多摩美術大学統合デザイン学科推薦物語

ひょんなことから統合デザイン学科に興味を持ち、事前提出書類締切1か月前に推薦を決意した女の怒涛の1ヶ月間と企画構想のプレゼンテーションや面接での様子をまとめました。※これは統合の求める生徒像や過去問を知っている/見たことがある前提で体験記を書いています。試験を受ける上でタメになった経験、試験までの期間や受験中の雰囲気を知りたいという方向けです。

オラ、統合さ行くだ。

昔から絵を描くことが好きで、絵しか取り柄もないし、美大に行きたい。就職はしたいから修飾率の高いデザイン科を目指すか!となんとも芯のない理由で決めた美大進学。高1から河合美術研究所に通い、講師陣からもこのまま行けば多摩グラは範囲内と言われ、さて、エリート美大生街道、行きますか…。と調子に乗っていた高校三年の春。転機は訪れた。

待って、別に特段グラフィックが好きな訳じゃない。なんなら心理学部に行きたい。

事の発端はドクターストーンのあさぎりゲンとの出会いだ。元々好んで心理系の本を読んでいたが、そるに拍車をかけられてしまった。よし!そうと決まれば進路を変えたいと親に伝えなければ!と急いで帰路へと足を早めた。

「手に職がないと就職が難しい時代なのに、何言ってるんだ。そもそも自発的に学ばないと成果なんて残せないぞ。ちゃんと考えろ。」

親の判断は冷静だった。寧ろ、私が親だったら高一から長期休暇中の講習や通常講習の代金を既にウン十万費やしているのに今更進路を変えると高三の春に言われたら殴っているので、優しい一声だったと思う。しかし、まだ尻の青いガキンチョな私は分からずや!と臍を曲げ、泣く泣く心理学系の授業が取れないのかと多摩美のパンフレットを捲った。そこで見つけたのだ、生態心理の四文字を。だが、そこの科はグラフィック科ではなく、統合デザイン学科だった。そういえば予備校の講師が、おもしろい科が出来た。と興奮気味に話していたな、と頭の隅にいた記憶を引っ張り出した。しっかりと目を通すのは初めてで、見ればグラフィックの他にプロダクト、インターフェース、描写と色々な分野を満遍なく学ぶことができ、3年次に決めるプロジェクト専攻もなかなか色があって面白かった。それに、八王子という果てしなく遠くにあり急勾配に悩まされるキャンバスよりも、渋谷から30分と好立地にあるキャンバスに、帰りに遊びやすいじゃん!と心が惹かれた。こうして、私の心は統合デザイン学科に吸い寄せられていった。

志望を決意した瞬間、菅教諭による個別相談

この出来事が、私を完全の統合デザインの虜にした。菅さん、本当にありがとう!!!!2021年7月18日。運命の日である。この日は過ごしやすい気候で、赤髪にダル着という受験生として有るまじき緩んだ格好で多摩八王子キャンバスに足を踏み入れた。統合の展示はとても魅力的で、1年、2年、3年とスキルアップを重ねて卒制ではこんなに幅のある作品が揃うのか。と興奮しながら見たのを今でも鮮明に覚えている。チラリとグラフィックも覗き、ぎゅうぎゅうに混みあっている進路相談室を横目に統合の相談室へと走った。ドキドキしながら扉をくぐる。と、ガラーんとした室内。空いている1席の前で、カチャカチャと熱心にパソコンに向き合う人。これこそが、菅教諭だった。高校生にとって大学はとても敷居の高い存在である。そこに居る偉い人。そんなのはもう恐怖の対象でしかないのだ。恐る恐る菅教諭と向き合った。菅教諭の視線が、液晶から私へと移る。統合のことをパンフレット情報位しか知らず、推薦の知識や特色も殆ど知らない無知同然の私を前に、ピクリとも動かない表情。話をとめたらEND。暑さからではない汗が背中を伝う。

