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「二十五、二十一」のトンネルから抜け出せない話(なぜこんなにも‟エモい”のか①)

 唐突な自分語りになるが、私の韓国ドラマにおける最推し作は『二十五、二十一』(2022年)だ。

 エンタメという視点では『彼女はキレイだった』や『ユミの細胞たち』、『怪物』や『秘密の森』なども捨てがたいが、最終回視聴後1週間も余韻が続き、1つ1つのシーンを思い出すたび、また、OSTのメロディを聞くたび、パブロフの犬のように無条件に涙があふれてくるという体験をしたのは、日本ドラマにおける個人的最推し作『Nのために』(2014年)以来である。

 見終わった直後の私なら、たぶん、このサムネイルだけで泣いている。




 
私の琴線に触れる作品のキーワードは、どうやら‟エモさ”のようだ。

 果たして、太字にする必要はあったのだろうか。

 若者に迎合したうえ、すでにちょっと古さすら感じる‟エモい”という言葉を使うのは若干気恥ずかしいが、そこは年々他者の視線に鈍感になっていく熟成年代だけに、もはや怖いものはない。

 でも、やっぱり‟エモい”を連発するいい年のオトナって、控えめに言ってけっこう気持ち悪いよね。
 なんか、あんまり豊かな人生送ってきてなさそうな感じ、するよね。

 ‟エモい”はたしかに『二十五、二十一』というドラマを端的に表す言葉であることは間違いない。しかし、妙齢の大人である以上、このドラマのエモさの根源を自分なりにきちんと言語化しておきたいと思い、この記事を書き始めた次第である。

 古今東西、数限りなくつくられてきた青春モノ。つまるところ、エンタメ作品自体がいかにたくさんの視聴者を‟エモーショナル”にさせるかということをあの手この手で追及する構造になっているわけで、経験の差こそあれ、多くの人々が通り過ぎてきたであろう「青春」という限られた時間、ただでさえエモすぎる(また使っちゃった)この普遍体験とエンタメ作品の相性は、そもそも抜群といえる。

 しかし、それがゆえに、めちゃくちゃこすられまくってきたカテゴリーでもあり。視聴者に新鮮な驚きを感じさせるハードルは、否が応にもかなり上がってしまっているのではなかろうか。

 だって、「いまが楽しけりゃいーじゃん!」がモットーの刹那的ポジディブ思考なアメリカン(完全なる偏見)でさえ、古くは『スタンドバイミー』からバズ・ラーマン版『ロミオ+ジュリエット』、そして『ラ・ラ・ランド』など、懐古的青春映画をたくさんつくっている。ノスタルジックな青春モノになぜか惹きつけられてしまう人のサガというのは、時代を問わず、万国共通なのかもしれない。

 そして日本人にもまた、遺伝子レベルで刷り込まれている「琴線に触れる情景」や「モノ」、「音」や「におい」があると思う。

 例えば、季節でいえばやっぱり夏。軒下で揺れる風鈴、夕暮れどきの校庭、どこか寂しげに鳴く日暮らしの声、夜のとばりが下りる直前の雨上がりのアスファルトのにおい――。

 ほら、米津玄師のような歌詞やメロディが浮かんでこない?

 2022年、コロナ禍真っ只中で制作されたこの韓国ドラマ『二十五、二十一』からも、こうした日本人的ノスタルジックな文脈を感じ取ることができるのが非常に興味深い。

 そういえば、韓国では少年と少女の邂逅と別れを描いた『ソナギ(夕立)』という短編小説が甘酸っぱい‟初恋”を想起させる物語として広く知られており、教科書にも載っているとか。その切ないストーリーラインに加え、とりわけ‟2人が雨やどりをして距離を縮める”という場面が韓国人の情緒を震わせるルーツになっているそうで、だから韓国制作の作品にはしばしば、というか、ほぼ十中八九、雨のシーンが登場するんだなと合点がいった。

 韓国の国民的清楚系女優ソン・イェジンを世に知らしめた映画『ラブストーリー』(2003年)はこの小説をオマージュしている点がたくさんあるそうだ。確かにこの作品の情景は日本人の私にも同様にぐっとくるものがあるから、やっぱりアジア人に共通する‟切なセンサー”みたいなものがあるのだろうか。世界の民族の琴線に触れるルーツを比較する論文なぞ、誰か書いてみてくれないか(他力本願)。
 ちなみに、この作品のチョ・スンウはマジで凄い。たぶんまだほぼ無名だったと思うのだけど、すでに演技力がチート。

 とにかくさまざまなパターンの濡れ場(言い方)が登場する韓国ドラマだが、『二十五、二十一』も例にもれず、後にソウルメイトとなっていくナ・ヒドとペク・イジンが夜の校庭で無邪気に水を掛け合い、心を通わせるシーンがある。
 ある意味おなじみのシチュエーションではあるが、なんせ映像と演出がすばらしい。この時点で傑作の予感をびんびんに感じるほど、抜群に美しく、印象的なシーンとなっている。

 前置きが長いって? やっぱりこの作品のエモさを簡潔に言語化するのは難しい。

 ②に続く…かもしれない。













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