見出し画像

聴覚と心で味わう90年代スケベ文学 『音楽ぎらい』面影ラッキーホール/Only Love Hurts

面影ラッキーホール(現Only Love Hurts)の2ndアルバム『音楽ぎらい』をおすすめしていきます。
ハマる人には凄いハマると思うので、試しに少し聴いて行って欲しいです!

おはようございます。

この記事では面影ラッキーホールのアルバム『音楽ぎらい』を紹介します。
ファンキーなサウンドに生々しくかぐわしい生/性の物語を載せた、独特な世界観が魅力です。

わたくしおスケベなネタはNGですの、というお上品な方々はすぐにブラウザバックだ!お家に帰ってママと一緒に王道のJ-POPを聴いてなさい。
そうでなければ是非読んでってください!


面影ラッキーホール/Only Love Hurtsの紹介

旧名「面影ラッキーホール」 通称「O.L.H.」。
2013年10月より「Only Love Hurts」に改称。
1992年創設。今や日本に現存する唯一(?)の非感謝系音楽実演家として知られる、X-RATEDノワール歌謡ファンクバンド。

O.L.H公式サイトProfileより引用

メンバーにボーカル、ドラム、ギター、コーラス、パーカッション、ベース、ホーンが在籍する、豪華な編成のファンクバンドです。
2020年に、キーボーディストの曽根川昭雄さん(sonech, SONeY)が逝去されました。

2ndアルバム『音楽ぎらい』は1999年12月22日発売。
ボーカルと作詞はaCKyさん、このアルバムでの作曲は主にaCKyさんとベースのsinner-yangさんが担当です。

シモネタをさらけ出す物語音楽

このバンドの最大の特徴として、aCKyさんの生み出す詩が物語的です。
物語的な音楽を紡ぐアーティストでは、私は大槻ケンヂとSound Horizonも好きです。
大槻ケンヂは歌詞にほとんど下ネタを使わず、使ってもあまりエグイ感じは出してこないです。
Sound Horizonは設定が性的なことがままありますが、歌詞自体は婉曲的な表現を使うことが多い気がします。(色々な要素を組み合わせて聴き手に想像させるから、逆にエッチかもしれないけど)
一方で、面影ラッキーホールは生々しい下ネタを歌詞や舞台設定にぼかさず使用する傾向にあります。

aCKyさんが紡ぐ物語の舞台は、曲が作られた当時の日本です。
登場人物は普通のスケベな一般人だったり、チンピラ、水商売に従事する女性、家庭環境が最悪だった人、あるいは真面目にやってきたけどちょっと道を踏み外しちゃった人なんかも出てきます。
総じて性欲や恋愛欲などの欲求、周囲からの抑圧などに苦しんだり、あるいは束の間満たされている人間の、等身大の生きざまを描いています。

キャッチーで聴きやすい曲調

ここまでお読みになって「下ネタ満載」ということで、万人受けしない音楽性なのかな、と思ったかもしれません。
しかし作編曲は王道のファンクや歌謡曲調で非常に聴きやすいです。
カッコいいブラスやギター、ノリノリのリズム隊、鼻歌したくなるメロディー、良い声の女性コーラスがあなたを待っています!

アルバム総評&この曲だけでも聴いて!

『音楽ぎらい』の聴き心地について、ふわっと述べます。
物語が心にしみじみ来る曲や、ちょっと笑える曲、昔の日本が垣間見える曲など様々な曲がそろっています。
また英語詩や難しい表現がほとんど出てこないので、基本的に聞き取りやすいです。
アルバム全体で緩急がしっかりしているので、1曲目から通しで聴いても全然楽しめると思います。全曲おすすめ。

とはいえ全部聴く暇はないぜ!という方のために、個人的に特におすすめの曲を3曲挙げます。

給料日さん

25日にしか来店しない男性客に恋してしまった水商売の女性の、甘酸っぱい片思いの詩。
曲調はおしゃれなシティポップ的歌謡曲です。
カットインするため息に、かなわぬ恋への複雑な感情と恋する女の色気がむんむんに籠っていて良い。
受け身の態勢でずっと待たざるをえないあきこさんの切なさが本当に胸に来る。月に一度だけってかなりしんどいですよ。供給が余りに少なすぎる。

