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私が水戸ホーリーホックを応援するようになって 彰往から考来へ 5

第5章 考来編


 過去の事柄を書き留める,「彰往」は前回で終わり,水戸ホーリーホックに対する自分のこれからの姿勢(考来)をいよいよ考えてみることにしよう.

15. 1サポーターとして旧所属組織への爪痕


  退職して2年あまり,たまに用事で職場に顔を出しても,「まだ来てるんですか」と,あからさまな態度を示す教員すらいる中にあっても,応援活動を覚えてくれている職員さんなどは,笑顔でホーリーネタを振ってきて,しばし談笑することができる.カフェの店員さんなども懐かしがって声をかけてくれ,最近の水戸ホーリーホックの状況についての話題がひとしきり.日常の情宣活動は正直薄れてしまってはいるが,それも含め,良いことも寂しいことも皆,現実で,先ずは受け入れて,さて如何するか?自分の努力でできることはあるのか?と,冷静に見てみる.やはり,部外者であることを踏まえれば,こちらからの働きかけはかなり慎重にするしかない.いつか,今の構成員の方が,現状をしっかり見直し,組織間の関係において,新たな一歩を真摯に検討し,前進させてくれることを信じて待つしかないのであろう.こちらから,頼まれもしないことに出しゃばるべきではないのだろう,と思う.

16.スタジアムの友はセーフティネット


 退職直前に,「退職すると,体や精神に変調を来す人が意外と多いので,注意した方が良いよ」と複数の方々から忠告された.そんなものかなあ?と思っていたが,何となく納得できるような境遇を体感することができた.自分が教授であり,その属性に利用価値がある,と思って付き合っていた人間が,うすうすは感じていたものの,あからさまに態度を変える.当然なのではあるが,少なからず不信感を覚えた.雑務を含む業務に追われ,黙っていてもすべきことが降ってきた環境から,何も用事がない,あてにもされない,と言う状況に身を奥歯か急変すると,人間,拍子抜けをしてしまう.たまさかそこで,以前のようなことを使用と働きかけると,「何を辞めた者が,物欲しそうに!」みたいな対応をされる.これ,結構応えるものかもしれないなあ,と.
 しかしながら,スタジアムに行く,あるいは行かなくとも,クラブスタッフやサポ仲間とお話をする.そうすると,そこには,以前と同じ,サポーターとして変わらない自分を,普通に扱ってくれる空間,社会がある.なんとありがたいことか!水戸ホーリーホックというプラットフォームで知り合った,仲間となった人たちは,私が現役だろうが,年金生活者だろうが,そんなことは関係なく,一人の「おっちゃん」として普通に対応,相手をしてくれる,以前と全く同じ目線で.これは,退職して周囲の環境が激変した私にとって,有り難いセーフティネットとなっていたのである.応援ネットワークがセーフティネットに(*^^)v
 スタジアムばかりではない,水戸ホーリーホックで知り合って,共にサッカー関連の行動を起こした人たちは,今でもまるで戦友のような信頼関係が保持されている.2015年10月に実施したReMito100の92,「街の名を記したプロスポーツクラブの役割を考える」で,大塚巌シェフの音頭で,クラブではなく,市民が自発的にイニシアチブを握ってブラインドサッカー体験を催したことは,今でも,水戸ホーリーホックの将来的可能性の先取りだと思っている.市民有志が企画したものを,選手,クラブに直接談判して協力を頼みこんで,それに応えた選手達やクラブが全面協力をし,目隠しサッカーによって初めて見えてくる,人の絆を,文字通り肌で感じたものである(今から見るとかなり乱暴なクラブへの応援要請ではあったが).
 今のクラブ組織になると,手続きとかも組織として必要だろうし,クラブ側の嗜好,都合なども重要なのだろう.しかし,ともすると現状では(最近,大豆タンパクのハンバーグという企画が小学生さんから出た,と言う朗報を聞いたが,圧倒的主体は),サポーターはクラブの用意した様々な,良くできたメニューを有り難く買ったり,いただいたりする,受動的満足感を享受するケースが少なくない気がする.そうではなく,市民クラブの理想型は,市民からの自発的働きかけをクラブ側が前向きに受け取り,それを実現させる手助けをするのが,クラブやスタッフの本来的役割,と言うのものではないだろうか.このイベントは,クリアソン新宿に入った岡本達也が,ブラインドサッカーを通じての自己啓発,啓蒙活動をやっているのを知った我々が,ブラサカを通じての町おこし,そこにホーリーの選手を連れてきて,彼らと一緒に,プロであっても初心者としてブラインドサッカー一緒に体験しよう!ということに.その当時,岡本達也と親交があり,同じジュビロユースで,寮が同室だったという因縁を持つ船谷圭祐,ガイナーレ時代のチームメートの田中雄大,更に,地元出身のレジェンド本間幸司,そして,田向泰輝,そうそうたる選手達が全面協力をしてくれた.この時,後に2020日本パラリンピック代表となる寺西一選手がデモンストレータとして参加していた.共に準備から実施まで働いたボランティア仲間は,いまだに,水戸ホーリーホックのサポーターとして仲間でもある.私は,前例もない,結果もやってみないと分からないようなものに対し,志を共にする仲間とチャレンジしていくことに,言いようもない「ちむどんどん」を感じるのである.
 ネットワークといえば,最近はネットを通じての対人問題も他人事ではなくなっているが,やはり便利な側面も否定できない.SNS発信が水戸ホーリーホック情報網でも,主要な情報連絡ツールとなっていることは事実である.確かに速報を広く共有できる利点は一体感を醸成しやすい長所をもっている.しかし,ともするとSNSあるあるの状況,言うなれば,(クラブにとって)都合の良い情報がもてはやされ,批判的なコメントはイケイケ書き込みに駆逐される,そんな状況も,(一歩間違うと)陥りやすいことを,発信する側も,受信サイドもしっかり認識しておく必要もあるだろう.人間,好意的なコメントは吹聴したがるし,批判されて愉快な人はほとんどいないだろう.しかし,クラブは本来皆のもの,クラブを愛するいろいろな立場の人間が自由闊達に意見を戦わせ,相互理解を深め,クラブの方向性は決められて行くべきで,現クラブスタッフの旗の下に無批判に付き従う人だけが「良いサポーター」とされるのは,必ずしも善とは思わない.議論を十分に戦わせ,相互理解を深めることこそ市民クラブの基本と考える.この目的をクラブとして継続,発展させるためには, SNS経由のやりとり主体で推進しようとする手法は,落とし穴があることも心得ておきたいものである.サポーターはクラブの応援サイドの当事者であって,フォロワーではないはずである.

