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マニラの貧困地域をはじめて訪問した時。

 今回は、20年ほど前に参加したフィリピン・スタディツアーの事後報告・感想を紹介します。このツアーでとても良い経験・体験をさせて頂きました。これを機にフィリピンにはまりました。現地のNGOスタッフ、研究者、学校関係者、友人に大変お世話になりました。ありがとうございました。

 今まで数名の青年海外協力隊OBの体験談を聞かせて頂いた。そのうちの1人、理数科教育でウガンダに派遣された隊員は、理科教員が学校に配属されないため、生徒が授業を受けることができず、生徒が勉強できない状況の中で試験を受けることになり、単位を取得できない状況を語り、教育の重要性を説いておられた。また、「日本に生まれてきたことは宝くじに当たったようなもの」とおっしゃっていた。その時、私はパヤタス訪問時のことを思い出した。世の中には感謝することで溢れている。みんなに喜ばれる活動を続けていきたい。

――― 以下、当時の感想文。拙文で恐縮です。
 今回のツアーでは、メトロマニラ・ケソン市内のパヤタス地区を訪問し、そこでホームステイさせて頂いた。その感想を述べたい。


 パヤタスは、メトロマニラの都市開発によって立ち退きを余儀なくされた再定住地であり、そこにはメトロマニラのゴミが集積する地域でもある。そこに住み、ゴミを集めて生活する人たちが暮らしている。彼らを「スカベンジャー」と呼ぶ。私は、デイケアセンター(保育園)に通うC君(5歳)の母のEさん宅に1泊ホームステイした。彼女は3児の母である。彼女は日本語をしゃべることができ、「リンちゃんと呼んで」と言ってくれるほど、上手であった。彼女もまた、スカベンジャーである。1日の稼ぎは110ペソだそうだ。フィリピンの米の値段は約20ペソ/1kg、学校へ行くには交通費が10ペソ/1日かかる。当然、生活は貧しい。彼女はゴミの換金以外にも豚を飼って生計を立てていた。幸いにも、一緒に住んでいるお姉さんが警察官であったので、生活は何とかやっていけているようである。


 最近はスカベンジャーするにも、組合加入とIDとが必要であり、彼女は持っていなかった。それゆえ、朝にゴミ山には行けず、お昼前ぐらいに山に入るそうである。最近は、ゴミ山に捨てる前にお金になりそうなゴミは、捨てる前にお金に換えてしまうので、年々、ゴミの質の低下が低下している。それらのことが彼女の生活をさらに苦しめている。


 その晩、彼女の家族と彼女のお姉さんの家族は、一つの居間で川の字になって寝ていた。私には、ベッドのある一部屋(上の画像)を用意して頂き、朝は、家族のみんなと違う食事「焼きそばとコーヒー」を出して頂いた。その朝食は一生涯忘れることはない。


 彼女との会話の中で一番印象に残ったことは「いつも笑顔でいるけれど心の中では泣いている。いつも希望を持って生きている。」という言葉でした。彼女は、息子のカプティン君のために紙飛行機を作り、それを飛ばしてから、「この子はパイロットになりたい。」と彼女はいっていた。カプティン君は5歳と思えないほど痩せていた。デイケアセンターの子供たちはみんな痩せていた。しかし、日本の子供たちよりも、元気で無邪気だ。私はそんな子供たちが大好きだ。


 彼女には、大学に通うL(18歳)とG(16歳)の2人の娘がいた。生計をやりくりして、なんとか子供たちに教育を受けさせても、多くの若者たちは就職先を見つけることができないそうだ。言い換えれば、多くの人々が「貧困」から抜け出すことができないのである。


 私は彼女の家をあとにし、我々ツアー参加者はパヤタス廃棄処分場の事務所を訪れた。事務職員の方に用意して頂いたトラックでゴミ山に登った。その移動の際、偶然、彼女と再会した。私はトラックの上から笑顔で彼女に手を振り、彼女は汗だくでジャンクショップで売れそうなゴミを探している中、それに応えていただいた。今の自分にはそれしかできなかった。彼女の心境を知っているだけに何とも複雑な気持ちである。


 私が大学院生の時に大変お世話になったカフェのマスター(50代後半)がいつも私に言うことがあった。それは「今度生まれてくる時はシャンデリアの下で」という言葉である。フィリピンの貧困地域の現状を見て、この言葉を思い出した。「日本で生活できること自体、なんて幸せなのか。」「現在の日本人は生まれたときからシャンデリアの下で暮らすようなものだ。」と強く感じだ。日本で生活していると、人やモノへの感謝の気持ちを忘れ、自分の短期的な達成目標のためにせかせかした生活を送りがちである。すでに我々はとても便利な生活を享受している。それはわれわれの親や先祖たちが築いた財産の上に、胡坐をかいているに過ぎない。また、その基盤の上で、盲目的にお金や出世とのった短期的目標に翻弄されているだけで、そのことで心豊かな人間社会を形成していく上で多くのことを失っているのではないだろうか。                            ―――  

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