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#詩 2023年4月②


「黄土の先に在る物」



ここから出たいなんて
思ったこともなかった

死者は砂にかどわかされ
淋しさは嗜好品

夜は殻の雨が降る
誰もが息を潜め皮膚を隠す

老人が言った
黄土の先に在る物を知っているか?

月だった物の成れの果てを
少年はぼんやりと眺めていた

またひび鳴りの音がした
いつもと変わらぬ静かな夜だった

2023年4月9日



「わたしだったもの」



わたしだったもの
爪を磨いたときに出る白い粉末

わたしだったもの
実らなかった初恋

わたしだったもの
わけもなく怒り狂った子供時代

わたしだったもの
空を駆ける鳥のはね一枚の風切

わたしだったもの
ねえ髪の毛きったんだよ?

そのすべてがわたしだったもの
いとしくてこぼれていった

2023年4月10日



「キミしかいらない」



世界中の夜だけを掻き集め
一本一本歯を使って丁寧に
空の眼窩に闇を注いだ

キミしかいらない

月に偽装した
太陽の中を泳いでいく

世界があまりに眩しすぎるから
見えなくなるんだ

キミの瞬きとボクの鼓動が重なる
朝なんて来なければいい

キミしかいらない

2023年4月11日



「雑なうた」



字は体を表すだなんてやめて欲しい
書は人なり心画なり
なりなりなーり

丁寧さに欠けるわ
落ち着きないわで
雑な私は尾のないふるどり

忙しなくチュンチュン
首ばかりふり続けるふりふり

誰も集まらない木に飛び込んで
とまれなくて衣は擦り傷だらけで

いつかまざりたい
そんな私の雑なうた

2023年4月12日



「濁ったスープ」



思い出がカタチになるには
時間がかかるみたい

さしずめ頭蓋の中の濁ったスープ
飲めたもんじゃない

仕方ないからあなたを連れて
あのひだまりへと手を伸ばす

川原のせせらぎ 鳥と虫と草花と
一歩いっぽ蒸発していく浮遊感

残ったカケラころころ転がって
こぼれたらいいのにって思ってた

2023年4月13日


「クジラブルー」



あなたの青と私の青の境目が
溶けてなくなる日の朝は

鼻をつまんで会いにいくから
クジラにのってドライブしましょう

帰りまで時間があるから
クジラに頼んでジャンプしましょう

かたくなった雲で休んで
べたべたの体を笑いあって

青が遊離するまでの間
さよならの準備をしましょう

2023年4月14日



「三本足の幸せ」



骨に穴が空いた日のことを
今もよく覚えている

骨盤近くの左足の付け根のあたり
わけもなくぽっかりと開いたんだ

ああ、支えられないなって
不安だけを誘うゆるやかな痛み

穴はもうなくなったはずなのに
今もまだ繋がったままでいる

私が三本足だったころの幸せ
誰よりも自由の中を歩いていた

2023年4月15日


#詩

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