おらんだ花嫁

おらんだ花嫁=ダッチワイフです。(ダッチはオランダの意味)
裏通りのお店で売られていた「まちこ8万円」に一目惚れして家に招いた、男やもめのおじさんの歌。
金管楽器とピアノの陽気なサウンドに、眩いばかりのオランダの丘のイメージが乗る曲です。
本当はギャグとして聴くのが正解なのかもしれないけれど、美少女ゲームやアニメのキャラなど、「生身の人間の抜け殻」的存在を好きになったことのある方なら、きっとこの曲の切なさが分かってくれるはず。

ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった

学のない一人暮らしのホステスさんが、気まぐれで新聞の定期購読を取ってみたよ、というだけの話。
しかしその情景を起点に、彼女が勤めるクラブの環境だったり、実母や付き合ってる男に関する思い出なんかがぽつぽつと語られてゆき、ホステス「ヒトミ」の生きざまが徐々に浮かび上がっていきます。
ラップ的な歌い方で、曲調はゆっくりと聴かせる横ノリの感じです。
ゲストボーカルの川村結花さんはシンガーソングライターで、SMAPに「夜空ノムコウ」を提供されたりしている方。

以上、おすすめ曲はいかがでしたか?
気に入ったらぜひ他の曲も聴いてみて下さい!
この記事の末尾にアルバム全体のサブスクリンク貼ってあります。

おわりに

面影ラッキーホールはいかがでしたでしょうか。
スケベにしか書けない文学だってあるんです。皆さんもスケベに正直でありましょう。

彼らの魅力が少しでも伝わっていれば嬉しいです。
面影ラッキーホールは1stアルバム『代理母』も滅茶苦茶良いので、よろしければそちらも聴いてみて下さい。
(『代理母』は思い入れがありすぎて収拾がつかなくなりそうなので、今回記事にするのを見送りました。noteにもっと慣れてきたら挑戦したいです!)

お読みいただきありがとうございました。

おまけ:全曲レビュー

アルバムの全曲について、感想を徒然と書いていきます。
読んでってくれたらうれしいです!

温度、人肌が欲しい

HIV陽性となってしまった男性の、性的接触したいけど出来ないというムラつきと涙ぐましい試行錯誤を歌った曲。
これぞブチ上げる時のファンクロックって感じで、演奏がマジカッコいい。
ちなみに中盤に挿入されるエッチな電話の寸劇ですが、歌詞カードによればお相手は「たまたま電話が繋がった子」。いやその部分はノンフィクションなんかい!道理で生々しいワケです。

コロナ禍を経て最近梅毒が再流行しているというニュースをよく聞きますけど、この歌の主人公は他人に伝染さないよう我慢してて誠実ですよね。
いや、"誠実さ"なんていう道徳を大人しく保っていられないほど、2023年の日本人は余裕が無くなってきてしまっているのか?

ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった

このホステスさんも、彼女なりに真面目にやってきた純粋な方なんだなあと私は思いました。
新聞を取ったら取ったでちゃんと読んで、営業トークにきちんと生かしているし。母親や周りの人間からの言いつけはしっかり覚えているし。基本的に他人みんなに優しいし。
だから、せっかく能力があるのに、自分の意志で主体的に現状を変えてやろうという気持ちを持たないのが私にはもったいなく感じます。当時はまだ、女性は社会に参画する風潮が薄かったのでしょうか。

……ああ、私みたいな奴が、水商売の女性にガチ恋して「君をここから救ってやる!」とか勝手なこと言い出す厄介客になるんでしょうね。
彼女自身にとってはべつに今の環境で十分なのかもしれない。

給料日さん

私も片思いの経験が何回かあるので、このなんのしがらみも打算もないピュアっピュアな恋が滅茶苦茶刺さります。
第一印象は悪かったけど徐々に相手に惹かれていくの良い。
この曲もそうですが、女性はやはり自分の父親みたいなタイプに弱いんですかね。よく聞きますよね。

この曲のあきこさんも、今のまま片思いでとどまっている方が結局はいちばん良いのかもしれない。あきこさんサイドから動くのはリスクがありすぎる上にリターンが薄いし、もし男性が動いたにしても、「君をここから救ってやる!」とか勝手なこと言い出す客はろくな奴じゃないですよ。うん。

