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ハラコウサクが2020年に出会った最高のアルバムベスト10

サウンドトラックを伴う初めてのパンデミック

 今年も、様々な音楽との出会いがあった。
 様々なアーティストとの出会いがあった。

 コロナ禍でアーティストの音楽活動にも大きな影響があった2020年。
 僕がいつも動画で勉強させてもらっているYouTubeチャンネル「みのミュージック」のみのさんは、2020年をこう表現した。

『コロナウイルスはサウンドトラックを伴う初めてのパンデミックになるのではないか』

 かつて、サウンドトラックを伴う歴史的大事件、戦争、災害がいくつも発生してきた。
 ボブ・ディランやジョン・レノンは、激化するベトナム戦争を嘆いていくつもの曲を書いた。
 桑田佳祐は「ROCK AND ROLL HERO」で、9.11テロをきっかけとして日本やアメリカを痛烈に皮肉った。
 草野マサムネは、東日本大震災のショックを自分なりに受け入れ、「みなと」という哀しくも温かい曲を書いた。

 新型コロナの流行は、歴史上のパンデミックとしては、初めてこれらのような楽曲が発表されていくものになる。ライブだけではなく、アーティストの創作活動の面にも如実に影響を及ぼし、それがサウンドトラックとなって作品に現れてくるという。

 僕たちの人生に強烈なインパクトと怒り、悲しみを残しながら、あっという間に2020年が終わろうとしている。

 今年9月、参戦予定だったフェス「SUPERSONIC 2020」が中止になり、失意の底にあった中で渋谷でこんな広告を見つけた。

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まいったな 2020

 ほんとだよ全く。

今年出会った音楽に感謝しよう

 そんな今年も、たくさんのアーティストがたくさんのアルバムを発表した。この状況下でも、クオリティが下がるどころかむしろ上がっていくような作品を生み出してくれたことに、本当に感謝である。

 この記事では、僕が2020年に出会ったアルバム作品の中からベスト10を、ランキング形式でご紹介する(とはいいつつどれも本当に感動した作品ばかりなので、順位にそこまで意味はないと考えていただいてOK)。

 選考基準は以下の通り。
・僕、ハラコウサクが2020年に初めて出会った作品。
・上記に基づき、今年初めて出会ったものであれば、2020年以前に発表された作品でもOK
・アルバム、ミニアルバムとして発表された作品。シングルは除外。

 ちなみに各ジャケット画像がそのアルバムのApple Musicへのリンクになっているので、気になった方は飛んで聴いてみてne.

10位

WONK - EYES

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#2 EYES

 2016年のアルバム『Sphere』で衝撃のデビューを果たしたソウル・R&Bバンド”WONK”の4枚目の作品。これまではそのスタイル通りソウル・R&B・ジャズに近いスタイルの作品を発表してきた彼らだが、今作はよりアルバムとしての完成度を追求し、コンセプチュアルになった。ジャケットの雰囲気からも分かる通り、シンセサイザーなどの電子楽器を駆使したSFチックなテクノ・ソウルという感じの作品になっている。

 アンビエントな雰囲気を纏ったイントロダクションの#1 "Introduction #5 EYES" を皮切りに、実質的なオープニングナンバーの#2 "EYES" で、一気にリスナーを『EYES』の世界に引き込む。#8 "Mad Puppet" でこれまでの真骨頂であるソウルフルな一面を見せつけたかと思えば、#9 "Blue Moon" ではメロウなエレピと独特なグルーヴのパーカッションを味わせる。#14 "Depth of Blue" ではヴォイスエフェクトをふんだんに使い、SFチックな雰囲気をさらに際立たせ、#19 "Nothing" にたどり着けばまた甘い世界へ。ラストナンバーの#22 "In Your Own Way" で、静かに別れを告げられる。

 WONKの魅力に取り憑かれるまでに、僕は少し時間を要した。ファーストアルバムである『Sphere』が正直割と難しめの内容だったからだ。だからこそ、今作をしっかり楽しむことができるのは幸せなことだと思う。まるで一人の女性に翻弄され続けているような感覚に陥る、不思議だが心地いい一枚である。

9位

中村一義 - 十

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#10 愛にしたわ。

 20年以上、日本のロック界で我が道を行き続ける超実力派シンガーソングライター中村一義の、バンド時代を含め10枚目のアルバム(ソロ名義では7枚目)。長い間第一線で活躍し、常に安定したクオリティの作品を発表してきた中村一義が、記念すべき10枚目のアルバムタイトルとして選んだのは、そのまま『十』。

