最近見たもの 2023/07/02

 7月。暑さにやられて外出が減ってきているが、負けじと日暮れどきを見計らい散歩などしている。夏は好きだけど暑さや湿気は好きじゃない。だからクーラーと除湿機が好きだ。最近は設定温度26℃弱風、ゴウンゴウンと異音のする除湿機をフル稼働させながらひたすら研究に取り組み、絶望し、漫画や映画に光をみている。以下は最近みてよかったもの。映画3つ、漫画1つ。ネタバレはしないようにしてるので、神経質な方じゃなければおすすめ記事として読んでください。


『凶気の桜』

 窪塚洋介主演。ナショナリズムを掲げて渋谷で暴力を振るう青年たちを描いた映画。
 確固たるイデオロギーに突き動かされる人間の、良い意味での融通の効かなさがカッコいい。誰に何を言われようと揺らがない軸を持っていて、不撓不屈を失うくらいなら命を捨ててやろうという極端な若さが眩しかった。でも眩しさは必ずしも何かを成すわけじゃないというのが切ない。信条でギラギラしている平成初期の若者を演じる窪塚のえも言われぬ説得力がすさまじかった。「右翼じゃないっす、ナショナリズムっす」という冒頭のセリフに、俺には絶対的な意志が宿っているんだという誇り高さがあらわれている気がして、思い返すに印象的である。「イデオロギー磨いてっか?」「はい!」みたいなやりとり、おもしろいし私もしたい。


『ラストエンペラー』

 清の最後の皇帝、愛新覚羅溥儀の一生を描いた映画。 8月、友人と中国旅行にいく予定があり、ボルテージをどんどん高めていってピークを出発日にぶつけようという話になった。手始めに北京の紫禁城を舞台にした名作をいっしょに見たわけだが、これがもうおもしろくておもしろくて。
 王の人生は王という制度に吸収されてしまうのだという悲しい事実が、制度ごとなくなる最終局面に差し掛かってようやくわかる、この業、すごい。
 生まれて間も無く王宮入りした王にとっては今まで接した全ての相手が従者で、皆に付き従われるその状況こそが王を王たらしめていたのだから、従者が周りからいなくなってしまえば当然、王が王でなくなってしまう。重臣に水をバシャバシャかけても怒られるどころか媚びられて、数千の兵の間を歩けば次々頭を下げられる。そうやって上ってきた(上らされてきた)人間の下り坂の残酷さ。
愛を失うごと寂寞閑散としていく紫禁城と、愛を受け取るたび美しく映える絢爛な紫禁城が、溥儀の視界を追体験しているようだった。まっすぐ地面に墜落していくのではなく、少しずつ高度が下がっていくような、たまに小さな上昇気流に掬われて、また元通りに落ちていくような切なさがあった。


『戦場のメリークリスマス』

 ラストエンペラーもそうだけど、見るきっかけのひとつには坂本龍一の訃報がある。YMOもソロ活動も提供楽曲も好きだったが、この2作品のサウンドトラックも最高だった。ちなみに両作品とも本人が出演している。坂本龍一はポスター左側の美しい男。とてもカッコ良い。
 日本兵のサムライ的な異常性と戦争の権力構造が支配する基地で、私情が秩序を乱していく様子が描かれる。「禁断の恋」なんてやわらかいものでは到底なく、檻の外に繋がっていそうな感情の片鱗を相手から読み取り、それを利用して生き延びようとする狡猾な現実味があった。戦地という逼迫したシチュエーションにおいて、個人の身勝手な振る舞いが生み出す恐怖と隙がよく描かれていた。集団的な戦いにおいては乱れない統率こそがカギなのだと再確認した。
 『凶気の桜』でも思ったが、固く鋭い信念は長続きしない。何かと衝突した時に折れるリスクが高い。しかしそういう信念を持った人間にとって長続きは目的ではなく、ただ信念を信念として貫くことが目的であり誇りなのだろうと感じる。そういう鮮烈な生き方に憧れながらも、種々の娯楽への欲求を抑えられないまま私は軟弱に生きていくのだ。これもこれでいいんだけどね。


『ノーマーク爆牌党』

 以前オモチャンで永田さんがおすすめしていたので読んだ。爆岡弾十郎というはちゃめちゃな打ち方をする雀士が主人公のギャグ漫画、とおもいきや、はちゃめちゃな打ち方の裏にあるかもしれない緻密な戦略に周囲の人が翻弄されるという、すこしシリアスなところもあるストーリーである。
 ギャグもくだらなくて面白いのだが、何よりも周りの雀士たちのかっこよさに痺れる。メソッドから大きく外れながらも結果を出す爆岡をまぐれと切り捨てることなく、結果を出している以上は理由があるはずだと真摯に向き合う姿勢に途轍もないプロ根性を感じる。もちろんビギナーズラックだのツいてるだけだの言ってくるモブのプロもいるけど、真剣な人ほど毅然として「麻雀をツキだけの競技だと思っているなら、プロは常にツいていなければいけない。あなたが爆岡よりツいていないなら、つまりはそういうことだ」(意訳)と言い放つ。カッコい〜!
 この漫画は型破りで最強な主人公をつぶさに描いていた作品ではなく、あくまで彼を舞台装置として、果敢に嵐に立ち向かうプロのあり方を描いているのだと思うようになると本当に面白く読める。麻雀は好きだけどそんなに詳しくない、くらいの人にこそおすすめ。



 Twitterが半分死んで、Misskeyなどの他サービスへの移住が始まっているようなので、私も人波に乗ってアカウントを作っておこう。オシャレな写真も撮れないしダンスもできない私には文章主体のSNSが必要なのだ。noteもありがとう。

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