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【10回連載小説】タケルとスミカ(2)

【スミカのターン①】
私さあ、なんかイヤなんだよねえ。腑に落ちないって言うか、納得できないって言うか…
何で、タケルが一緒の大学なんだよって、思っちゃう。
アイツ、勉強、まるでダメだったんだよ。ホントにバカで。
去年の夏から冬まで、ずっとアイツの勉強に付き合わされたんだよ。ホント、いい迷惑。
でもさあ、不思議と通っちゃったんだよねえ。私と同じ大学。しかも、同じ医学部。
 
アイツ、チャラ男だからイヤなんだよ。
野球部の時はさあ、1年下のマネージャーと付き合ってたとか、付き合ってなかったとか、言ってさあ。
卒業式の時なんて、最悪だよ。アイツが「一緒に帰ろう。」って言うから、下駄箱のところで待ってたんだよね。でね、アイツがなかなか来ないの。おかしいなあって思って、アイツの教室に行ったらねえ。アイツ、下級生の女の子に囲まれて、みんなから、手紙もらったり、記念撮影なんかもしちゃったりしてたんだ。
もう私、頭に来てね。「タケル!先、帰るよ!」って、言ったんだ。そしたらねえ、アイツ、どうしたと思う?「ああ、スミカ、今、帰ろうと思ってたとこだよ。ちょっとだけ、待って。」って、言ったの。でね、私と一緒に帰ったんだ。ね、アイツ、チャラいでしょう?
 
大学でも一緒になるなんて、全く思ってなかった。
予想外も予想外。
確かにさあ、夏の予備校の特別講習からは、私に叱られながらもさあ、よく頑張ったんだけどね。まさか、ホントに通ると思ってなかったもん。
 
入学式の前にさあ、「スミカ、何、着ていくの?」とか、訊いてくるんだ。おかしくない?アイツ、男だよ。私は女だから、色々、着れるけど、男なんてさあ、大体スーツじゃない?まさか、紋付き袴とか、ヤンキーの成人式みたいな恰好で行く人もいないでしょう?だから、言ったんだよ。「私は、着物に袴姿だけど、アンタは、スーツでいいんじゃないの?」って。そしたらねえ、「それは分かってるんだよ。俺が訊きたいのは、スミカの着物の色だよ。」って言ったの。「何で、私の着物の色が知りたいの?」「だって、一緒に行くから、せめて、シャツやネクタイの色を合わせようかなと思って。」って、言ったんだよ。ビックリだよねえ。ホント、驚く。
 
ホント、イヤなんだよなあ、アイツと同じ医学部だなんて。私はさあ、中学の時からもう頑張ってたのに、アイツなんて、高3の夏からだよ。ホント、考えられない。
 
私はさあ、お父さんが家の1階で開業医やってるから、子供の頃から医者になるって、勝手に思ってたんだけど。アイツはさあ、お父さんは普通のサラリーマンだし、お母さんは小学生の塾の先生だし、医者になる要素、全くないはずなんだけどねえ。
 
アイツのせいでさあ、大学、入ってからも、束縛されて、ホント、大変なんだよ。オリエンテーションも一緒、チュートリアルも一緒、履修したら、一般教養の授業も一緒。だから、毎日、朝は、一緒に大学へ行ってんだ。
昼も一緒に学食で食べてね。でも、授業が終わってからは、別れる。私は家庭教師のバイトがあるんだけど、アイツは、大学の野球サークルに入っててね。もう、早速、人気者みたいなんだよ。コンパとか、合コンとか、盛り上げ役みたい。それもさあ、イヤなんだよねえ。そんなのされたら、私、一緒にいると、私まで軽いと思われちゃいそうで。私、そんな、軽くないし。アイツ、ホントに分かってんのかなあって、思っちゃう。
 

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