「課題が多いと聞いて、、」
「うちの科は多いよ。だってさ、自発的にできるんだったら大学なんて行かなくていいんだよ。でもさ、出来ないでしょ?数を重ねないと人って上達しないの。手を動かさないで上手くなるなんてないって予備校でも感じてるでしょ?」
「…..はい。」

え、何だこの人、めちゃくちゃ喋る。1聞いたら10、いや、それ以上が返ってきたのは、武蔵美やら多摩美やらの他の学科の個別相談をしてきて初めての経験だった。話が面白いな。これが率直な感想だ。ここで、話はデザインとは何かに移り変わる。デザインってなんだと思う?こんなことをただの美大志望の高校生に聞いてくれたのだ。そこでつまらない回答をする私。そんな私を気にも止めず、菅教諭は話を続けた。

「例えばこの仕切り。声が聞きにくいし、邪魔だと思わない?じゃあさ、どうしたら持っと聞きやすくなるんだろう、邪魔にならないんだろう。高さを変える?厚みを変える?どうしたらいい?こうやって、問題提起をして解決する。これの繰り返しがデザインなんだよ。」

あ、統合に絶対入りたい。心を射抜かれた瞬間だった。オーキャンの終わりを告げるアナウンスが流れる。私は、多摩美に背を向けた。高鳴る鼓動と興奮は、いつまでも冷めなかった。

予備校講師とのバトル

さて、統合を推薦で受けたい!と心に決め、いまこのnoteを読んでいる人には心当たりがあるだろう。そう、予備校側は進学実績が欲しい為、なるべく芸大や視デ、グラフといった有名どころを第一に受けて欲しいのだ。夏期講習を控え、改めて第一志望校を尋ねられる三者面談。私は講師の前に腰掛けた。

「私、統合第一にしました。推薦受けたいです。なので、落ちたら一般を受けるけど視デは受けたくないです。情デも。グラフは試験の雰囲気に慣れるために出ます。」

「ちょっと待て。」

講師の反応は至極正しい。天下の多摩グラを練習あつかいする不届き者を許すはずがない。加えて、統合はまだグラフや芸デの滑り止めという印象が強く、第一志望にしている生徒は40人いたデザイン志望の中で私以外誰も居なかった。オンリーワンでナンバーワンなのだ。そこから現役で受かりたいなら色んな科に出願して可能性を広げて方がいいだの、武蔵美の方が多摩美より前に試験があるため空気感をつかみやすいだの説得に合い、結局多摩グラ、情デ、私デ、統合を受けるという結論になった。降り出しに戻るだ。けれど、一つだけ収穫があった。

「推薦を受けたいなら、推薦対策の講師を紹介するよ。」

この講師Aとの出会いが、統合の推薦合格の理由の80%を占めたと言える。ただし、夏期講習はしっかりと私立デザイン系の対策を受けてと言われた為、本格的に話を進めるようになるのは9月からである。

合格の女神、講師Aとの出会い

今更だが、統合の推薦を受けるにあたりポートフォリオが必要となる。内容は自由で最大5作品。これに加えて自己推薦書やその他書類を用意する必要がある。これには頭を抱えた、調べど調べどポートフォリオの例は出てこず、何を出したら教授にウケるのか分からない。どうしたもんかと悩みながらいざ、講師Aとの初対面を迎えた。軽く挨拶を済ませ、いざ本題へと入る。

「統合の推薦だっけ、なんで入りたいの?」
「一つの事を学ぶのではなく色々なことを学べるからです。」
「えーとさ、そういうことじゃなくて。」
「?」
「それってパンフレットに書いてあるよね?誰でも言えるのよ。それにさ、一般でもいいのにわざわざ推薦を受けるほど入りたい理由は?そこまで熱心な理由は?他の学科じゃダメな理由は?」

圧倒。それ以外の何物でもなかった。確かに、一般で受ければいいもののわざわざ推薦で入りたい、これと言った強みの理由がない。統合の上澄みだけを掬って理由を並べた自分が、とても恥ずかしかった。だが、ここで諦めたら女が廃る。絶対に納得させてやろうと、ここで受験の神が心の中に降臨した。講師Aの恩恵は凄まじかった。私の中では推薦=賢い子という強いイメージがあった。なので、ポートフォリオも世界情勢や環境問題に関心のある良い子ちゃんで作ろうとしていた。けれど講師Aは