 ”この哀しみをもう、忘れないだろうな/今日、終わったこの日から、はじめりゃいい”という、強い決意の言葉から始まる#1 "叶しみの道" 。疾走感あふれるサウンドの#4 "神・YOU" は、中村一義独特の言葉遊びのようなフレーズが印象的。#5 "すべてのバカき野郎ども" では、シンプルなバンドサウンドに乗せて”兄弟、オレは信じねぇ。ガキみてぇでも/オレは信じてぇ。アホみてぇでも”という青春の叫びを聴くことができる。何よりも衝撃を受けたのが#9 "イース誕" の詞。前半はこども向けのような雰囲気だが、後半同じトーンながら一気にエッジを効かせて来る。アコギのアルペジオ、2分というこのアルバムで最も短くライトな曲だが、詞のパワーがとんでもない。終わり方も意味深。そんな流れからの#10 "愛にしたわ。" 。ロックミュージシャンらしいダイレクトな愛のメッセージ。清々しい。

 中村一義が100s(ひゃくしき)という名義でバンド活動をしていた時に、僕はこの人の作品に出会ったが、それでもやはり名盤と言われる「金字塔」などの名作ばかり聴いてきて、新作を聴こうとしてこなかった僕に、平手打ちを食らわせたと言ってもいい作品。今から11枚目が楽しみで仕方なくなる、ハートフルでロックンロールな一枚である。

8位

The Backseat Lovers - When We Were Friends

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#4 Kilby Girl

 Apple Musicのおすすめプレイリストを聴いていて偶然見つけた、アメリカ・ソルトレイクシティ出身のロックバンド”The Backseat Lovers”。Twitterのフォロワーはたったの2400人。本国でもまだまだなら日本では完全に無名のバンドである。Google検索でも日本語のページは全く出てこない。にしてはジャケットが日本のどこかっぽいのは何故なんだろう。

 #1 "Watch Your Mouth" のイントロからもうやばい。スリーフィンガーのアルペジオがものすごいかっこいい。そしてヴォーカルの声がとんでもなく透き通っている。草野マサムネの次くらい透き通ってる。でありながらエッジを効かせることもできる。これはロックだ。#4 "Kilby Girl" は全体的にキャッチーなバンドサウンドでありながら、アウトロではリズムが変わることで一気に雰囲気が変わり、ロック魂をこれでもかとくすぐってくるリフを掻き鳴らす。#8 "Olivia" では優しいガットギターの音にメロウなヴォーカルが重なり、独特の雰囲気を醸し出す。

 このバンドを知ったのは、Apple Musicの「新世代ロック」というプレイリストからだった。洋楽の新進気鋭アーティストの曲を集めたプレイリストだが、クオリティが高いのに日本では知られていないアーティストがたくさん聴ける良質なプレイリストである。無名だからと侮るなかれ。有名だろうと無名だろうと、曲が良ければそれでいい。音楽の世界の広さを感じる一枚である。

7位

John Lennon - GIMME SOME TRUTH.

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#1 Instant Karma!

 生誕80年、没後40年を記念してリリースされた、ジョン・レノンの最新オールタイムベスト盤。ミキシングとエンジニアリングはグラミー賞を複数回受賞しているポール・ヒックスとサム・ギャノンが担当。最終的なミックスとエフェクトはロサンゼルスのヘンソン・レコーディング・スタジオでヴィンテージのアナログ機材とエフェクトのみを使用して完成、アビーロード・スタジオではアレックス・ウォートンがアナログでマスタリングを行い、可能な限り美しく本物の音質が確保されている。選曲はオノ・ヨーコと息子のショーン・レノン。ジョンのベスト盤はこれまでも何枚かリリースされているけど、ここまでのボリュームとサウンドのクオリティ、そして本気度が伝わってくるベスト盤は初めてかもしれない。ジョンが生きていたら「金の無駄だ」と一蹴しただろうけど。

 #1 "Instant Karma! (We All Shine On)" からもう珠玉の名曲すぎる上に音が本当によくなってる。ホワイトノイズすら意図的に思えてくるほどクリア。コロナ禍で人の力が必要な時に聴きたい#7 “Power To The People” や、説明不要の大名曲#8 "Imagine" 、ピアノもメロディも歌詞も全てが切ない#9 "Jealous Guy" 、色が出過ぎててもはやカバーじゃないんじゃないかと思えてくる#23 "Stand By Me" など、全曲必聴。ビートルマニアはもちろん、ジョン・レノン入門にも最適な一枚。

