いいことは言葉にしたい
いいなと思ったことが思ったように伝えられると、心地いい。
私が玄関のドアを開けるとほぼ同時に、お隣からはエリちゃんが出てきた。
今日のエリちゃんは、なんだかいつもとちょっと違う。小さな花飾りのついたベージュの帽子をかぶっている。
「帽子、似合ってるね。」と言うと、エリちゃんは両手を帽子にあてて照れくさそうに笑い、学校のほうへ駆け出した。
さあ、私は会社へ。
会社の入り口で、スポーツバッグを持った田中くんがドアを開けてくれた。
「ありがとう。ジム帰り?」
「うん。気持ちよかったよ。」
言いながら階段を上っていく足が軽やかだ。
「いいフットワーク。成果出てるね。」
「身体動かすのは得意なんだけどな。9時からは頭動かさないとな。」
「やる気になってるじゃない。」
さあ、始業だ。
社食で定食ブースに並ぶ。
スタッフが手際よくトレーに配膳していく。
味噌汁の碗を置いていくのを眺めていると、あれ?
「すごい!汁が揺れてない!」
思わず口に出てしまった。だって、あんなに早く置いていくのに汁の面があんまり動かないなんて。
話しかけたつもりじゃないけど、邪魔しちゃったかな?
手は変わらず素早く動いている。
顔はちょっと笑っているように見えた。気のせい?じゃないといいな。
帰りにはよくパン屋さんに寄る。
今日の気分はクリームパン。
「このカスタードクリーム、すごくおいしくて大好きです。口当たりがなめらかだし甘さもちょうどいいし。」
寡黙な店主は「ありがとうございます。」と短く言った。
いいなと思ったら、そのときすぐにさらりと言葉にしたい。
思うだけじゃ伝わらないもの。
いいところを見つけてもらえると、意外なご褒美をもらった気分になれる。かもしれない。私はそう。
「私なんて全然ダメなのに、あなたはすごいわね。」みたいな否定的な言葉は使わないように気をつけてる。それでは伝えたいこととずれてしまう。
それに、比較を持ちだすと、じゃあ別の何かと比べたらどうなのよ、ってなっちゃうかも。
できるだけ短く素直な言葉で伝えたい。
あなたからいいものを分けてもらったよって、そのことだけを。
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