見出し画像

#詩 2023年1月④


「しにふれる」



ねむれない夜
今日を終わらせたくなくて

何もなせなかったと
後悔ばかりを募らせて

まばたきの数だけ
傷は増えていくというのなら

悪夢と対峙する勇気を
まぶたの裏にそっと閉じこめて

わたしはしにふれる

目をあける
生きているという不思議

朝でも昼でも真夜中でも
おはようとありがとう

2023年1月22日



「ともしび」



もし生まれ代わっても
私にだけは戻りたくないと

深海の底の泥の中で
日の光を求めるのは
息苦しいから

なのになんでかな

やり直せるなら
子ども時代に還って

もいちど

あなたたちをつなぐ
ともしびでいたい

なんて

そんなのおかしい
子どもの考えじゃない

だから
私と世界だけの秘密だよ

2023年1月23日



「四季をついでいく」



いつか太陽が50億年もしたら
形を変えてしまうように

四季おりおりのありようも
変わっていってしまうというのなら

真夜中になくひぐらしと
桜梅桃李のまいちるさまを

真昼の十五夜と
雪紅葉のまいちるさまを

もう同じではいられなくて
それでも変わらないありかたを

四季をついでいく

2023年1月24日



「みなも」



こまかな粒の集まりが
ぼくらの最小公倍数

点と点の隙間に流れる記憶
いまにも零れそうな感情

表面張力でつむがれた
こころの水面が揺らめいて

かなしみだけでも幸せだけでも
きっときっと足りないから

すべての感覚器官を波にゆだねて
今日もぬれながら生きていく

響けと、届けを繰り返して

2023年1月25日



「浮かびあがる」



わたしとわたし以外の境界線上を
つま先立ちで削りながら歩いていく
そんな生き方はやめたんだ

浮かびあがったわたしと
切り離された世界とが
競合してたまらなくなる

みぞに注いでいく
癒着しても構わないから
そこから溢れ出たものがきっと
わたしの生きたあかし

2023年1月26日



「あの空の青さ」



あの空の青さを
青くおもえない
私が嫌いだった

満天で全天の青に
苦しみしか見出だせない
そんな私がたまらなく嫌で

あの空の青さが
ただ青いことが
嬉しくて

私は詩を
かいてもいいんだと
許された気がした

2023年1月27日



「ぽたぽた」



電線でうっすら綱渡り
軒やひさしの三角にぶら下げり

夜の思い出が目を覚ます頃

日差しのシャワーを一身に
子どもみたくはしゃぎだす

まるでここは岩か崖か飛び込み台か
次から次へと喜んでは飛び込んで

ぽたぽた ぽたぽた

はじけて舞って

ぽたぽた ぽたぽた

私だけのしぶきよ

やまないで

2023年1月28日



「トゲトゲ」



誰にも触れられたくないからと

せっせと夜なべしたトゲトゲに

全身いたるところ貫かれて痛いよ

転がって流されて打ち捨てられて

誰にも触れてもらえないと涙して

トゲトゲは綿毛となって風に消え

むき出しの神経だけの存在になる

飛んでいったトゲトゲの夢をみた

2023年1月29日



「あまり」



なにひとつ捨てきれない
大人になれないわたしの
割り切れないわり算に

余りなんてない
余っているものなんて
なにひとつなかったんだ

割り切れないまま残ってる
のぞけないものものばかり
その部分にこそわたしがいると

残りものを抱えたまま
答えなんて知らないまま
なにひとつあますことなく

2023年1月30日



「ぺらり」



紙をぺらりとオノマトペ
虫たちよりもささやかで
だけどずっとフォルティッシモ

次へ次へとたまに戻れと
せかしてはやして
もうぜんぜん待ってくれなくて
なんてめちゃくちゃオーケストラ

ああうすい
めくりたくない
ひらりおわる
ぱたんとん
またこんど
うたおうね
まぶたをならし
おやすみ

2023年1月31日


#詩


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?