見出し画像

#詩 2023年③


「交歓」



どれだけ口をつぐんでも
ここは私の最前線ターミナル

どこからどこまでが
私の世界の表と裏なんだろう?

生まれていく呼吸も言葉も
終わりのない争いも喜びも

全部ここから飛び立っていく
くちびるをそっとさしだした

表も裏もやわく触れあえたなら
私と世界との交歓のはじまり

2023年2月12日



「優しさはミルクレープ」



優しさはミルクレープみたいだ

うすく、ただうすく
どこまでも伸ばしてゆく

ぶちまけられた感情全てを
包み込んでいくように
何度もなんども積み重ねる

世界の至る所に空いた穴を
クリームで塗りたくっては
うすい生地で誤魔化してゆく

いつかきっと層となり
誰かが食べてくれるはずだから

2023年2月13日



「きっかけ」



ぼくらのシーズン
神様にもハグできる

置きっぱなしになった感情が
ほこりまみれにならないように

建前というラッピングで
キレイに着飾ってあげたら

季節を理由に
心を少し開放する

乾かないように
錆びないように

ぼくらのシーズニング
日常にスパイスを

いつだって
きっかけが必要だから

2023年2月14日



「ネガティブ・ケイパビリティ」



共感できない
言葉や想いがあふれてて

わからないものが
多すぎて窒息しそうで

ネガティブ・ケイパビリティ

知ったような口で唱えてみる
わからないことをわからないまま

わからなくてもいいんだと
そのままにしていいんだと

答えをださないで
決めつけないで

あやめ色の世界を
粛々と曖昧に生きて

2023年2月15日



「月が綺麗ですね」



月が綺麗なのは
私が見ていない間も
きちんと身嗜みを整えて

座礼で向き合ってくれているから
そっと微笑んでくれているから

そんなあなたの本性を

覗きたくなる
触れたくなる
暴きたくなる

ああ、なんて浅ましい

月の裏側を裏側のままにしておく

「月が綺麗ですね」

今夜もあなたは美しい

2023年2月16日


「ただ一編の詩に」



ただ一編の詩になりたい

曲もついていなくて
絵も写真もないけれど

かつては文字であった
もはや言葉であることもはなたれて

ただ一編の詩になりたい

そうしたらあとは
どうしてくれても構わないから

泣きじゃくって書きなぐった
ノートはもう捨ててしまった

私はただ一編の詩になりたい

2023年2月17日



「誰もが冬を忘れていた」



誰もが冬を忘れていた

すべてが半音たかく
昼下がりの公園はあたたかで

鳥たちのさえずりも
子どもたちの叫び声も
ベビーカーのがらがらも
工事のドリルの音も

昨日より半音たかく
かしましく、でも軽やかで

春のことも思い浮かばないくらい
昼下がりの公園は穏やかで

誰もが冬を忘れていた

2023年2月18日


#詩


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?