17.孫世代のサポ友たち


  コロナ禍での不自由な応援も3シーズン目の終盤にさしかかり,ようやく声だし応援が「検証」のためと称して行われるようになってきた.声援,チャント,やはり一体感が重要となるスタジアムに欠かせないものである.退職して3年目,たまに非常勤の仕事が入ることもあるが,職業として,「先生,教授」と呼ばれることはまずほとんどなくなった.代わりにスタジアムで,多くの子供サポさん達にニックネームとして「せんせ〜」と呼ばれること,結構増えてきたのは,正直嬉しい.孫ほども歳の違う子供さん達と同じ場所で,ひとつのチームを応援し,喜んだり,悔しがったり.ゴールを決めた,勝った,となればハイタッチならぬ,グータッチ!大体が家族総出で応援に来られているので,ファミリー一緒に友達にさせてもらえる.SNSで繋がったサポーターファミリーもあれば,私がたつて所属していた学科の卒業生家族もいる.オール茨城大学応援デーがきっかけでスタジアムに来るようになり,やがて結婚してお子さんができると,家族で観戦に来る.茨城大学大旗を見つけてご挨拶に来てくださる!素晴らしい繋がりだと思う.
 現在は自分担当の大旗1つを振るのが精一杯なため,仲良くなったご家族に茨大フラッグL(一応規則ではどこでもいつでも振ることが可能となっている)をお渡しして,振っていただいている.お子さん達は旗を振る行為って,結構楽しいらしく,サイズ的にちょうど良い,このフラッグLを一生延命に振ってくれる.私は,こうやって彼らが慣れてくれれば,いつかはやがて大旗の振り手に!などと想像をしては,その実現を夢見ている.今,実の孫はいないが,スタジアムに行くとサポ孫はどんどん増えている感覚がある.また,自分がサポーターになり始めた頃に仲の良かったサポ友さん達,当時小学生だったお子さんが,今やすっかり大人になっていて,向こうから声をかけてもらって,名乗っていただいて初めて判る,なんてこともしばしば.非日常空間とは言え,知り合った人たちは決して仮想の友達ではない,そこには現実の人間づきあいがある.サポ孫達の成長が楽しみなサポ爺である.