 自他ともに認めるビートルマニアの僕ではあるが、実は各メンバーのソロ作品にはかなり疎い。敬愛するポール・マッカートニーのソロ作品でさえ、実は半分くらいしか知らない。ジョンの作品ともなるとアルバム「イマジン」くらいしかまともに聴いたことがなかった。しかし、やはりベスト盤が出るとなると聴きたくなるのがビートルマニアの性。これを機にジョンのソロキャリアをちゃんと聴かなければならないとも感じた。

6位

tide/edit - All My Friends

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#2 To the Zoo

 フィリピン、マニラで結成された4人組インスト・ポストロックバンド「tide/edit」が、2年前にリリースしたフルアルバム。使用楽器はギター2本とベース、ドラムという超シンプルなバンドサウンド。ゲストボーカルを迎えた12曲目以外は歌のないインストゥルメンタル楽曲。しかしながらどの曲もメロディアスで魅力的な構成と展開、それぞれのパートがはっきりとした輪郭を描き出し、聴き手をガッチリと惹きつける。彼ら自身が公言しているように、日本のインストバンドtoeの強い影響下にある。そのためtoeのファンはもちろん、J-ROCKファンならば絶対に魅力を感じるサウンドを展開してくれる。

 5/4拍子のイントロから始まるもののそのトリッキーさを感じさせない爽やかな曲である#2 "To the Zoo"#6 "Snappy" ではエフェクトを多用し、タイトル通りスナップのタイミングが気持ちいい。何より絶対に聴いて欲しいのが#11 "Lakeshore" 。波の音にアコギの音が重なり、シェイカーとクラップが入ってくると、目の前に夕暮れの湖が絶対に見えてくる。唯一のボーカル曲である#12 "White Flag (feat. Dee Cruz)" を聴いた後には、必ずもう一度最初からこのアルバムを聴きなおしたくなるはず。

 僕も実はこのアルバム、toeからの繋がりで入った。元々インストミュージックが大好きで、日本で言えばYMOはもちろん、World's End Girlfriend、fox capture plan、Calmeraやこの後登場するSerphなどを聴き込んでいた。ある日toeを聴きながらtoe関連の記事をネットで見ていたところ、tide/editなるバンドがフィリピンにいるのを知った。やはり自分の好きな新しい音楽に出会うコツは自分から積極的に調べることだ。

5位

Serph - Disney Glitter Melodies

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#2 Main Street Electrical Parade

 8年前に初めてこのアーティストに出会ってからずっと愛してやまず、日本のエレクトロニカ界を最前線で引っ張っているSerphが今年リリースした、ディズニーソングのトリビュートカバーアルバム。Serphは2009年、作曲とピアノを始めてからわずか3年で、デビューアルバム「accidential tourist」をリリースすると、次作「vent」では完全に才能を開花。エレクトロニカというジャンルに革命をもたらすほどの衝撃を与え、エレクトロニカ界の外にもその名が知られるようになった。今作は、Serph初めてのカバーアルバムでありながら、リリースレーベルはなんとDisney公式であるWalt Disney Records。

 誰もが知る名曲である#1 "Whole New World" 。原曲が持つ浮遊感と切なさが、Serphの手に掛かると、現代的でありながら煌びやかで心躍るサウンドに生まれ変わる。#2 "Main Street Electrical Parade" は、原曲もタイトル通りのエレクトロニックな雰囲気であるが、それが魔術師Serphを通すと、同じ電子音楽でありながらさらに輝きを増して、全身が夢の中にいるような錯覚に陥る。声優の牧野由依をボーカルに迎えた#3 "Let It Go (End Credit Version)[feat. 牧野由依]"  では「吹き荒れる雪や氷を細かい電子音のハーモニーで」描いたとSerph本人が語るように、優しくも力強いサウンドを聴くことができる。冒頭3曲だけではなく、全ての楽曲がディズニーらしさとSerphの魔法が組み合わさった最強のカバーアルバムになっている。

 このアルバムで、自分が今までやっていたアレンジや編曲は、Serphの実現する「アレンジ」の足元にも及ばないと感じた。アレンジとは、原曲に新しい解釈と世界を与えることなんだ。原曲がサウンドの絶対的な正解である以上、その正解にわざわざ手を加えるのだから、生半可な物は作るべきではないのだ。Serphはそのハードルを軽々と越え、原曲と自分らしさが最大限発揮される、とんでもない作品を作り上げた。5位という位置は低すぎるかも、と思ってしまうくらい素晴らしい名作。