「漫画が好き?ならおすすめの漫画4選!とかでいいじゃん!!色んな視点から作品をまとめるとかさ!楽しいよ!」

ふざけてる??と当時の私は思った。オススメの漫画??こっちは真剣なんだぞ!と。だがそれを言えるわけもないので、代わりに苦しい笑みを浮かべて小さい声で反論するしか無かった。

「面接官ってさ、君が何に興味があって、何を見てる子かを知りたいわけ。どんな子なのかなって。面白い子を取りたいでしょ?だから、好きなことを押し出した方がいいよ。」

この一言。あの時の、腑に落ちない顔で講師Aの話を聞いていた私にはあまり響かなかったが、この言葉に後々とても救われることになる。今ポートフォリオを考えている高校生がいたら、是非この言葉を頭の片隅にでもいいので留めておいて欲しい。それからも色々とあった。結局私は幼少期から生物が好きで、頻繁に科博や動物園、水族館を訪れていたのと、環境問題が引き起こす生物への被害に興味があったのでその2つを関連させた物を作成して提出する事にした。志望理由書や作成する予定の物のラフを提出しては、コテンパンにされる日々を過ごした。

「君の出したものってさ、親切じゃないんだよね。だから?ってなる。起承転結ってわかる?どういう経緯で作るに至ったのかわからないと面接官は君を分からないよ。」
「だから、まだ作品じゃん。絵なんてみんな描けるんだよ。そうじゃなくて、もっと掘り下げて。」
「無理に難しい言葉を使わないで、高校生らしさがいいんだよ。」
「向こうはプロなのね。変な御託を並べても、向こうからしたら浅いのよ。専門家じゃないでしよ?だから、知らないことは書かない方がいい。正直にいきなさい。」

こうしてなんやかんや悶着があり、やっと制作に着手しだした。ここまでで9月が終わった、そう。出願まで残り1ヶ月ー

提出物について

地獄が幕を開けた。迫り来る期限。手を動かしっぱなしの10月。志望理由書は1000字以内に書く必要がある。正直足りない、2000字にしてくれ。私は幼少期から今までの自分をありのままに書いた。生物が好きなこと、絵も好きなこと、でも心理や介護に興味もあること。オーキャンでの出来事。本当に統合に入りたいんだ。という愛の告白をつらつらと語った。また、私は永井先生がヘルプマークを発案社だと統合を調べて行った中で知り、感銘を受け、統合に入った暁には是非永井先生のプロジェクトに入りたい!と綴った。

ポートフォリオはいままで読んでいればわかると思うが、生物に目を向け作成した物に、自分が今何を考えているのか、何に興味があるのかを志望理由書と関連づけキャプションを書いてまとめた。それをUSBに保存し、いっちょうあがり。ここまでで11/5。提出期限は11/8。残り3日。ギリギリでの完成だった。赤子を抱くかのように丁重にお包み(緩衝材)を被せ、諸々の書類と共に我が子を多摩美へと送り出した。

試験まで2週間を切っている。ここで私がした事は、過去1年間の時事ネタを書出し、それに対し自分はどう感じたか、身近な例はあるのかをひたすら書きとめる訓練に励んだ。過去問を見た事のある人は知っていると思うが、統合は時事ネタに絡めたお題を推薦試験で出す傾向にある。要はどれだけ社会に目を向けて生きているかの確認だ。

