見出し画像

【10回連載小説】タケルとスミカ(8)

【タケルとスミカ①】
「遅いよお。どんだけ、人を待たせるのよ!」
「ええ、だって、スミカ、第一って言ってたぜ。だから、第一で待ってたんだよ。」
「第一?私が第一って言ったって?そんな訳ないじゃん。私、第二のスーラータン麵が食べたかったんだもん。それに、私、口頭では言ってないよ。メールで言ったじゃん。」
「だから、そのメールで!第一って、言ってるよお。」
「ええ?見てみる。あっ、ホントだ。でもねえ、その後に、スーラータン麺食べたいって、書いてるじゃん。第一は、中華、やってないよ。」
「そう!だからさあ、迷うじゃん。スミカが第一って言ってるのに、第二では待てないよ。」
「スーラータン麺って、書いてるのに?」
「俺は、第一の方を取ったの!まあ、いいや。腹減ったから、食おうぜ。」
「いいけどさあ。アンタ、その組み合わせ、こないだ、私と行った時に買ったシャツと、パンツだよねえ。」
「そう。」
「何で、シャツをインするの?ダサいったら、ありゃしない!あーーー!また、ボタン、掛け違えてるう!早く、直しなさいよお。」
「ええ?違ってたかあ?ヤベエ、俺、朝からずっとだよ。」
「あれ?シャツの中に着る一緒に買ったTシャツは着てないの?」
「着てない。今日、暑いじゃん。」
「ええーーー!ダサいんですけどお!もう、仕方ないから、まず、ボタン、直しなよ。それで、シャツの裾、出してね。」
「シャツの裾、出すと、パタパタするじゃん。あれ、俺、嫌いなんだけどな。」
「嫌いでも出すの!」
「何で?」
「ダサいから。でも、あのショップで試着した時より、何か、ダサいんだけど…何でなんだろう?あーーーっ、分かった!パンツの裾よ!」
「ズボンが、ダサいのか?」
「そう!それ、アンクルパンツなんだけど、アンタ、足長いから、裾がふくらはぎのとこで…おまけにふくらはぎが、筋肉がすごくて、パッツン、パッツンじゃない。何で?」
「何で?って、何がだよ!俺だって、これ、履きにくいんだよ。何か、ふくらはぎが締め付けられてるみたいで。でもさあ、楽な服着て、大学に来ようとすると、スミカ、怒るだろう?だから、仕方なく、着てんの。まあ、いいじゃん。ホント、腹減ってるんだよ。飯食おう。」
「まあ、いいわ。じゃあ、行こう。あの中華の店でいいよね。」
「ああ、俺も、麺を食うわ。」
「スーラータン麺は、ダメよ。私のだから。」
「一緒のは食わねえよ。」
「じゃあ、何、食べるのよ?」
「担々麺!」
「ダメよ、担々麺なんて!絶対、ダメ!」
「何でだよ?俺が何食おうと、勝手だろう?」
「ダメ、ダメ!アンタ、今日のシャツ、見てみなさいよ。何色?」
「白。」
「ほらね。担々麺なんか食べたら、シャツの前、どうなる?」
「オレンジの水玉模様ができる。」
「ね?」
「分かったよ。チャーハンにするよ。」
「正解!」
「じゃあ、食券、買いに行こう。」
「食券は、タケルが買って、店に出してきてよ。私、席、取っとくから。」
「また、お前、自分だけ!」
「いいじゃん。」
「分かったよ。買ってくるよ。」
 
「お待たせ。」
「お待たせって、待たせ過ぎよ。スゴイ、待った!」
「だって、しょうがねえじゃん。今日、何か、みんな、中華の日なのかな?スゲエいっぱい、並んでて。これでも、頑張った方だよ。おかしいよな、第二つったら、大体みんな洋食でしょう?男はみんな、A定食だろうし。」
「ああ、A定食かあ。あれ、何で、そんなに人気なんだろうね?」
「コスパがいいからじゃない?ハンバーグに、小さいグラタンと、カニクリームコロッケと、スパゲティまで載ってて、630円は、安いもんな。俺は、ハンバーグが小さいから、あまり好きじゃないけど。」
「グラタンも、カニクリームコロッケも冷凍でしょう?」
「まあ、そうだろうね。」
「カニクリームコロッケなら、ウチらの家の近くのオレンジのヤツが一番美味いよ。」
「ああ、あそこのマスターの手造りのヤツだろう。あれ、美味いな。だいぶ、行ってないけど。」
「そうなん?私、家族でこないだ、行ったよ。じゃあ、今度、一緒に行こうよ。」
「一緒にって、あそこ、高いじゃん。カニクリームコロッケだけで1500円もするんだぜ。」
「それは、今度、私のカテキョーのバイトの給料が入ったら、ご馳走するよ。」
「マジ?じゃあ、行く。」
「タケル!」
「何だよ?」
「勝手に、醤油ラーメンの半チャンセットにしたでしょう?」
「ああ、だって、チャーハンだけじゃ、ちょっと物足りないかなって。」
「ああ、そう。じゃあ、シャツに茶色いしみ、たくさん作るのね?」
「いや、飛ばさないように食うよ。」
「そんなん、絶対に無理だって。いいわ、私の大きいハンカチ、貸したげる。それ、前にかけな。」
「ええ?それはハズいじゃん。」
「今、ハズくても、後でしみつけたまま、講義に出るよりはましじゃない?」
「そうか…分かった、借りるよ。」
「よろしい。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?