4位

THE COLLECTORS - SUPERSONIC SUNRISE

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#2 SHINE ON! STARDUST CHILDREN

 日本のロックの歴史を作り上げてきたロックバンドは数あれど、2020年現在まで一度も休むことなく作品を発表し続けているようなとんでもないスタミナと意欲をもったバンドはそう多くない。それがまさにザ・コレクターズである。この作品は2001年にリリースされた12枚目のオリジナルアルバム。フロントマンである加藤ひさしが「僕の大好きな'60年代のロックが持ってた香りが、アルバムの中には漂っている。でも(中略)懐古趣味で演ってるわけじゃなく、しっかり進化しながら自分達の本質を魅せた作品にはなってると思うよ」と語る通り、60'sのロックンロールサウンドと加藤ひさしの巧みな言葉選びや構成力がブレンドされた、才能溢れる作品である。

 「まずは俺たちの心からあふれる叫びを聴いてくれ」と言わんばかりの加藤ひさしのスキャットと、アコギやロックオルガンが煌びやかなサウンドを奏でる#1 "A TASTE OF YOUTH" に始まり、#2 "SHINE ON! STARDUST CHILDREN" ではサビの力強いハーモニーが心を掴んで離さない。また、推測ではあるが、前半がレコードで言うA面、後半がB面のような構成になっている。サウンドの魅力が強く出ていた前半から、#6 "PUPPET MASTER" からは歌詞の言葉ひとつひとつがくっきりとした輪郭を持って耳に飛び込んでくる。#8 "遠距離通話サービス"#10 "沈みゆく船" は特に言葉選びが秀逸で「日本語が母国語でよかった。なぜならコレクターズの曲の言葉をダイレクトに受け取れるから」と思わせてくれるくらいである。

 実はこのアルバム、自分から発掘したものではなく、僕が所属するロックバンド「半径6メートル」のボーカリストの越塚"キム"望に教えてもらって初めて聴いた作品である。コレクターズを世界一愛する彼に、コレクターズのどのアルバムが一番好きかと尋ねたところ、このアルバムが答えとして返ってきたのだ。10曲通して聴いて「確実に僕の人生を彩ってくれるいくつかのアルバムのうちの1枚になる」と思った。しかしまだまだ聴き込みは足りない。きっと、噛めば噛むほど味が濃くなる作品だと思う。

3位

環ROY - Anyways

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#7 泉中央駅

 このランキングでは唯一のヒップホップの作品。宮城県仙台市出身のラッパーである環ROYが今年発表した6枚目のアルバム。全曲セルフプロデュースで制作された渾身の作品。なぜ今までセルフプロデュースではなかったのかと思えるくらいとんでもない完成度と力と熱を孕んだ、間違いなく日本のヒップホップの歴史に残っていく作品になると思う。ロックファンであっても絶対に聴くべき。後悔しない。

 #1 "Protect You" のイントロからこのアルバムのコンセプトを体現していると言える。紡ぎ出されていく言葉たち。しかし魅力は言葉のみにあらず。計算されたビートやサウンドエフェクト。リピートされつつも次々と表情を変えていくリフは、1秒たりとも飽きを感じさせない。先行シングルだった#4 "能" の言葉の力強さは聴いていて汗をかくほど。#7 "泉中央駅" は地元仙台の風景と自身が持つ思い出をノスタルジックに描き出しながら、サウンドは豪快。4/4拍子を裏に入れつつ表で展開される5/4拍子のビートが、曲全体をセピアからカラフルにアップデートしていく。最後の曲である#14 "憧れ" で、自身のキャリアや音楽への想いを振り返りつつ前を向いていく。ラッパーとしての環ROYが、音楽に正面から向き合い、ラップに正面から向き合ったか結果生まれた、内省的でありながら誰の心にも熱く響いてくる名作である。

 ヒップホップはずっと苦手だった。特にラップバトルのイメージが強かった。真正面から言葉で殴り合うその光景は僕が好きな音楽の姿ではなく、きっと求めていない別の楽しみ方をしなければいけない、と思っていたのが事実だった。そんな苦手意識を持っていた中、3年ほど前に出会ったのが環ROY×鎮座DOPENESS×U-Zhaanのこの楽曲だった。