試験当日1日目

時は来た。きたる11/19。試験当日だ。統合の推薦の倍率は例年2倍ほど。しかし、20人受けたら10人必ず受かる訳ではなく、募集人員に対して定員割れすることもしばしば。1日目は出された問題に対し、3時間で6枚の手描きスライドを作成して提出。2日目にそれのプレゼンと簡単な質疑応答を行う。私の年は今あるルールを新たなルールにするには何を変える?というものだった。丁度この年は菅教諭がが携わったルール展が大きな反響を呼んだ年でもあったので、その影響かな?と勝手に思ったりもした。事前に社会問題を考え続けていた私からしたら余裕綽々だ!とペンを走らせる。キュッ、キュキュッと私のペンの音だけが静寂な教室に響き渡る。"受かった"勝ちを確信した。なんとも単純すぎた。
なんとか6枚を描き終え、試験は終了。あとは家に帰っぶプレゼンの練習である。ここで受験生に言いたいのは、プレゼンの重要性である。試験が上手くいかなかつたからといって諦める必要は無い。なぜなら、詳しい回答は書けないが、私は試験問題を履き違えどう足掻いても辻褄の合わない内容を書いた。けれど結果的には受かったので、プレゼン様々なのだ。ここで伝えたいプレゼンのコツは

・伝えたい内容全てを紙に書かない
・一言、ドン!と示す言葉のみ太く目立つ色で
・文字かばりではなくイラストで分かりやすく

社会人のプレゼンと違い、プレゼン時間は数分。チマチマ書いた所で全て見られないし説明する暇もない。なので、いかに一目見て分かりやすいか。を重点に、細かい説明は口頭で。を意識しよう。また、プレゼンの仕方はYouTubeなどで調べると参考にしやすいと思う。

試験2日目

戦もいよいよ終盤に近付いた。用意された部屋は2部屋。4:1での面接だ。隣は深澤教諭のグループだったようで、少しばかり漏れ出していた声が、ドッと緊張を煽った。待てよ、向こうが深澤さんということはもしかして…期待で胸が膨らむ、自分の名前がよ呼ばれた。弾む鼓動をノックで表す。待ち構えていたのは、永井教諭。もうワックワクだ。地獄の面接がオアシスと化した。もう落ちてもいい。例えるならかアイドルの握手会に参加している気分になった。

ウエディングベルではなく試合のゴングのベルが流される。4人の視線を浴びながら、震える手で教壇にセットされたノートパソコンに触れる。一人一人の目を見て、スライドを進める。練習してきた甲斐もあり、時間内に伝えたい箇所を伝えきれた。ここで、プレゼン内容に対する質問が投げかけられる。

「なんでこの案にしたの?」
「最初は○○と考えていたのですが、こっちの方が〜他にも○○という案も浮かびました。」

「え、そっちでいいじゃん。なんでそれにしなかったの。」

終わりを悟った。お母さんごめん、まだ受験で苦労をかけます。なんとか返答をし、他にも質問は続いていく。志望動機、ポートフォリオの内容、部活動のこと、身近で興味のある問題。さあここでも登場したのは、菅教諭である。勝手な推測だが、この体験談が合格の20%を占めたと思う。志望動機のの話の時に菅先生の話が楽しかったこと、デザインについて教えてもらい、それを聞いて入りたいと思ったことを正直に話した。それを笑顔で聞いてくれる永井先生。心中で心地よく流れるBGMはアベマリアだった。"受かった"ファンファーレが頭上で奏でられた。

ありがとうございました。不意に面接の終わりを告げられた。フワフワとした気分のまま退室をした。帰りの車の中で、私は親に試験の内容、面接の内容をを全て話した。その位楽しかったのだ。後で聞いたところ、親は私の面接での受け答えの詳細を聞いて、合格を確信していたらしい。この親にしてこの子ありである。一週間後、結果発表の画面に表示された合格の二文字見る事になるのは、この時は知る由もない。

以上が私が統合を目指し、実際に試験を受けて合格するまでのな流れになる。あまり前例がないため不安もあると思うが、何とかなる時は何とかなるので自信を持って推薦に挑んで欲しい。統合は課題量がとてつもなく多いが同時に得られる達成感と経験もとてつもなく多い。1年前、かじかむ手でポストに封筒を投函した自分がここまで成長するとは、と感動するほど得るものが大きいので、是非統合デザイン学科の推薦を悩んでいたら、挑んで欲しい。上野毛キャンバスで待ってます。

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