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38年前の8月12日に思いを馳せて~『フェイクスピア』と『兎、波を走る』

※2年前に上演された『フェイクスピア』に関しては、過去作品ですので、思いっきり重大なネタバレをしていますが、現在上演中の『兎、波を走る』については、抽象的表現で少~しネタバレかも? 程度です。



8月12日。
38年前のこの日に、日本航空ジャンボ機墜落事故が起きました。乗客乗員524人のうち死亡者数520人、事故現場は凄惨を極めたと言われる、史上稀な大事故になってしまいました。

日本の現代演劇を引っ張ってきたリーダーの一人である野田秀樹氏が、この題材に果敢に挑んで作り上げたお芝居があります。
2021年5月から7月にかけて上演された『フェイクスピア』です。
私は、劇場での観劇は叶いませんでしたが、WOWOWで放送されたものを、今年の6月に拝見。内容について全く白紙の状態で観たので、大きな衝撃を受けました。
今日、改めて録画を観ましたが、終盤の、ボイスレコーダーに残された声をそのまま引用した「コトバの一群」には、思わず体が硬直し、胸にズドーンと来ます。
高橋一生さんと橋爪功さんの「親子」感の変遷に、白石加代子さんのイタコ見習いっぷり、アンサンブルの方々に至るまで全員の作品世界への没入…。
忘れがたい印象を観る者の心に刻み付けました。


そして、この夏に上演されているNODA・MAPの新作『兎、波を走る』が、これまた『フェイクスピア』に勝るとも劣らぬほどの鮮やかな一撃を観客にくらわせる作品なのです。

こちらも出演者・スタッフ全員一丸となって作り上げている舞台。とりわけ高橋一生さんの葛藤が伝わる演技と抜群の身体能力、松たか子さんの包容力と悲しみの表現、多部未華子さんの澄んだ声の魅力が素晴らしかったです。


・古今の名作の設定や台詞、イメージからの自在な引用による、換骨奪胎の構成
・力が抜けるような駄洒落から高度なアナグラムまで、言葉遊びの洪水
・役者陣の身体能力の高さを生かした動き
・八百屋舞台、合わせ鏡、映像、凝った美術・装置を駆使したビジュアル
・観客を虚実ないまぜのファンタジックなジェットコースターにのせ、思いもよらぬ着地点につれてゆく手腕
・時事ネタを縦横に絡める大胆さ
・未解決だったり、中途半端に置き去りにされている社会問題をメイン題材に据える気概

こうした野田作品の醍醐味を存分に味わえる2作品です。
私にとって野田地図は観ず嫌いの分野だったのですが『フェイクスピア』をWOWOWで、『兎、波を走る』を劇場で観て、ついに野田ワールドの魅力に開眼してしまったかも??

いろんな意味で、エンタメは単なる娯楽ではないと、改めて思うのでした。


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