見出し画像

田中千智さんの公開制作に伺う。

大名にある第一松村ビルの5階で画家の田中千智さんが作品制作を本日は公開されていると言うので伺った。
ビル自体がいつ頃からそこにあるのか知らないが5階まで階段を上がる。そんな上まで階段で昇ったのはいつ以来だろう。しかしそれ程キツく感じなかったのは日頃の移動手段が自転車のためであろうか。
階段を昇りきり一番の奥の部屋の扉を開けると制作途中の作品があるものは寝かされ、あるものは壁にかけられて、あるものは壁に立てかけられて置いてあった。
そこにある作品たちはまだ完成ではないのだから「展示」ではなく「置いてる」との表現が妥当だろうか。
しかし公開制作なのだから「展示」が正しいかもしれない。どちらが正しいのか。
そしてそれらの作品の置いてある部屋の真ん中にあるテーブルに田中千智さんが座っていた。お子を抱いている。お子は眠っている。
エアコンが効いているとはいえ、この暑い夏の日に、階段を上がったがために体温が上昇していると思われる私が入室したがために余計に部屋が暑くなったかもしれないのにお子はおそらくステキな夢を見ている。
おお、カワイイお子よ。
制作途中の作品たちの殆どはまず黒い背景が塗られていた。私だけで勝手に言わせてもらうが「田中千智ブラック」である。ご本人に不満が有れば申し訳なく思う。しかし田中千智さんを語る上で黒という色は外す事は出来ない。それだけ印象を固める色だ。
一般的に黒という色は全てを飲み込むようなダークなイメージを持ちやすい。或いは画面を引き締めるような強いインパクトを与える色だ。
高校の頃に私はデザイン科だったのだが授業で「黒は使ったらそこに目が行くからできるだけ使うな」と教わったことがある。「黒以外で黒を表現しろ」とも言われたことがある。それだけ黒は難しく、なかなかの曲者なのだ。
しかし田中千智さんの黒はそんな一般的なイメージとは真逆と考える。全てを飲み込むダークなイメージではなく、全てを受け入れる柔らかい優しさを感じる。冷たさがない。
他の色を食うような強いインパクトもない。むしろ背景としての仕事を全うしており、メインのモチーフや他の色を引き立てている。
黒なしでは語れないほどの主役でありながら周りを引き立てる脇役でもある。矛盾しているようでこんな性格の主人公がマンガにいそうだ。そんな気がする。
制作途中の作品たちの黒は既にその優しさを出していた。足元を見るとパレットに鮮やかな色が出してある。これからどんな作品ができるのかワクワクする。
壁には所々にマンガでいう「ネーム」のような小さな完成予定図が貼られており、作家がどのような過程で作品を制作していくかが理解できる。
画廊や美術館で見るような上品な感じはなく、雑多な、わちゃわちゃした空間がそこにあった。
それにしても制作途中の作品が多い。これらが出来上がったら小さいギャラリーなら個展が出来そうだ。それだけ多い。本人に聞くと飽きやすいから複数の作品を同時進行で描くのが性に合ってるらしい。
この作品に飽きたら他に作品に、という感じだろうか。
飽きやすいのは私も同じなのだが次元が違う。
私の場合飽きたら絵を描くのがもう嫌だ。あと疲れた時も嫌だ。
それを田中千智さんは難なくこなしている。しかも作品制作だけでなくお子も育てながら。
単純に私がぐうたらだというだけの話なのだが。
やがてお子は抱かれた状態からゆらゆら揺れるベッドのような物に寝かされた。お子は起きることなくいい夢を見ている。
お子は可愛かった。
作品飾ってあったけどお子にも目が行く。
お子はいい。
お子を見ていると心が平和になる。
田中千智さんには悪いけれどどんな作品の前にも眠っているお子には負ける。
すくすく育て。
何様だ私。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?