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庶民のサロン

かなり昔の話。
大抵どこの家にも風呂がなかったので、「銭湯」が主流。
近隣には3〜4軒点在していました。庶民のささやかな「憩いのサロン」だったのです。決まった時間に決まった人が必ずいました。話題は野球か相撲。
「巨人、大鵬、卵焼き」
対して、
「阪神、柏戸、たこ焼き」
「オッチャン」たちの笑い声は天井の高い脱衣場に木霊します。

風呂場の壁には大抵富士山の図柄。定番だったのですね。

小さい頃は「親父」と一緒。
特に親父は綺麗好きで、工場勤めから帰ると汗まみれの全身を洗い流したい衝動に駆られ、すぐにタオルと石鹸だけを持ち私を誘います。桶は銭湯に用意してあるので、手にはしません。番台には、いつものおばちゃんが笑みを浮かべて迎えてくれます。
当時はシャンプーとかリンスなんてお洒落な代物はありません。頭の上から下まで全て石鹸で洗います。親父が自分が髭を剃った後、私のどう見ても髭とは思えない産毛に剃刀を当ててくれました。その途中で顔を動かしてしまい傷を負ったこともしばしば。
「動いたら駄目だろう」
と言いつつもタオルで血を拭ってくれました。男前の優しい父親なのです。

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