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#詩 2023年3月③


「春にしかられる」



あなたが薄着で楽しそうだから
わたしもつい真似して脱いでいく

部屋のカーテンも窓も扉も開放して
重たいものはクローゼットに隠して

あなたのコーデは終わっていなくて
わたしはもうすっかりだらしなくて

そんなんじゃ風邪ひくよって
精一杯の冷たさで温めてくれたんだ

2023年3月12日



「このままで」



いたみなんてなかったから
気づかないままでいたんだ

ガラスフィルムについた一条のあと
日に日に増えていく透明な線

みっともないから換えなよって
そうだねってぼくは微笑んで

傷なんて初めからなかったみたいに
簡単に元に戻せてしまうから

だからもう少しこのままで
みっともないままで

2023年3月13日



「群青」



あなたとの想い出をたぐりよせては
薄いトレーシングペーパーをしいて

間にカーボン紙を射しこんでいく
私の記憶より頼りない群青を

あなたの笑顔の輪郭をなぞっていく
おかしいな、どう見ても泣いている

楽しいことも一杯あったはずなのに
もう、名前さえもにじんで読めない

2023年3月14日



「深海の底」



もういいよって
言われた気がしたから

深海の底でゆっくりと息をはいた
コトバが泡に守られて上へ上へ

魚の群れには当たらなかったのに
海面をこえられなくて

消えずに残ったコトバたちも
泡をうしない途方にくれて

あとは鳥か風か波かあなたか
みつけてくれることを祈ってる

2023年3月15日



「これすっぱいやつ」



これすっぱいやつ
これすっぱいやつ

でもガムってかいてあるよ
これすっぱいやつだから

お母さんのいいつけを守りたい
おねえちゃんと

なんでも手にとってさわりたい
おとうとくん

これすっぱいやつ
これすっぱいやつ

見ている人みんな唾液まみれ
それはきっと甘いおやつの時間

2023年3月16日



「つぶやき」



あなたのつぶやきが
いつか蝶になってひらひらと
誰かの心を羽ばたかせたとき

愛は生まれ芽吹き育まれ
いつか嵐をとめるちからを
手に入れる日がくるかもしれない

あなたがもう
いなくなってしまった世界で
愛が代わりに歌ってくれているから

あなたが知らないだけで
あなたがつぶやいただけで

2023年3月17日



「私は何も失っていない」



言葉が泉の中にあったころ
かれ果てるんじゃないかって

言葉が涙の中にあると知った朝
心は切り売りされなくなったから

手放すたびにかえってくる
いくらでもとめどなく

私は何も失っていない
何も失ってなんかなかったんだ

だから、私たち
何も失ってなんかないんだよ

2023年3月18日


#詩

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