賢いIMFはまた外すか

国際通貨基金は、23年の世界全体の実質経済成長率を2.9%と予測した。特にアメリカは1.4%、日本は1.8%と先進国のなかで強気である。これは直近の堅調なアメリカの経済や、暖冬により欧州のガス危機が杞憂に終わったこと、中国のロックダウン解除からの回復などの要因を反映したもの。

しかし、IMFやFRBは重要なときにこそ予測を外すことに歴史的定評がある。2008年も経済成長率は堅調であると当初予測していたし、昨年のノーベル経済学賞を受賞したバーナンキは住宅債務は金融システムに波及しないと述べていた。

そこで、アメリカ経済は23年に不況入りすると前提を置いたうえで、その材料を探すことによりIMFの予想に反論する。もちろん将来のことは確率的にしかわからないが、マーケットは楽観を織り込んでいるため、IMFの予想が悪い方に外れた場合の期待利益は大きい。

①アメリカの貯蓄は既に底をついている
下のグラフは、アメリカの家計に対する貯蓄率の推移である。統計的平均であるためバラつきが隠れているが、家計はコロナショック後の給付金で一時的に急激に潤ったあとで、リベンジ消費とインフレによってその貯蓄をすり減らしている。収入に対する貯蓄率は、リーマンショック前の水準であり、過去の歴史をたどっても最低水準である。

出所:https://fred.stlouisfed.org/series/PSAVERT

②アメリカ人は金融危機から学んで、無理な借金をしなくなった
→つまりインフレ下の買い控えが起きる
以下は、同じくセントルイス連銀によるGDP対比の家計債務である。リーマンショック前までGDP比100%に達していた家計の債務は、10年以上かけて70%まで減少した。
これは倫理的には、人々が借金を返しているため好ましいが、マクロ経済的に誰かの借金は誰かの所得であるため、借金が減ることは所得が減ることを意味する。そのため、アメリカ経済は2015年になってようやくゼロ金利を解除するほどに回復が遅れた。
そして今、クレジットカードの金利は急激に上昇しており、かつインフレも進行中である。これまで世界にデフレを輸出していた中国の安価な労働力の供給が止まることになれば、インフレは2%まで鎮静化することはなく、FRBも金利の引き下げに踏み切りにくくなる。
その結果起こるのは、インフレと金利高に対して家計が財布のひもを更に固く締めることである。それは、長引く不況を意味する。

出所:https://fred.stlouisfed.org/series/HDTGPDUSQ163N

③マーケットは依然としてリスク許容
では、不況のリスクをマーケットは織り込んでいるのかというと、ほぼ織り込まれていない。マーケットの今のテーマは、年後半からの利下げを織り込んだ株高である。
実際、マーケットのリスク許容度を図るハイイールド債と国債の利率の差をみても、過去の頻度パーセンタイルで40%である。この水準は21年のような強気ではないものの、不況を織り込んだ水準でもない。そのためマーケットが悲観になる余地は十分存在している。

出所:https://fred.stlouisfed.org/series/BAMLH0A0HYM2

④結論:リーマンショック時の力学がこれから働く

リーマンショックが起きたからくりは、住宅ローンに対して本来借金ができない低所得の人たち(サブプライム)に対して最初の2年間は固定の低金利で引き寄せたものの、その後に金利が上がったことで債務が焦げ付いたというものである。
一方で今アメリカで起きているのは、コロナショックでアメリカ政府が大盤振る舞いの小切手を切ったものの、その後に40年ぶりのインフレと金利高が訪れたという状況である。住宅ローンと家計所得の違いはあるが、当初の甘い前提が短期間でひっくり返っている点では共通している。
そして①~③の状況を踏まえると、消費は今後冷え込む可能性が高く、その消費の減少がマーケットに波及した場合のインパクトも大きい。IMFのように楽観する気には、筆者は全くなれない。

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