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海は遠い
初めての海との出会いは、最悪だったらしい。
ほんの幼い頃、親は私が喜ぶだろうと海に連れて行ったら、怖がってほとんど入れなかったそう。
まったく記憶にないけれど。
末の妹が生まれる時、母は里帰りしていて、父は私と小さな妹を連れて海に行った。
でも“お母さんがいない海”はつまらなかった。
小学校高学年のとき、習い事の夏の行事で九十九里浜へ行った。親は来ていない。
地引き網を引いて、スイカ割りをした。
砂だらけのスイカを波で洗って食べた「潮味のスイカ」が美味しかった。
大人になって、友人たちと行く海は、夏の晴れの場所だった。
ぷかぷかと穏やかな波に浮いていたり、ビーチに寝転んだり、時には離岸流に流されそうになって必死に戻ったり・・・
海は温かくて青くて、日差しは輝いていた。はず。
いつしか海が遠のいて-
今年、4月のザーザー降りの雨の日、友人が出展しているイベントへ行った。
海辺の会場から出て道路を渡ると、誰もいない海。
海は空の色を映して、空と海の境界があいまいで、西湘バイパスの高架下では、波が低く恐ろしい音を響かせている。
おっかなびっくり近づくと、不意に波が押し寄せて引き込まれるかと、ドキっとする。
振り返っても誰もいない。
この歳になって、海の知らない顔を見た気がした。
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