 この曲に出会って以降、日本のヒップホップへの抵抗感はほぼなくなり、スチャダラパー、RHYMESTARなど、歴史を作ってきたアーティストの曲を積極的に聴くようになっていた。環ROYの今回のアルバムに出会えたのも、「七曜日」に出会えたからだった。

2位

ザ・リーサルウェポンズ - Back to the 80's

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#1 80年代アクションスター

 東京・都立家政をホームタウンとして活動する、独特なビジュアルの二人組ユニット、ザ・リーサルウェポンズ。バンダナ、ティアドロップのサングラスに赤いダウンベスト、ジーンズという一昔前のアメリカ人スタイルを纏ったボーカル、サイボーグ・ジョー。アメフトのヘルメットに黄色いオーバーオールという出で立ちのギター兼プロデューサーであるアイキッドという不思議な編成。しかし、楽曲のキャッチーさとクオリティも相まって、カルト的な人気を獲得。じわじわと領地を広げ、今年ついに、ソニー・ミュージック・アーティスツからメジャーデビューを果たした。このアルバムは、メジャーデビュー前にインディーズとして昨年リリースされたデビュー作である。

 #1 "80年代アクションスター" からもうとんでもない衝撃。以前僕が手掛けた記事で「ネタ曲を書くのが一番難しい」と書いたことがあるが、その手のいわゆるコミックソングの中でも、言葉の選び方やサウンドのキャッチーさがここまで上手い曲はほとんど見たことがない。去年から導入された政策を皮肉った#3 "プレミアムフライデーナイト" や、歌詞がコンプラ完全無視としてSNSで話題になった#6 "きみはマザーファッカー" など、1枚聴き切った頃にはもうポンズ(公式の略称)の虜になっていること間違いない。ただ、コミックソングであることに目が行きがちだが、楽曲のクオリティが半端じゃない。アイキッド自ら「歌モノやる以上、キャッチーで損することはありません」と語るように、徹底してキャッチーであることにパラメーターを振り、ジョーの魅力を引き出すことに特化したサウンドである。また、何より驚きなのがこのアルバム、全曲にMVが制作されており、全てYouTubeで視聴可能である。ぜひそちらもチェックして欲しい。

 実はこのアルバム、知ったのは正確には昨年末。大学時代の先輩から教えてもらったのがきっかけである。しかし、しっかり聴き込むことができたのが今年に入ってからだったため、2020年のベストとしてカウントした。ポンズの魅力はなんと言ってもライブである。全ての曲がコールアンドレスポンスをできるように作られている。その盛り上がり方は、蚊帳の外から見れば異常とも言えるほどである。参考までに、ポンズが今年1月におこなったライブ映像を貼り付けておく。もちろんこの中に筆者もいる。この盛り上がりがたまらないんだ。

 コロナが落ち着いて以前のライブの姿が取り戻されたら、いの一番にポンズのライブに行きたい。いや、行かなければならない。アーニーキ!!アーニーキ!!

1位

THE 1975 - Notes On A Conditional Form

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#16 If You're Too Shy (Let Me Know)

 イギリス・マンチェスターから2013年にデビュー以降ずっと世界のロックシーンを最前線でリードし続けるTHE 1975。ビートルズやクイーン、レディオヘッドなど数少ないバンドしか成しえていない、全米・全英同時1位という大記録を2作目のアルバムで達成したという超実力派バンド、である彼らが満を持して発表した今作は、クオリティ追求のために度重なる発売延期を繰り返しながら今年5月にリリースした、通算4枚目のアルバム。全22曲、総再生時間81分という超大作。

 環境活動家グレタ・トゥーンベリのスピーチが収録された#1 "The 1975" を皮切りに、ボーカリストであるマシュー・ヒーリーがMVでマリリン・マンソンをリスペクトした激しいロックチューンの#2 "People"、エレクトロニックなアプローチに挑戦した#4 "Frail State Of Mind" 、ミームやスラングが散りばめられ、穏やかな曲調も相まってディストピア的世界を作り上げた#6 "The Birthday Party" 、EDMとアンビエントミュージックの融合とも言える#7 "Yeah I Know" 、フィービー・ブリジャーズがゲストボーカルとして参加し、アコギの優しい音色に合わせてマシューとフィービーの二人の声が重なり合い、切ない詞を色濃く映し出す#9 "Jesus Christ 2005 God Bless America" 、60’sロックンロールらしいサウンドを美しいコーラスが彩る#10 "Roadkill" 、恋人といられる喜びを煌びやかなサウンドで表現したラブソングの#11 "Me & You Together Song" 、軽やかなビートが心地いい#14 "Tonight (I Wish I Was Your Boy)" 、先行シングルの中でも特にキャッチーでポップなサウンドでSNS時代の関係性を描き出した#16 "If You're Too Shy (Let Me Know)"、マシューが、イギリスでは有名なテレビタレントである父親のティム・ヒーリーと共作し、父親もボーカルとして参加した#21 "Don't Worry"、 マシュー曰く「メンバーへのラブソング」として詞を書いたという、青春の匂いいっぱいの#22 "Guys"。これらの色とりどりの楽曲がひしめき合う、ロック史にその名を残していくであろう名作である。

