【精霊の贈り物】第2話 貴族校の姫
「ライト!お前一気にシルバー1に昇格かよ!シルバー1になったら受けられる依頼も多くなるぞ!」
ライト 「ん?シルバー1になったらどんな依頼があるんだ?」
ライトはバッジを手に握ると、テーブルや椅子に座る冒険者達に首を傾げる。
「難易度が難しいのもあるけど、シルバー1以上のバッジを持ってるのが条件って依頼はたいてい報酬額が大きいな」
「シルバー1以上のバッジを付けてるやつはたいてい強いからな。任務完了も早いから難易度がそんなに高くなくても報酬がいっぱい貰えるんだ」
ライト 「へー、知らなかった!」
説明を頷いて聞き終えると、ライトは今後の依頼が楽しくなり自然と笑顔になる、
「お前は昇格するのが速すぎるんだよ!その若さでもうシルバー1かよ!!俺なんてもう冒険者ギルドに入って3年も経つのにシルバー2だぞ!」
「まぁ、お前正直依頼受ける時報酬なんて気にしてないだろ?冒険者ギルドに入ったのに何か理由があるんだろ?」
1人の冒険者が質問をした途端、ライトの顔から笑顔が消える。
ライト 「ああ、俺は3年前急に居なくなった父さんと母さんを探すために冒険者ギルドに入ったからな」
「…3年前、庶民が急に姿を消えた事件か…。沢山居なくなったよな。そうかお前の親御さんはあの事件に…」
冒険者ギルドの場が暗くなった途端、ライトのお腹が鳴り手を押さえる。
ライト 「はぁ、腹減った。俺今日はもう家帰ってめしでも食うよ!んじゃメルさん、皆、また明日な!」
ライトは冒険者ギルドのドアを開けようとした瞬間だった。
メル 「お待ちください、ライト様!」
ライト 「ん?」
ライトは声を掛けられ振り返ると、メルは裏から持ってきたお弁当箱を持ちながら急ぎ足で駆け寄る。
メル 「あの…。これお口に合えばよろしいのですが。今日お昼のお弁当食べそこなってしまって!」
お手製の弁当をライトの目の前に突き出す。
ライト 「メルさんはお腹は減ってないのか?」
ライトは心配な顔で質問をするが、メルは目を逸らし咄嗟に思いついた事を話す。
メル 「ええと…、私は今日晩御飯はご飯物っていうよりか急にパスタが食べたくなってしまったので…」
ライト 「そっか!んじゃ有難く頂くな!また明日よろしくな!」
メル 「はい!また明日!本日は昇格おめでとうございます!」
ライトはニッと笑って受け取った弁当を大切に持ちながら家に帰宅していった。メルは走りながら帰る後ろ姿を見ながら手を振る。
冒険者達は2人のやり取りを、ニヤニヤしながら見つめていた。
「メルさん、そのお弁当ライトが魔物討伐するとか言い出したから心配で食えなかったんだろ…?」
メル 「ち、ちがいます!忙しくて食べ損ねてしまっただけです!」
図星の質問にメルは顔を赤くしながら冒険者達に段々と声が大きくなりながら返答する。
「メルさん実はライトが冒険者ギルドに入ってきた時から結構気にかけてたもんな~」
メル 「も、もう!皆さん勘違いしないで下さい!私はそういう訳ではありませんから!」
メルは冒険者達に茶化され、剥きになりながら大きな声で反発する。
メル (何故だろう…。ライト様なら、どんな強敵でも倒せてしまうのでは無いかと自然に思ってしまう…)
そんな事を想いながらメルはオレンジ色に染まり夕焼け空を、冒険者ギルドのドア越しで見つめ続けていた。
———【翌日】
部屋に光が差し込みライトは目が覚める。ベッドから起き上がると、フラフラになりながら歩き始め、顔を洗い簡単な朝食の準備をする。
パンと目玉焼きをテーブルの上に乗せ、昨日貰った弁当と比較すると味は劣るが食べれないよりはマシであろう…と思いながらも口の中へと運ぶ。そして食べ終えた後は毎日恒例となった挨拶をする。
ライト 「母さんのオムライス食べたいな…。帰った時は絶対作ってもらうからな!んじゃ、父さん、母さん行ってくるよ!」
両親がいつも身に着けていたアクセサリーに挨拶をし今日も外に出る。
冒険者ギルドへと道中を歩いていた最中にライトは昨日、受け取ったシルバー1のバッジを握りしめると、誇らしげな顔をする。
ライト 「シルバー1に昇格したら依頼が受けられるのが多くなるんだよな。シルバー1以上しか受けられない依頼を今日は受けるか!」
依頼の事を考えながら歩いていると、いつの間にか冒険者ギルドまで辿り着き、ドアを開ける。
開けた瞬間いつも冒険者ギルド内は賑やかなのに何故か今日は静まり返っていた。ライトは不思議そうに首を傾げると、目の前に服や髪が綺麗に整った女性が依頼掲示板を眺めていた。ライトはどこかで見覚えがあるような…と考え込むが思い出す事が出来ず、掲示板前まで歩く。
メル 「ライト様!おはようございます!」
ライトの姿に気付いたメルは今日も自然と笑顔で、元気に挨拶をする。
ライト 「ああ!メルさん!昨日のお弁当美味しかったぞー!メルさん料理上手だよな!」
