健康診断の日

健康診断の日、バリュウムに気を取られてすっかり忘れていたが、血液採取があった。

「はい、次の人」
注射針と採取し終わった血液の並んだ机に座ったベテランっぽい注射手がこちらを見て促す。
問診票を渡すと、
名前を問われて
「はい」
と答えた。
「右左どちらでも好きな方の腕を出してください」
(注射されるのに好きな方の腕なんかあるものか)

小学生の頃から注射は嫌いだ。
といっても予防注射の日に休んだり泣いたりするような弱っちい奴ではない。
常に平気なふりをしてきた。
いつかきっと平気になるのではないかと期待していたが、長じて大人になって随分経つが、何故かまだ苦手のままだ。

今日は突然現れた注射を前に、心の準備のないままこの椅子に座ってしまった。

左の手をすっと差し出した。
とにかく、苦手が気取られないようにすることが肝心だ。

ゴムバンドをされる。
足がばたつくのを抑える。
ひんやりとしたアルコールに息を止める。
注射手は手際よく脱脂綿を缶に捨てて次の準備をしている。
動揺が気取られてないことにほっとする。

彼女は注射針を持って言い放った。

「目、つぶっててもいいですよ」

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