2022/09/21 リゾバ日記 27日目 ノーマシュマロ・ロングロングダイアリー

 北海道の冬は早くて、今晩には氷点下まで気温が下がるらしい。ぺらぺらの掛け布団しか支給されていないので最悪凍死するかもしれない。いちおうユニクロのフリースを着込んで寝よう。

 今日の仕事はゆるゆるで、備品の補充や冷凍庫の整理などを適当にこなしていたらいつのまにか終わった。タスクもやりがいもない単純作業をしていると頭だけがグルグルと回り、悩みや不安に支配されてしまう。

 将来への不安は無限にあるけど、それゆえ精神が不安定になるかと言われると私の場合そんなことはなくて、ただ不安だなぁという気持ちだけがボヤ〜っとしたシルエットで浮かんでいる。(ちなみに解決法を知っている不安については、その解決法を実践しているかの如何に関わらず、不安として計上していない。ここで言う不安はもっと捉えようのない、どうしようもないものだ。)
 
 基本的に漠然とした悩み事などは心の無駄だと思っているし、寝れば忘れる便利な体質なので、長期的に気を病むことはほぼないのだが、こうもひっきりなしにS(ゴキブリをGと呼ぶメソッドで、就活をそう呼んでいる)関連のメールが届くと、悩みも長期化し始める。厳密には間欠的なのだが、発生頻度が高すぎて心の休まる間がない。そんな忙しないS関連のメールがもたらすのは「私って将来どうなるんだろう」という漠然とした不安である。

 Sにおいては「あなたは将来どのようになりたいですか」という旨のことをよく聞かれる。どういう働き方をしたいですか?とか、どんなキャリアプランを描いていますか?とか、こっちが計画性を持っている前提で話しかけてくる。あいにくそんなものは持ち合わせていないのだが、Sにおけるベタ問らしいので一応回答は用意する。「何事にも全力で取り組むのが好きな性格なので、新たな挑戦や課題に対して、楽しさを見出しつつ励みたいと思います」。しょうもない小手先の発言で人を判断するのが人事の仕事なんですか?と聞きたいが、屁理屈をぶつけたところで何が変わるわけでもないので、飲み込む。人事だってそんなこと百も承知で妥協しながら働いてるんだろうし。八つ当たりしても仕方ない。

 ある程度大きくて余裕ある企業は、社員の自己実現を応援するという形で福利厚生を提供しようとする。社員がイキイキと仕事に励めるように、人生のプライベートな部分にも投資してあげようという崇高な考えだ。しかしそういう企業はすぐ英会話とかスポーツとかを例示してくるので、あぁそっちの人たちの世界なんだな、と一枚壁を感じてしまう。彼らにとっての自己実現は「能力獲得や健康維持のための活動」とほぼイコールで、一日中映画を見るとか、めっちゃお菓子を食べるとか、でっかい犬を飼うとか、そういうステキなだけのやつは支援の対象外らしい。自己実現という広い言葉に責任を持つなら一律でお金を配るべきだろと思うけど、こんな意見は生産性のない世迷い言でしかないから淘汰されて当然だ。

 Sをやっていると「お前はリターンのためにリスクをとることができる人間か」と問われている感覚になる。何かを成すために何かを犠牲にしたことはあるか、犠牲にする覚悟はあるか、犠牲にしてまで働きたいか、とあらゆる局面で繰り返し確認される。思えばSのシステム自体がそれを問うてきているのかもしれない。お前は職を得るという目的のためにこのしょうもない儀式をやり遂げることができるか。恥やプライドをかなぐり捨てて、時間や労力を惜しみなく費やすことができる人間か。私はまだそのあたりに心残りがあるし、よしんば職に就くことができたとしても、おそらくその先もずっと悩まされる。

 この「就職したとしても将来的に悩むんじゃないか」というネガティブな想像が、最近私を襲っている不安の一つである。もちろん転職なり辞職なりいくらでも逃げ道は用意されているのだけど、逃げた先に別の道があるとは限らない。つまりこの不安は突き詰めれば「私は生きるために折り合いをつけられるのか」という自問になり、自死を選ぶほどには尊厳に生きることができない半端者なので、結局「どうやって折り合いをつけようかな」というふんわりした悩みに着地する。もはやそういう人生に抵抗する気も起こらなくなってきたし、それが情けない。
 
 Sとはプライドを圧し折ろうとしてくる装置であると思っていたが、実のところそうではなく、計画的な人生のイニシエーションとしての役割があるのだと痛感する。このバンジージャンプを飛ぶことができなければキャリア社会の成員とは認められない。人を試すのって良くないと思うけどなあ!と中学入試の頃から思ってるけど、不満を感じつつも全ての試験を受けてきて、時には苦しみつつもその旨味を充分吸ってきたのであって、いまさら私に拒否権などない。乗り掛かった船のうえから船の文句をいうことはできない。

 書いているうちに気温がどんどん下がってきて、いまは3℃らしい。不安や憂鬱を抱えたままでは乗り越えられない夜なので、今からYouTubeで陽気な動画を見ながらお刺身を食べてお酒も飲みます。極寒のロシアを生き抜くためにはウォッカが必須だし、この現代を生き抜くためにもウォッカにあたるものが必要なのだ。

 

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