メル 「そ、そんな!毎日作ってるので自然と上達するだけですよ…」
ニッ!と笑うライトに、お手製弁当の事を褒められたメルは頬を赤くしながら照れ始め目線を逸らす。
「おい、そこの受付嬢!」
メル 「はっ、はい!」
メルは掲示板を眺めていた女性に声を掛けられ驚いたのか体がビクッとする。
「この依頼を受けたいのだが。ん…?貴様…」
ライト 「あ!!お前!貴族校の2席だった、暴力女か!」
掲示板を眺めていた女性とライトは、互いに見合うと一気に記憶が蘇る。
メル 「ライト様!!このお方は我が国のネイリー姫ですよ!!」
掲示板を眺めていた女性の名はネイリー・サファイアローメン。彼女はライトの出身国であるサファイアローメン国の王の娘である。
―――学校は大まかに王族や貴族が通う『貴族校』と、庶民が通う『庶民校』と別れていた。授業、食事、寮は全て別々で『貴族校』と『庶民校』が鉢合わせする場合は卒業間近に行う『対抗戦』のみだった。
『対抗戦』は、その名の通り『貴族校』と『庶民校』の上位が対抗戦をし、卒業の際にも順位が発表されていた。
ネイリーはライトの存在に気付くと反応をする。
ネイリー 「あぁ、お前確か例の庶民校の首席だった者か。首席卒業生は就職先はもっと良いところがあったはずだぞ?それなのに冒険者ギルドに入ったのか?」
ライト 「ああ、俺にはやる事があるんだ!」
ネイリーの問いに、ライトは真剣な顔つきで返答する。しかし、2人の会話のやり取りにメルは焦り、間を割って話す。
メル 「ラ、ライト様!ネイリー様は王族の方なので言葉遣いを…」
ネイリーは無表情で片手で長いピンクの髪を払うと腰にあて、どっしりと構える。
ネイリー 「いや、私は気にせん。いつも通りの口調で構わん」
ライト 「暴力おん…」
本当に気にもせず話すライトに、ネイリーは目を細め睨む。
ネイリー 「私の名前はネイリーと言うが?」
ネイリーに睨まれライトは怯む。
ライト (そういや対抗戦の時、こいつにパンチされてたやつってすんげーぶっ飛ばされてたよな…。骨折してもおかしくないぐらいだったな…)
ライトは焦りながら言葉を改める事を決意する。
ライト 「ネ、ネイリー!さっきメルさんに依頼を受けようとしていたけど何を受けるんだ?」
ネイリーは掲示板に張られている紙を眺め、指を差す。
ネイリー 「最近、畑や牧場を荒らしているゴブリン族がいるみたいでな。獣人族ゴブリンの巣が拡大しているらしい」
ネイリーが指を差す依頼をライトも眺める。依頼の紙をよくよく見ると”シルバー1以上が条件”と書かれライトは反応する。
ライト 「その依頼ってシルバー1以上条件のやつじゃないか?」
ネイリーは自分のバッジを取り出しライトの目の前で見せつける。
ネイリー 「私はもうすでにシルバー1だ。貴様…名前は確か「ライト」だったな?お前のランクはいくつだ?」
ライトもバッジを取り出し自信満々とネイリーに見せつける。
ライト 「俺もこの間シルバー1に昇格したばっかなんだ!ネイリーも魔物討伐したのか?」
無表情だったネイリーの口元があがり、ようやくニヤッと笑う。
ネイリー 「まあな。お前も庶民校だが、さすが首席卒業生であってなかなかやるな」
2人は取り出したバッジを元の位置に戻す。そして、ライトは再び掲示板をサーッと一通り眺める。ネイリーが指を差した依頼以外を一通り見ると、ライトはため息を吐く。
ライト 「なあ、ネイリー。この依頼共同で受けないか?俺も”シルバー1以上条件"の依頼を受けたいんだけど、これしか無いみたいなんだ」
ネイリーはライトの提案に頬に手をあて考え込む。
ネイリー 「この依頼、報酬は『50万シル』と『色鮮やかな布10枚』か…。『色鮮やかな布10枚』を譲ってくれるなら構わない」
ライト 「えっ!普通そこは報酬金欲しがるんじゃないか!?」
ライトは驚いた顔をするが、ネイリーは至って冷静で無表情だった。
ネイリー 「私はお金にあまり興味ない」
ライトの目は完全にお金のマークとなり浮かれ喜ぶ。
ライト 「俺はお金が欲しいからそれでいいぜ!んじゃメルさんに契約魔法かけてもらおぜ!」
2人は報酬の分配が決まると、依頼を受けるためメルの場所へと互いに歩く。
メル 「今回の依頼は2人共同でグリーン村での獣人族ゴブリンの討伐依頼。報酬はライト様には『50万シル』で、ネイリー様には『色鮮やかな布10枚』で、よろしいですか?」
メルの確認後、ライトとネイリーは揃って頷く。
ライト 「それで!」
ネイリー「間違いない」
メル 「レメート?」
「「レメート」」
ライトとネイリーの手首に■の刻印が印される。
メル 「契約完了です。お二方気を付けて行ってらっしゃいませ!」
———ライトとネイリーは冒険者ギルドから依頼達成のため、早々とドアを開けグリーン村を目指す。
第3話
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