園田茂部雄のモブな日常 第3話

「もうちょいマシな特徴なかったのかんですか?」
 とりあえず率直な意見を述べてみた。
「そんな! 私たちは特徴や個性をシンプルに言ったぞ!」
「いや誰もアンタらのあんな地味な特徴知りたいと思ってないですよ……」
 5人全員が『そんな……ばかな……』みたいな表情をしている。
「あんなどうでもいい情報じゃなくて、もっと自分がどういう人間なのかアピールできる内容じゃなきゃダメですって」
「なるほど……よし、その線でもう一度考えてみよう」

一週間後

「ワッハッハ!! 燃えろ燃えろ!! この私ファイヤーフレイムがこの町を炎で焼き尽くし、われらアクギャークの新たな帝国をここに打ち立ててやろうではないか!」
「待てっ!!」
「ムッ! この声は……!」
 もういい加減聞き飽きたお約束の台詞を言ってファイヤーボルケ……フレイムは天へと目を向けた。するとそこにはそれぞれ赤、青、緑、黄色、ピンクの五色のユニフォームを着た5人の戦士が立っていた。
「表の顔は不良の溜り場となった野球部で自暴自棄になっていた部員たちの心の奥底に残る情熱を見抜き、野球の「や」の字も知らなかったが、自ら顧問となって野球部の再建に乗り出す教師! その正体はジャスティスレッド!」
「表の顔は世界で1,2位を争う魔法名家の生まれで、骨折や出血多量の致命傷を負っても一瞬で再生できる能力と一人で戦艦を一瞬で消滅させ、世界に殆どいない戦術級の能力を持ち、小さい頃から軍隊に所属して働き、忍者の師匠が居て格闘術もこなし、ブラコンの妹がいて週一くらいのペースで妹の着替えに遭遇し、破壊神という通り名を持つ! その正体はジャスティスブルー!」
「表は……資格の勉強してます! その正体はジャスティスグリーン!」
「表の顔は父が工場を経営していたが多額の借金によって工場がつぶれ、そのショックで父は自暴自棄になり酒と賭博に明け暮れ、母はお金を稼ぐために夜な夜な仕事に繰り出すがうまくいかず、次第に家族の中ですれ違いが起きついには父が家の外に女を作り、その事実を知った母に暴力を振られこのまま家にいても自分は苦しむだけだと気づき、12歳で家出をして路頭に迷いゴミのような生活を送ってきた男! その正体はジャスティスイエロー!」
「表の顔は、実家から離れた喫茶店『うさぎハウス』で働くために『ひだるま壮』で一人暮らしをしつつ、同じアパートに住む個性豊かな友達と楽しくにぎやかな日々を過ごしている! その正体はジャスティスピンク!」

「「「「「五人そろって! 正義戦隊ジャスティスファイブ! 参上!」」」」」」

「俺たちがお前の相手だ! 行くぞみんな!」
 そして五人と怪人の激闘が始まった!!

