きだ。花キューピッドとかで花を送ろうかと花キューピッドのHPを見てみたがちょっと種類ありすぎて悩むわかんない。Amazonとかの方がなんか色々お花屋さん出店してるだろうし花以外のギフトもあるだろう。
ほらやっぱりあるんです。石鹸で作ったお花のアレンジメントとか、犬型バスケットに入ったお花とか、さくらんぼ詰め合わせとか、ビールの母の日エディション詰め合わせとか。あーこれ最高です。スーパードライ母の日エディションとか最高、母はスーパードライが大好きなのです。コストコでケースで買って物置部屋にストックしてるくらいスーパードライが好きです。
残念ながらスーパードライ母の日エディションは売り切れてしまったのですが、他のビール詰め合わせはまだある。あーでもそれなら一度母に聞いてみないことにはわからんな、もしかしたらプレモルはイヤとかあるのかもしれない。LINEで聞いてみよう。
LINEの母とのトーク履歴を開いて思い出しました、そういえば手作りマスク作ったぞ送るわよというやり取りをしていたな。ハンドメイド好きの母は最近マスク作りにどハマりしているらしい。今まで作ったことのない形に母のチャレンジ精神が刺激されたのだろう。

玄関ポストを見るとゆうパックが届いていた。母のボールペン字で住所が書いてある。中には母が作った4枚のマスクと、手紙が入っていた。母から手紙を貰うのはいつ振りだろう。初めてかもしれない。初めてじゃないか?初めてだ。
マスクの説明と、近況と、暮らしを案じている旨が書いてあった。向こうの近況はLINEで聞いてたし説明とかこっちの近況なんかもLINEでやり取りできるのに手紙か、あー母だな、と思った。子供の頃習字をやっていた母の字は綺麗だった。角があるけど読みやすくて、余り女々しくない良い字だ。

マスクありがとうのLINEついでに、母の日のお伺いを立ててみた。ビールの詰め合わせと花とで悩んでいるけどどうしましょうか。何がよろしいかしら。
母からは、お金を使うなと返ってきた。今は仕事もなくて大変なんだし暮らしを優先するようにと。
そうは言っても去年の誕生日も何も送ってなかったし、ほら、姉としての矜恃もあったりするんです。
でも母は、母は365日いつでも母だから、今じゃなくていい、いつでも良いと。

そういえば母は365日いつでも母でした。わたしが産まれてから、いやていうか兄が産まれてからずっと母だった。
感謝しなくてはならんな、と思いました。わたしは28にもなってまだわたしでしかなく、芝居で演じてやっと誰かになっているというのに、母は30年以上母をやってるんだ。

コロナが終息して仕事が再開できるようになったら、暮らしや生活に余裕が出たら、ビールも花も全部贈ろう。
あと、お母さんいつもありがとうを、LINEじゃなくて口頭で言おう。


Amazonのカートに突っ込んでたプレゼント候補を全部消したあと、浮いたお金でコーラを買いに出ました。なんかわかんないけど無性にコーラが飲みたかった。よく冷えたやつ。でも雨降ってるしコンビニまで行くのはいやだから、家の斜向かいにある自販機でいーやっつってよくわかんないメーカーの買ったことないコーラを買って、今飲みながらこれを書いています。
書きながら気づいたんですけど、ノーブラでした。
2人くらい人間とすれ違ったんですけどね。バレてたかな。すっぴんで眼鏡でTシャツスエットで、ノーブラの28歳が雨の中謎のメーカーのコーラ買ってるの、気づかれたかな。
マジで自粛で家にずっといるっつってもあれだなブラだけはしとかないとダメだなほんともういや。最悪。

謎メーカーのコーラは美味しかったです。コーラはいつでも美味しいし、母はいつでも母でした。

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