砲弾の貫通力計算

大前提として「砲弾の貫通長Lは 砲弾の運動エネルギーEを砲弾断面積S=貫通孔の断面積で割ったものに比例する」という仮定をします

$$
L\propto \frac{E}{S}
$$

比例定数Kを使って表せば、

$$
L = K\frac{E}{S} …(式1)
$$

この式は
$$
E=\frac{1}{K}LS
$$

さらに$${\frac{1}{K}}$$を比例定数と見なせば

$$
E \propto LS
$$

と書き換えることができます。
右辺のLSつまり貫通孔の断面積×貫通長は、貫通孔の体積に相当し、最初の仮定は換言すれば「砲弾は運動エネルギーに比例した体積の貫通孔を開ける」ということになる。

砲弾は飛翔中に運動エネルギーを失っていくが、ここではまずエネルギーを失う前の発射直後の状態について考える。この状態での運動エネルギー$${E_0}$$は初速$${v_0}$$と砲弾重量mを用いて

$$
E_0 = \frac{mv_0^2}{2} …(式2)
$$

と表せる。上式で初速v0の代わりに存速vを使えば任意の時点での貫通力になる。発射直後における貫通力$${L_{0}}$$は式1と式2から

$$
L_0 = \frac{Kmv_0^2}{2S} …(式3)
$$

$$
L = \frac{Kmv^2}{2S} …(式3.1)
$$

(初速ではなく)任意の時点での貫通力は式3.1になります。

砲弾の断面積Sは砲弾の直径Dから単純な幾何より

$$
S = \frac{\pi}{4}D^2 …(式4)
$$

となります。ここでD, v_0, m は大抵の場合砲のスペックとして流布しているので、そのデータを使えば貫通力を計算可能になる。

比例定数Kは経験的に求める必要がある。異なる砲の間で貫通力の大小を見積もるのであればKは未知でも事足りる。
なお式4を式3に代入してまとめれば

$$
L0 = \frac{2Kmv_0^2}{\pi D^2} = \frac{2K}{\pi}\frac{mv_0^2}{D^2}
$$

比例定数はいくつかの事例に基づいて推定します

「3.7cm PaK36はT-34の車体側面下部装甲(45mm,垂直)を至近距離でもぎりぎり貫通できなかった」という事例からPaK36のスペック(D=37mm, V0=745m/s m=0.685kg)と貫通長L=45mmとして比例定数Kを計算すると$${2.54 \times 10^{-10}}$$以下という値になりました。桁数が大変なことになっていますが比例定数ではよくあることです(長さの単位はmmからmに直した上で計算しています)
同様に「T-34の主砲である76mmF-34戦車砲はティーガーIの車体側面装甲(80mm,垂直)を至近距離でもぎりぎり貫通できなかった」という事例からF-34のスペック(D=76mm, v0=662m/s m=6.51kg)と貫通長L=80mmとしてKを計算すると$${2.54 \times 10^{-10}}$$以下という上記の事例とほぼ同じ値になりました。ここまでうまく数字が揃ったのは偶然でしょうが、「M4中戦車の主砲である76mmM1戦車砲はパンターのIの砲塔正面装甲(110mm,緩い曲面)を至近距離でぎりぎり貫通できた」という事例からは$${2.34 \times 10^{-10}}$$以上という条件が求まります。比例定数は全ての火砲・砲弾に共通のものではなく、砲弾や戦車砲ごとにある程度の違いがあるため、これらの条件は厳密なものではなく大雑把なものにすぎませんが、Kは大雑把に見て$${2.4 \times 10^{-10}}$$前後だということが言えます。長さの単位にmではなくmmをそのまま使った場合$${2.4 \times 10^{-4}}$$になります。実際の計算では比例定数に加えて$${\frac{2}{\pi}}$$を掛ける必要がある点に注意

以上の話は砲の初速に基づく計算です。実際の砲弾の貫通力は距離とともに減衰するのでその考慮が必要です。飛翔中の砲弾にかかる抗力Fは、空気密度をρ、砲弾の断面積をS, 抗力係数をCとして次の式で表せます。

$$
F=\frac{1}{2}v^2 \rho SC …(式6)
$$

空気密度は標準大気の地表での値1.225kg/m³、抗力係数は砲弾により異なるはずですが、経験的に求めた大雑把な値として0.40を仮定します。

運動方程式$${F=ma}$$より飛翔中の砲弾に生じる加速度aは$${a=F/m}$$
となり、これは式6と砲弾重量mから計算できます。

計算タイムステップを微小時間dtとすると、このステップ中の速度変化dvはこれまでに述べた方法で求めたaを用いてdv=dt・aで計算できます。このようにして算出したdvを存速vから減算して新たなvを得てそのvに基づいてdvを計算する・・・ということをタイムステップごとに繰り返していくと初速v0で発射された砲弾がどのような存速を辿っていくかが計算できます。このような繰り返し計算は例えば表計算ソフトを使って容易に実行可能です。砲弾の存速が分かれば貫通力は式3.1から計算できます。各タイムステップにおける飛翔距離はdt・vで計算でき、その積算値を記録しておけば射距離ー貫通力の関係を得ることができます。
 
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