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【10回連載小説】タケルとスミカ(1)

【タケルのターン①】
俺さあ、我ながらよく頑張ったと思うんだよ。
何しろ、数学が赤点だらけだったのにさあ、受験の時には、読みが当たりまくったんだよなあ。
 
お陰で、難関の国立大学の医学部に晴れて合格!
今年の春から1年生だ。
 
いや、奇跡だよねえ。
俺、高校3年の夏前までは、野球一筋だったんだ。
ピッチャーでさあ、一応、エースだったんだよ。打つ方はダメだったから、ずっと9番だったけどね。
俺、左利きなんだ。
背も高いから、上から投げ下ろすと、俺のそんなに速くない球でも、振り遅れちゃうんだよなあ。
だから、割と簡単に空振りが取れちゃう。
でもねえ、相手が俺のフォームに慣れだしたら、もうダメなんだよ。いきなり大きいの打たれちゃうんだ。
夏の甲子園の県予選でも、ベスト16までは行けたんだけどなあ。
準々決勝で、負けてしまった。それも、11対2のボロ負けだぜ。
泣いたよなあ。ホントにびっくりするぐらい、あっさりと涙がどんどん出てくるんだ。
息ができないぐらいに嗚咽してね。
ダッグアウトの前で、一人で四つん這いになって、ワンワン泣いた。
 
で、その翌日から、急に予備校の夏季講習を受けたんだ。
最初はね、どの教科も何やってんだか、何話してんだか、さっぱりだった。
まるで、日本語じゃないみたいだったんだよ。
こんなのヤバいじゃん。だから、幼馴染みで俺の自慢の秀才、スミカに、恥ずかしいけど、予備校の授業の翻訳をお願いしたんだ。
その夏季講習も、スミカが行くと言うから、俺も予約して、行く事にしたんだ。
スミカと同じ授業を受けたんだよ。無謀にもね。でも、全然、授業の内容なんて分かりゃしないんだよな。
だから、授業の後、スミカん家に寄らせてもらって、2時間がかりで説明を聞く事にしたんだ。
ヤバいよ。数学と理科は。全然、分かんなかったもん。
 
国語も大変だった。現代国語はまだしも、古文や漢文はからっきしだし、古文って言えばさあ、俺、歴史が本当に苦手なんだよなあ。あれさあ、必要ある?いろんな出来事の年代を暗記する事さあ。何かさあ、歴史って、後付けじゃん。だいぶ経ってから色んな学者が、色々と名前を付けたりしてさあ。ホントに意味があるのかなあ。俺は、あんま、意味ねえと思うんだけど…
歴史の暗記をやってるとね、いつもそんな事、つい言っちゃうんだよ。そしたらさあ、スミカに「その言い草は、受験する気のない人、負ける事が分かってる人の言い訳よ。」って、叱られちゃってさあ。
ホント、スミカは、勉強にはキビシイんだよあ。
 
スミカは、運動がまるでダメで、いつも見学ばかりしてる子だったんだ。
赤ちゃんの時に喘息だったとか、言ってたしね。
 
スミカとは、幼稚園の時から一緒だった。
家は少し離れてるんだけど、幼稚園のバスを一緒に待つぐらいの距離だった。
 
スミカは幼稚園の時から、外遊びよりも教室で本読みを聞いたり、ビデオを見たり、お絵かきをしたりするのが好きだった。
考えてみれば、あん時からもうすでにスミカは、スゲエ頭が良かったじゃないかなあ。
じゃないと、あんな高得点で大学、通らねえよ。
ホント、スミカのお陰で俺も同じ大学に通れたと思ってる。
持つべきは、幼馴染みの親友だね。

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