100万人のポルノスター

ポルノスターは100万人の男どもの色々な性癖に答えて踊る。一体彼女は俺たちをどこへ連れていくのだろう、という高尚な哲学と新たな性癖の夜明けを感じさせる渋い曲。
ローテンポでヌルっと始まって、サビがぐわんと盛り上がる曲。
男の喘ぎ声をバックに入れるの好き。

最後のSM女王の声は南智子さん。Wikipediaによればエロティシズムに関するマルチな活動家で、痴女という概念を世間に浸透させた凄い方らしいです。南さん、色々とありがとうございます。

おらんだ花嫁

最後にまちこがしゅんっとしぼんでしまうのがほんっとうに切ない。
おじさんはあくまで純愛の気持ちでそれまでまちこと接していたから、だからこそ一夜の感情の昂ぶりが取り返しのつかないことに繋がってしまった。
例えこの時まちこが壊れなかったとしても、おじさん側は自分がしでかしてしまったことに滅茶苦茶ショック受けて、もう以前のような気持ちではまちこと接することが出来なくなったんじゃないかと思う。
けど、おじさんはまちこと出会えて幸せだっただろうな。
関係ないけどオランダの情景の解像度が余りにも薄すぎて好き。

最近Amazon Primeで「うれしはずかし物語」という日活ロマンポルノの作品を観ました。中年男性がちょっと道を踏み外して若い女の子と遊ぶ話なのですが、この男性も目的はあくまで性欲処理ではなく「純愛」でした。
おじさんになると恋がしたくなるんですかね。

東京(じゃ)ナイトクラブ(は)

ナイトクラブに赴く男と女の、これから起こる出会いに期待する高揚感を歌った曲。
ディスコソングって感じでギラギラしてます。
途中ロボット声で発音される謎の固有名詞は当時の有名なクラブの名前。
当時ナイトクラブはナンパの温床だったらしいです(日刊SPAさんの情報)

54日間、待ちぼうけ

ある日突然帰ってこなくなった愛する男を、ただ待ち続ける女性の歌。
萩原健一さん(ショーケン)の楽曲をカバーした渋めのロックバラードです。
ショーケンさんはクスリをやったり交通事故や暴行事件起こしたりアウトローな俳優さんらしいです。
「壁の向こう」とか「54日間」というワードがピンとこなかったのですが、町山智浩さんによればショーケンさんが拘留されたのが54日間だったらしく、彼を待つ奥さんの心情を勝手に想像して書いた詩だとか。
歌詞が無茶苦茶カッコいい。

360°ノーマル

スケベなパートナーのためにちょっと頑張ってアブノーマルなことを試してみようとしたけど、「やめてよ、いつもの奴にして」とはねつけられる歌です。
人は過激なエロに憧れるものだけど、結局は一周回って普通が一番なのですね。

パートナーのことを思って贈り物をし、結果的にお互いの目的がすれ違ってしまう。
これは現代版の『賢者の贈り物』なのですかね。
いや別に身を切る程の自己犠牲はしてないか…

好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた2000

メンヘラという言葉が恐らくまだなかったであろう時代に自傷行為の心理を歌った、1stアルバムにも入っている名曲。
感想は1stの時に書きたいです。

アーバンギャルドの松永天馬さんと、ぺこーらに告白する歌を歌っていた小林私さんのカバーがどちらもカッコいいので、聴いて欲しい。

男ののど自慢

波乱万丈で不器用な男性「サチヨさん」のこれまでの半生を紹介する朗読詩。
ひたすらにかわいそう。これからの人生は報われて欲しい。
最初聴いたときサチヨさんは女だと思い込んでいたんですが、ちゃんと聞けば普通に男ですね。
のど自慢で歌う直前の歌い手紹介ということなんだろうけど、本家は5分もやるんですかね。下手したら本人の歌より司会の喋りのが長いのでは。
この曲だけ作曲は横川理彦さんという方。

以上、全曲レビューでした。
全曲書くと時間かかって、投稿頻度が下がってしまいますね。難しい。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!!!!!!
是非他の面影ラッキーホールも聴いてみて下さい!

付録:サブスクリンク集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?