 THE 1975の新作がリリースされると分かった時点で、今年の最高傑作アルバムはこの作品になるだろうとある程度予想はついていた。期待を全く裏切らない、むしろ大きく超えてくるとんでもない作品だった。Apple Musicが毎年末に発表してくれる、今年僕が聴いた曲の再生回数ランキングは、既存作も含めるとベスト50のうち29曲がTHE 1975の作品だった。アルバム単位で何度も何度も繰り返し聴きたくなる。キャッチーで、繊細で、高度で、美しくて、壮大。このバンドのキャリアをリアルタイムで追うことができることが幸せでならない。本当にすごいバンドだと思う。少しでも洋楽に興味がある、もしくはあった人なら、絶対に絶対に触れておいて欲しい作品である。

次点

 ここからは、ベスト10に入りきらなかった作品を少しだけ紹介する。

Serph - Skylapse

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 Serphが今年12月2日にリリースした最新作。文句のつけようがない内容ではあるのだが、如何せんまだ聴き込めていないため、選外。もっと何度も何度も聴いて、しっかりしたレビューをいつかしたい。

パスピエ - synonym

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 僕がファンクラブに入っている唯一のバンドであるパスピエが今年リリースした最新作。しかし、こちらも12月9日のリリースだったため、聴き込む時間がなく選外。でも普通にめっちゃいい。かっこいい。さすがパスピエ。

Paul McCartney - McCartney III

ポール・マッカートニー『McCartney-III』

 コロナによるロックダウンの最中に、ポール・マッカートニーが自宅で作曲と録音をひたすら一人で行っていた中で生まれた、全曲宅録で構成されるソロアルバムの「マッカートニー・シリーズ」の40年ぶりの新作。こちらもリリースが12月18日と、まだ聴き込めていない。ただ短い時間で聴きまくった限り、ものすごい名作だと思う。ほんとにこの人78歳か。信じられない。
 てか俺の好きなアーティスト、12月にリリースしすぎ。

ラブリーサマーちゃん - THE THIRD SUMMER OF LOVE

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 90年代J-POPの雰囲気を纏った女性ソロシンガーソングライターであるラブリーサマーちゃんの最新作。まずジャケットがめっちゃかっこいい。そして内容も素晴らしい。いい意味で、最近の日本の女性ソロシンガーらしさはゼロ。プログレッシブな一面を見せたり、猟奇的であったり、かと思えば急に可愛らしくなったり。まだまだ進化していくアーティスト。

来年は…

 ランキング一覧はこのようになった。

 10位 WONK - EYES
 9位 中村一義 - 十
 8位 The Backseat Lovers - When We Were Friends
 7位 John Lennon - GIMME SOME TRUTH.
 6位 tide/edit - All My Friends
 5位 Serph - Disney Glitter Melodies
 4位 THE COLLECTORS - SUPERSONIC SUNRISE
 3位 環ROY - Anyways
 2位 ザ・リーサルウェポンズ - Back to the 80’s
 1位 THE 1975 - Notes On A Conditional Form

 日本の作品が6枚、海外の作品が4枚という結果になった。自分としては、ロックの作品が7枚にとどまり、R&B、エレクトロニカ、ヒップホップも入ってきたのは、聴く曲のジャンルが変わってきたのかもしれない、と感じた。コロナ禍でもこれだけの作品を提供してくれたアーティストたちに改めて敬意を表したいと思うとともに、自分も半径6メートル並びに他のプロジェクトで作品をどんどん生み出していかなければならない、という使命感も強くなった。

 ただやはり、音楽人としては早くライブに浸りたいのだ。出演者としても観客としても。なんの足枷もない状態で、ライブという異空間にどっぷり浸りたいのだ。
 来年こそは、あちこちでフェスが開かれ、ライブが開催される、音楽の本来の楽しみ方ができる世界に戻って欲しいと願うばかりである。

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