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疾風(はやて)

ハナテン中古機センターは楽しい。
大阪は八尾空港併設の自家用機総合販売部で、デモ飛行もできるんや。
あたしは、前からお目当ての、ブルーメタリックの「疾風」を操縦させてもらおうとやってきた。
「これですよ、お客様」
「きれいやねぇ」
「ニューホマレに換装して、新品同様です」
「上がっていい?」
「どうぞ、こちらの主翼に手をかけていただいて・・・」
手すりがつけてあって、ちょっと飛び上がれば、左主翼に乗れる。
翼は、ジュラルミンではなく炭素繊維を使って軽量化しているらしい。
コックピットは開いていて、内装が丸見え。
「いいわぁ。木目調なんやね、インパネ」
「ええ、日本機はそれが合うんですよ。スロットルレバーの握りもチーク材です」
「ほんと・・・乗っていい?」
「どうぞ、けっこう広いですよ」
あたしは、足を上げてコックピットに入った。
操縦桿が長くもなく、短すぎもせず、いい塩梅だった。シートも硬すぎない。
お尻をシートに沈めると、前を見た。
キャノピー(風防)は、角の取れたアクリル成型で、旧陸軍の印象とちょっと違う。
計器類はデジタル化されているので液晶タッチパネルでほぼまかなう。
昔、照準機があったところにナビゲーションパネルがサンバイザー付で取り付けてあった。
軍用じゃないから、武装関係の装置は一切ない。
かわりにケンウッドのオーディオ・ヴィジュアルシステムが搭載され、GPSもあった。
無線は民間航空無線とアマチュア無線の二つを搭載している。
「気に入ったわ」
「どうですぅ!飛んでみますかぁ?」
外から、店員さんが呼ぶ。
「いいのぉ。じゃ、ちょっと一周だけ」
「あの、ムスタングがタキシーウェイに入ってからエンジンを始動してくださ~い!」
そう言って彼は、インカムで八尾管制塔と連絡している。
前で、銀のP-51が三点支持でエンジンを始動していた。

燃料はハーフで、満タンではない。
ディスプレイにパイロットの格好をしたネコキャラがでてきて、指示をする。
インカムをかぶった。
「用意はいいかい?」ときた。
管制塔との連絡チャンネル・・・よし。
燃料・・・よし。
ペダルの動きをラダー・・・ぎいぎいしてる。よし。
操縦桿の動きは・・・右左に振るとエルロンがパタパタと動いてる。
操縦桿を引くと・・エレベーターが・・見えないな。たぶん動いてるやろ。

「さあ、エンジンを始動しよう」ネコが言う。
スターターがあるので、きゅきゅん・・・ぶるぶるぶる・・・
四翅のプロペラがゆっくり回りだしたよ。
「輪留め、外しましたよぉ」
店員さんが叫ぶ。
びいーんと連続音がニューホマレから聞こえた。
風防を閉めて、行きますと手で合図をする。
スロットルをゆっくり開いていく。
タキシーウェイは何もいない。
三点支持のまま「疾風」が前に進みだす。
店員さんがマーカーを両手に持って、「こいこい」をする。
右ペダルを踏み込んで、右に頭を回す。
するとタキシーに進入できる。

「管制塔、ハヤテがテスト飛行に入ります。どうぞ」
「了解です、そのまま進んで、滑走路のスタートライン手前につけてください。どうぞ」
スタートライン前で店員さんがマーカーをバッテンにしたので、スロットルを引いて止まった。
アイドリング状態である。
スターター役の係員がチェッカーフラッグを振って、「飛んでよし」と合図する。
あたしは、スロットルをゆっくり開く。
ニューホマレが澄んだ音になっていく。
景色が後ろに流れ出した。
どんどんスピードが上がり、対地速度150kmを超える。
三点支持から二点支持になって、スロットル全開で操縦桿を引く。
ふわり・・
上がった。
ほとんど垂直に上昇限度まであがるように思えた。
脚が自動で仕舞われたことを青いランプが示し、画面のネコが「テイクオフ!」と笑う。
「管制塔、こちらハヤテ。離陸完了し、五千フィートまで上昇して左旋回します」
「了解、その高度で、近隣機影は皆無です。グッドラック。どうぞ」
雲がところどころ、ただよっていて、生駒山のほうにかかっていた。
大阪湾のほうには雲はない。
淡路島が薄く見える。
六甲山も見える。
風防越しなので、エンジンの音はそんなに響かない。
FM802にチャンネルを合わし、インカムに流した。
AhaのTake on meが流れてきた。ごきげんだぁ。
大阪城が真下に来た。
淀川もしっかり見えている。

このまま、高槻方面まで行って右旋回し、飯盛山山系を南下して八尾に向かおう。

ハヤテ(疾風)はほんとうに優雅に飛ぶなぁ。
ゼロ戦よりも操縦がしやすい気がする。
ゼロ戦より室内が広いし、機体も一回り大きいんだよ。
みんなも乗ってみなよ。
ぜったい、ほしくなるって。
前方に機影・・・
あ、P-51や。
先にテスト飛行に飛んだやつ。

機体を振って合図してくれている。
じゃ、こっちも振っちゃおう。
操縦桿を左右にゆっくり振った。
なめらかだ。
やっぱり、いい。

「パイロットは女の子だ。買うのかな。ムスタング・・・」
アメリカ機は女性に人気なんだよな。

でも、あたしは、だんぜん「疾風」よハヤテ!

ほんの二十分ほどの夢の遊覧飛行を終えて、着陸のために進入態勢に入った。
これは、管制塔の指示を仰いで、ハヤテの着陸システムに任せるの。
進入角とスローダウン、脚出し、を自動でやってもらえるの。
タッチダウン(接地)の後は、手動です。

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