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私とうさぎちゃん

 私は今、うさぎちゃんの絵を描いています。
 きっかけは、入院中、手のリハビリで、何か描けないか、探していた時のことです。いつもは、庭の花を描いていたのですが、病室に花はありません。
 その時、放課後児童クラブでアルバイトしていた頃に子供たちに絵を描いてあげていたことを思い出しました。
「先生、描いて。動物いっぱい描いて。」
 一年生の女の子の声が記憶の底から蘇ってきました。
(描けるかな?)
 正直、不安でした。2カ月近く寝たきりで、字すら書けなくなっていました。それを少しずつ練習し、書け出したところだったのです。
(絵なんて、とても無理かもしれない、もう、まともな線なんて描けないかもしれない…‥。)
 でも、描いてみたい、また、前のように描けるようになりたい!
という気持ちが押し寄せてきて、「よし、描いてみよう!」
と、ペンをとったのです。
 最初おずおず、ゆっくりと。線が歪んで、それでもめげずにうさぎの絵を描きました。うさぎは、細くなってしまったけれど、思うまま、上手でなくていいから、好きなように描こう、と自分を励まし、描いていきました。
 大きなケーキの絵も描きました。たくさんの動物たちが楽しそうにケーキを囲んでいる場面が出来上がりました。
「できた!」
 描けないって諦めなくて良かった! 私にも、また、絵が描けるんだ!!
 嬉しくてニコニコしてしまいました。
 入院するまでの私は、本当の自分の絵を描いていなかったように思えました。伊藤若冲や堀文子、小倉遊亀さんたちの素晴らしい絵画に圧倒され、追い求めているばかりでした。どんなに描いても描いても自分らしい望む絵になりませんでした。
 でも、この時描いたうさぎの絵は、まさに自分以外の何者でもあり得ない、たった一枚の絵に思えました。
 そして、わかったのです。
『目をつむっていても、すらすら描けちゃうよ、苦もなく描けてしまう』絵こそ自分の絵なのだと。
 私は今、うさぎちゃんの絵とお話を描いて(書いて)います。 
 あの頃、私に「絵を描いて。」と言ってくれた女の子たちは、すっかりお姉さんになってしまったけれど。あの女の子たちに届けたくて、描いています。今でもあの心を持っている人に見て読んでもらいたいです。


『大きなケーキ』

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