スタジアムで知り合った孫のようなサポともくん兄弟(*^^)v

8.フットボールクラブは街の人々が出逢えるプラットフォーム


 セーフティネットのところでも触れたが,大学の教員の世界に浸っていたら,そして,サポーターでなかったら,今,大切な友人として付き合っていただいている方の中の,少なからぬ人とは,知り合うこともほぼなかったと思われる.そんな人たちと,このクラブを応援すること,その目的で巡り会い,,一緒に悲喜こもごもの体験ができ,やがてはスタジアムを離れた,もっと広く深い領域でお付き合いをさせていただくようになる.この事こそ,J-リーグ百年構想の「芯」だと私は思う.水戸ホーリーホックはもとより,もっと広く「フットボール,そしてスポーツによって街の活性化を結びつけていきたい,」という気持ちを持った街の人との様々な企てには,歳をとった私でさえウキウキする.
 また,つい最近のことで,知的好奇心をくすぐることが,水戸ホーリーホック関係で起こったのである.当クラブのパートナー企業となったJX金属から,ふとしたきっかけで,全く予期もしていなかった,地学,金属鉱床学的な興味を喚起されることがあり,学部生時代以来数十年ぶりに,銅鉱床の成因について,専門家とお話しできる,という幸運にも恵まれた.
 これに限らず,実に様々な能力,才能を持った人々と,サッカー応援を通じて知り合い,また,友好を深めていく,さらには力を合わせて何かをやっていくことができるのである.


 こうしたメリットは,個々人の日常生活をより幸福にする効果を生むことはもちろん,構築される人的ネットワークが,街や組織の活性化や構成員の意見交換の潤滑化,合意形成への地ならしなどにおいても,良好な効果を及ぼす期待は決して小さいものではない..
 我が街のチームをひたすら応援し,勝てば喜び,負けると悔しがる.その単純明快な行為こそが,多様な考えを持つ人々の心を開かせる,マインドオープナーの役を果たすのだろうと考えられる.

19.さあ,前を向いて進もう,光掴むまで


 先ずは,素直な心で,子供達のような気持ちをもって,この街の誇り,ヒーローを応援していこう.水戸ホーリーホックは昇格どころか,プレーオフ圏内にも入った経験が一度もない.J1企画のスタジアムもいまだ絵に描いた餅である.しかし,一度もJ3降格も経験しておらず,J2の番人とも呼ばれる立場にある.この立ち位置をまず虚心坦懐に認め,ここからどう上を向いて進もうか.課題も山積であるが,しかし,伸びしろもたくさんある,そんなクラブである.未完成であるが故に,共に作っていける楽しみもあるだろう.
 大きなメリットは,クラブ誕生以来,選手とサポーターとの距離がずっと近い状態で来たこと.これは,クラブやチームの成長を,我が事として捉えることができることでもあり,完成した,大企業の子会社のようなクラブチームでは,まず考えられない.クラブとサポーター,そして選手.お互いに意見を戦わせ合い,少しずつ理解を深めていくという,極めて民主的な運営がやりやすい伝統が,このクラブには,ある.
 上意下達ではなく,サポーターからのボトムアップで,様々な楽しいことや,夢を実現できるキャパシティーが,このクラブには脈々と繋がってきているはずである.だから,これからも,多くの先輩サポーターがやられて来たように,寛い心で,もっと広く,多様な人たちを受け入れていけば,今よりも更に,経済的にも心理的にも,無理や,やせ我慢をすることなく,もっともっと楽しくサポーター活動ができるようになるだろう.そうなるポテンシャルはこのホームタウンには十分にあると思う.
 これからこのクラブが真にホームタウンに根付き,成長していけば,やがて花咲き,長いプロセスが集約されて,実る日が来るだろう.その時に,我々はJ1の舞台に立つ水戸ホーリーホックを,葵のご紋ゆかりの地で目撃することになるはずだ.焦ったり慌てることはない.一歩一歩,着実に仲間を増やし,信頼の絆を深めていこう.夢が結実する,その日を信じて.さあ,前を向いて進もう!水戸を愛する俺等の声が聞こえるだろう!
 シリーズ終わりに: 永いこと,お付き合い頂き,ありがとうございました.今度は別のタイトルで書きますね,いつか.


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