和牛農家を応援する「和牛商品券」の自民党提案に、ツイッター上での反論がすさまじい。

[新型コロナ] 和牛消費へ商品券 経済対策自民が検討

https://www.agrinews.co.jp/p50380.html

和牛農家を応援する「和牛商品券」の自民党提案に、ツイッター上での反論がすさまじい。
給食の牛乳のときは、飲んで応援ムードがあったし、
お花農家も同様でしたが、(いずれも税金使ってないからか)
ツイッター見ているとかなり激しい意見…
和牛は生活の足しにならない
業界団体への利権だろ
国民を食い物にする気か
この危機的状況に和牛食べろとは頭おかしい
現金くばれ
なぜ使い道が和牛だけなの

農業や農政を取材している立場からすると、この反応は何かおかしい。
何か市民に誤解されて伝わっているなと思いながら眺めていて…

ようやくわかった。

ニュース記事のリード文が「経済対策」になっている。
これがいけなかった。
本文では、「国民への経済対策」ではなく、あくまで「農業分野の経済対策」となっている。
日本農業新聞の記事なので、農業分野は割愛された。
これがそのまま、Twitterにのると、市民・国民がびっくりするのは当然。

つい先日、農水省の会議(畜産部会)でも「和牛の消費拡大」案は出ていて、(←その場にいて直接聞いた)
和牛の行き場がなく、畜産農家の支援策として、
ふるさと納税やクーポン券なども視野に、消費拡大を検討してほしいという要望がJAから出された。
国民に単純に、商品券をばらまく案ではない。
(自民党の提案は聞いていませんが、あくまで検討レベル)

農業支援、地域(産地)支援策なのに、
その観点がごっそり抜けて、
Twitter上では、国民に和牛商品券をばらまく案になり、市民・国民の反感を買った。
これが大きなミスリードです。

国内で生産される牛肉は年間33万t、しかし消費量は93万t。
つまり日本人の2/3は輸入牛肉を食べている、和牛はたまにしか食べない。しかも和牛消費の半分はインバウンド需要だと(この間農水省の会議で)聞いたので、つまり出荷の半分が行き場を失っている計算になる。
さらに飲食業界全体の自粛も重なって、
かなり壊滅的で牛乳よりも深刻。(牛乳生産全体における給食牛乳は1割)

そのあたりをツイッター市民に丁寧に説明しないと反感を買う一方だろう。

和牛農家と牛肉業界だけを擁護しているように見えるけれど、
その背景を丁寧に見ていくと。。。
農家=個人事業主を守るというより産地支援=地域支援の側面が大きく、
そもそも和牛農家には、大きく分けて2種類あります。
①繁殖農家と②肥育農家。
①繁殖農家は、母牛を飼って(人工授精して)子供を産ませて(妊娠期間9.5ヶ月)、子牛がある程度(9ヶ月)に育つと市場へ出荷します。
②肥育農家は、その子牛を市場で買って、さらに20ヶ月育てて(肥育)、霜降り和牛(ほぼ30ヶ月齢)に仕上げて出荷します。
どちらの仕事も1頭分の現金収入に至るには、2年近くかかる大きな仕事です。
これを1経営体(農家または農業法人)が、両方まとめて引き受ける(繁殖と肥育の)「一貫経営」もいるにはいますが、上記の通り、4年近くかかることを思えば、キャッシュフローは大変で、リスクも倍増、
さらに、繁殖の技術、肥育の技術はまったく違うため(エサも違う)、同じ「牛を育てる」でも全然違う分野の仕事になるのです。(1つの農家でもたいてい担当が分かれている)
特に①の繁殖農家は、小規模な家族経営で、高齢農家が田んぼをしながら数頭~10頭飼うスタイルが全国に4万軒、散らばっています。(田んぼの稲わらを食べさせて牛の胃袋を丈夫につくる非常に理にかなったスタイル)
政府は、農業人口減少、労働力不足を、大規模農業、スマート農業、ロボット導入、メガファームにシフトして食料生産を保持しようとしていますが、実はその大規模肥育農家1万軒を支えているのは、その戸数4倍の、4万軒の小規模な家族経営なのです。

田舎のじっちゃんばっちゃんが、田んぼでお米さ作って、その稲わらを牛さにくれてやることで、畜産を支え、日本の中山間地を支えているのです。

非常に小規模に見えますが、全国に分散して存在していることで、実はアジア型水田農業地帯ならではの理にかなった農業システムが、和牛生産なのです。

https://www.maff.go.jp/j/chikusan/shokuniku/lin/hokyukin_kentoukai/attach/pdf/s1_meguji11.pdf

というわけで、
農業には土地を荒廃させず保全する役目があります。
繁殖牛の放牧で耕作放棄地を解消という方法もあるし(少ないとはいえ)、
和牛の子牛は酪農家の仕事とも関わっているし、
和牛は輸出の稼ぎ頭で、(この是非はあるにせよ)
飼料の多くは輸入とはいえ、稲わらや飼料米の農家とも関わり、
家畜(生き物)は育つと出荷しなくてはいけないし(出荷適齢期=30ヶ月齢を過ぎると肉質が変わる)、
和牛農家がいなくなるとすき焼きもしゃぶしゃぶも食べられなくなり、
牛の糞は畑の田んぼの堆肥になり(土づくり)、
最近は、遺伝子を盗んでまで和牛をほしがる国もあるほど(知的財産)…

書けば書くほど、小さな話の集積ではありますが、

国ではこれから和牛生産に力を入れて輸出して外貨を稼ごうと、和牛生産倍増計画を策定したばかりなので、和牛のだぶつきはとにかく困るというわけです。
(この計画自体、考え直さなくてはいけない気もしますが…)

そもそも私たちの食べ物を作ってくれる農家を支援する農業支援策は、
消費者=国民の「食料安全保障」という意味合いがあり、
いわゆる雇用対策、経済対策だけではくくれません。
(国民の食料とはいえ、品目が高級食材の和牛なので話が理解されにくいのはわかりますが~。)
なぜ農家だけ守るのか、それよりこっちの失業補償はどうなるのか、というふうに同じまな板で論じることができません。
商品券という言葉だけが一人歩きしていますが、議論はこれから。
ニュースの見出しだけ見て、自民党や霞が関を「バカなの」扱いして批判するのは~
そこにあるもっと大事な部分を見失っている。
自分の見る目を持たなくては。(=メディアリテラシー)
ま、Twitter上でおもしろがってつぶやきあっているだけ、と言われればそれまでだけど~~

気になったのでこれを機に和牛生産のシステムについて記しておきます~。
https://twitter.com/search?q=%E5%92%8C%E7%89%9B%E5%95%86%E5%93%81%E5%88%B8&src=trend_click

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