ここから先に光は〜難病からの帰還目指して〜その29

 JRで行っても高速道路で行っても、長い長いトンネル森林地帯を抜けると、急に開けている場所がある。
 全国的に名高い由布院温泉。
 そのむかし、「大きな湖だ」と言われたように、由布院駅から南由布にかけての地は大きな盆地である。盆地の至るところから良質な温泉が湧き、至るところにいま流行りの離れの旅館が点在している。すぐお隣の別府温泉はホテル旅館が多いのに比べて、由布院温泉は客室数が少ない旅館が数え切れないほどある。
 しかも古くからの「御三家」といわれる三大旅館を筆頭に、「格」が決まっているのが特徴的。
 亀の井別荘。玉の湯。無量塔。
 星野リゾートなど新参者が入ってきて、ますますお高い旅館が増えた感のあるこの地の、観光客がひしめいている通りから離れた杜に、「山荘無量塔」がある。
 旅館というより「アート空間」と呼ぶに相応しい山荘までの間に、由布院らしい旅館が多々点在する、その中のひとつの旅館に赴任した。
 若い世代が中心。中居さんが軽々と大きなスーツケースを軽々と運んでいるのに、こちらはえっちらおっちらふらふらしながら運ぶのがやっと。すぐ息が上がってしまう。心臓がどきどきする。中居さんが気を使ってくれて、軽いものを任せてくれたりする。支配人がそれを見るともなしに見ている気配。
 大丈夫だろうか。持つだろうか。
 がんばれ、自分。言い聞かせる毎日。

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