「現代の奴隷」を解放する仕組みについて
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「現代の奴隷」を解放する仕組みについて

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https://www.metmuseum.org/art/collection/search/302361
"Wilson, Branded Slave from New Orleans"
Charles Paxson
1863

 世間ではSDGsが流行している。大企業のウェブサイトを見ればSDGsへの貢献がアピールされているし、NHKが「SDGsのうた」を制作して、子どもたちが学校で歌っている。

 企業が闇雲に成長を目指していた時代は終わり、より倫理的なふるまいを求められるようになってきた。そしてその感覚が、一部の意識高い系(この言葉もとっくに死語となっている)だけでなく、市井に浸透しつつあるのかもしれない。

 そんな現代においては、企業が労働者に課す環境についても厳しい目が向けられるようになった。中国の新疆ウイグル自治区における強制労働問題に代表されるように、「現代の奴隷制」と呼びうるような劣悪な環境で働く人たちがいる。もちろん、ここまで劣悪な労働問題に関わっている企業はバッシングを受けることになるが、国をまたにかけたサプライチェーンは複雑であり、末端の消費者はもちろん、チェーンを統括する大企業にとっても、問題を発見するのは難しい。

 この状況に先進的な政策をとっているのがオーストラリアである。


2019年に施行された法律により、売上高が1億豪ドル(約83億円)を超える企業や投資会社は、サプライチェーンにおける奴隷制のリスクをどう管理しているか詳述し、誰でもアクセス可能なデータベースに報告書をアップロードすることが義務付けられている。企業は問題解決のために取った手順の概要を示す必要もある。

 結果として、この施策は、アップルやマイクロソフト、ユニリーバなどの大企業が潜在的に抱えていた労働問題を明らかにし、企業による具体的対策を引き出すことに成功したという。

 この政策は企業の労働環境問題に対して少なからず効果を発揮するだろう。だが、記事でも指摘されている通り、サプライチェーンの細部を追跡するのが難しい、政策を遵守しなくてもペナルティが課されないといった問題がある。調査には莫大な労力がかかるが、それを行う企業側には得が少ない。むしろ藪をつついて蛇を出すということにもなりかねない。「自己申告」に頼るだけではインセンティブに欠ける。

 日本における労働環境問題として、一部の企業において外国人技能実習生が劣悪な環境で働いていることが明らかとなってきている。岡山市の建設会社で、ベトナム人技能実習生の男性が2年もの間暴行を受け続けていたという事実がニュースとなった。


 被害を受けた男性は、はじめは仲介役の管理団体に相談したが効果はなく、最終的に、実習生を支援する労働組合のシェルターに身を寄せることとなった。

 外国人技能実習生は、どうしても就労先における立場が弱くなってしまう。内部告発は難しく、今回のような事例は日本の様々な企業で常態化しているのではないかと懸念される。

 この件について、Links株式会社のSonny Wangさんが憤りを示し、告訴し闘う人がいるならば、自分が弁護士費用を負担して支援したい、と提案している。

 彼は「監理団体・NPOに期待してたら何も変わらない」と訴えている。彼のような正義の心を持った人が多く現れれば、社会は変わっていくかもしれない。問題を抱えている企業やそのサプライチェーンの上部の企業の内部にも、自らの信念に基づいて不正を追及する人が出てくる可能性もある。

しかし、人の熱意や善意に頼るだけの運動は持続可能性に欠ける。運動が成功したとしても、多くの場合、強制力のない勧告しか引き出せず、徒労感だけが残るという結果になりかねない。

 この問題の解決には、外野の人々の善意に頼るだけではなく、むしろ労働問題の起きている現場から内部告発が起きるような仕組みが必要である。実現には、当事者自らが不正を訴えるインセンティブと、報告者の安全性の確保、そしてアクションを起こした結果が単なる勧告に終わらない、という条件を備えたメカニズムが重要となる。

 現状、効果的な仕組みは存在しない(と思われる)が、我々がかつて発表した「苦痛トークン」というアイデアが有効ではないかと考えている。

 詳細はこの記事を参照してもらいたい。

 苦痛トークンは、ブロックチェーン技術を用いて組織の「苦痛」を表現するアイデアだ。組織のメンバーにはそれぞれ一定量の「苦痛トークン」が発行されていて、彼らは苦痛を感じた時にそれを匿名で「行使」できる。組織は自らの生産物に対して、生産の過程で行使された苦痛トークンの総量を添付する義務を負う(もしくは勝手に公開される)。苦痛トークンは(パブリックな)ブロックチェーン上に記録されているので、会社の都合では改竄できず、苦痛トークンの量がその組織に対する(労働)環境改善要求の指標となる。または、よりラディカルに「苦痛トークンの行使量に応じて組織の命令系統が自動で変化する」というバージョンも考えられる。これなら、苦痛トークンが行使されたが皆見ているだけで、何にも変わらない、ということはなくなり、組織としても問題の発見がそのまま組織の改革につながるので、実は、どちらにとってもメリットがある。

 要するに、「いやなものはいやだ」ということを現場からの客観的な数値として呈示し効果を持たせようとする仕組みである。

 苦痛トークンはまだアイデアの段階で、具体的な運用法や問題点については議論が必要だろう。それでも、ブロックチェーン技術の発展により、一部の人々の勇気と善意だけに頼らず(個人に多大な「勇気」を要求することなく)システマティックに組織から苦痛を取り除ける可能性があることに、希望を見出せないだろうか?

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社会的チートの撲滅&死の恐怖からの非宗教的解放について、「それは無理」と確信しつつ、どうにかならないものかとあがく有志の会。