七福神日誌16

六時半起床。
ヨーグルトを食べて家を出る。
七時半に七福神に到着。
社長、アネさん、クミさんと朝の仕込みを行う。
酒、野菜を発注し、キャベツを切って粉を練る。
今日は卵を一つも無駄にせず割ることが出来たが、その作業だけで一時間近くかかってしまう。
「自分、それでなんぼ時給貰おう思てんの」と社長にいわれる。
十時にドーナツ休憩。
コーヒーを飲みながら社長とアネさんが『孤狼の血』という小説の話を始め、ふと思い出したように、自分たちに共通して人柄にバイオレンスなところがあるのは、きっと二人の母が鰻割きだったからだろうという結論を出す。
鰻割きというのは鰻の下処理の仕事のことで、手順としては腹を割いて内蔵と骨を抜き、頭を落として血を洗う、その繰り返し。
関西では戦中を除いて、昭和の初めから中頃にかけて町に何人かずつはあった職業とのことで、専用包丁の独特な舟の様なフォルムからとったものか、鰻割きのことを舟割き、また、まずは腹を割るところから始めるためか、鰻屋のことを正直者と呼んだりしていたそうだ。
俺にとっては義祖母にあたるその人は、淀川上手の福町で、近隣の鰻屋から注文を受けて一日に百匹以上やっつけることもあったそうで、そんな母の姿を見て、社長はいつか串カツ屋になりたい、アネさんはいつか美容師になりたいと、子供心に思ったもんやでとしみじみ話し、そこへホールスタッフのカズくんがやって来て腹が減ったから先に昼飯を作ってくれという。
開店前の練習に何本か揚げて食べてもらい、感想を聞く。
「ごちそうさまです。悪くないです。でもしいていうなら、ネタがちょっと縮こまってる。たぶん油の中で串が重なってしまってるんで、もう少しばらばらな場所に落とすといいと思います」とのこと。
カズくんはアルバイトの大学生だが社長も認める食い道楽で、そのレベルは兵隊の位でいうならばすでに中佐やでとのことで、常連さん達にもその目利きの実力を知られているのか、よく梅田界隈の店の良し悪しを尋ねられている。
開店。揚場に立つ。
先程いわれたように、油の中で串が重ならないよう注意する。
十七時に退勤。
帰って妻の実家に顔を出すと、リフォームの設計を担当してくれているO先生が来ている。
工事は雨だとはかどりませんが、やはり雨の日は串カツもはかどりませんかといわれ、ぴんとこなかったため生返事しつつお見送りする。
先生が帰ってから、さっきのは客足のことかと思い至る。
義母の部屋で妻と夕飯。
義母は何かの会食があるといって入れ違いで出掛けて行った。
テリヤキ味の手羽元、ニンジンと玉子を焼いてあえたもの、昆布のおにぎりなどを食べる。
少し飲む。
仮住まいの方に帰って風呂に入り、就寝。

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