「アンタらその設定どこから持ってきた!!」
 よもや三度目の作戦会議だ。
「なんだ? 我々は決めた通り自分たちが何者なのか話しただけだぞ?」
「あんたらの個人のインパクトが強すぎてジャスティスファイブの情報が入ってこないんだよ! ってか絶対好きな漫画から設定持ってきたでしょ!!」
「こんなの割と普通な方だと思うけどなぁ」
「まずレッドさん! 設定丸々ルー○ーズですよね!?」
「ほう……他にも俺と同じような生き方をしている男がいるのか……なんだか感慨深いものを感じるな……」
「同じようなというかおもいっきりクリソツですよ! たぶんこの後こいつは一癖も二癖もある部員たちを勧誘し、様々な困難を越えた末に甲子園を目指すんでしょ! 次にブルーさん! どこのラノベの主人公ですか! 設定めちゃくちゃ盛りすぎですよ! もう戦隊じゃなくても一人で解決できるレベルじゃないですか!!」
「いや、それが俺の本来の力を引き出すためには妹のキスが必要で……」
「これ以上設定を盛るな!! 次にグリーンさんは……うん……まぁ……」
「い、いやせめてなにかコメントはくださいよ!」
「いやだって資格の勉強って……地味すぎるし……転職考えてるサラリーマンじゃないんだから……次にイエロー! お前キャラの割に無駄に過去重すぎんだろ! お前はカレーが大好きなだけのバカキャラじゃなかったのか!?」
「ああ……カレーを食べると母さんが優しかったころを思い出すから好きなんだ……」
「これ以上お前の設定重くすんなよ……最後にピンクさん! なんなんですか、あのまんがタイムき○らみたいな設定!」
「えー?設定って何言っているかわかんないですぅー、私はうさぎとかわいいものが大好きなただの女の子だよ☆」
「同じパンツ4日間履き続けてるヤツが言うセリフじゃないですよそれ……」
 一通りツッコミが終わると会議室に静寂が訪れた。そんな中レッドがポツリとつぶやいた。
「ふっ……登場シーンすらまともにできないなんて……やっぱり俺たちヒーローに向いてないのか……」
 あの熱血で暑苦しいレッドがこんな弱気なところを見せるとは思ってもいなかった。他のメンバーも同様に落ち込んでいるようだ。全員が俯き下を向いている。そんなときイエローが机を叩きつつ悔しそうに言い放った。
「クソッ!! やっぱりカレーが好きなだけでヒーローなんてできないのか!!」
「それはできないだろ」
「でもジャスティスイエローの採用条件にはカレー好きな人ととしか書かれてなかったぞ!」
「イエローの採用基準低いな……CoCoイチのアルバイトよりも簡単になれるじゃねぇか」
 レッドとイエロー二人が弱音を吐き出したことで他の者たちもさらに落ち込みが激しくなった。理由はともあれ五人とも完全に自信ややる気を失っている。このままの状態が続けば今後の町の平和も危ういかもしれない。もしそんなことになればこいつらをここまで落ち込ませてしまった自分にも責任はある。……あまり気は進まないがこいつらを立ち直らせるしかないようだ。
「……みなさん……人々がどんなヒーローを求めているか知っていますか?」
突然の問いかけに5人は顔を見合わせた。
「どんなってそりゃあかっこよくて、強くて、みんなを守ってくれるようなヒーローだろ?」
 レッドが戸惑いながらも言葉として口にした。
「そうです、俺みたいな一般市民はそんなヒーローを求めています。ですが今のあなたたちはどうですか? 人気者になりたいって意思が前に出てヒーローってのがどんなものなのか忘れてはいませんか?」
「「「「「ッ!?」」」」」
 5人はハッとした顔をした。
「みなさんは人気者になるためにヒーローになったんじゃないでしょう? 人々を悪いやつから守りたいからヒーローになったんでしょう?」
 我ながらいいことを言った。5人もようやく自分たちがどうあるべきか気づき始めたようだ。
「そ、そうだ……俺は人々の笑顔のために戦っていたんだ……」
「ハッ……まさかこんな初歩的な勘違いをするなんてな」
「僕は採用条件的にちょうどよかったからこの仕事についたんですが……それでも人々の笑顔を見たい気持ちは僕も変わりません!」
「俺は伝説のカレーを作るためにこの道を突き進むと決めたんだ! こんなとこで躓いている暇なんてない!」
「そうね……人々を守るゆるふわ系愛されヒーローってキャッチコピーも悪くないかも……」
 何人かヒーローとは何かを全く理解していないやつがいるようだが気にしないでおこう。
「あなたたちが体を張って人々を守り続ければ、自然とみんなファンになりますよ。だから今はごちゃごちゃしたこと考えずに突き進めばいいと思いますよ。だから今必要なのは、あなたたちのヒーローとしてありのままの姿をさらけ出していくことじゃないんですか?」
「ありの……ままの……?」
「そう! がむしゃらに人々の平和を守るありのままのお前らを見せつければいいんですよ!」
「カレーも調味料を変に足さないほうがおいしいしな……それといっしょか!」
「あ、……うん、まぁそんな感じ」
 なんだかよく分からない例えを出されたが、言わんとしていることは伝わったようだ。大事なのはインパクトではない、実直さなのだ。
「よし! みんな! これからはありのままの俺たちで悪と戦っていくぞ!」
「「「「「オーーーー!!!」」」」」
 これで俺はお役御免かな。まぁ、たかがモブキャラがヒーローに人気が出るコツを教えるなんておこがましいんだがな。

一週間後

「ワッハッハ!! 燃えろ燃えろ!! この私ファイヤーフレイムボルケーノファイヤーがこの町を炎で焼き尽くし、われらアクギャークの新たな帝国をここに打ち立ててやろうではないか!」
「待てっ!!」
「ムッ! この声は……!」
「赤いロウソク、女王様からいただく鞭が大好物! 最近は割とハードにお仕置きしてもらわないと興奮しない! ジャスティスレッド!」
「自分の家だけでは飽きたらず、下半身を露出して夜道を歩くことに性的興奮を覚えてきている! 好きなAVジャンルは青姦もの! ジャスティスブルー!」
「人妻大好き! ジャスティスグリーン!」
「う○ことカレーって……なんか似ているよな……ス○トロ大好き! ジャスティスイエロー!」
「バイト先の女の子と全員寝た……男も女も両方大好き! ジャスティスピンク!」
「「「「「五人揃って! ジャスティスファイブ!!!!」」」」」
「さぁ覚悟しろ怪人! 俺たちが相手だァァァァ!」

「……もう終わりだよこの町は」


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