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書評 誰が麻雀界をつぶすのか


このnoteは近代麻雀出版の「誰が麻雀界をつぶすのか」の感想と個人的意見を書いています。(6000字を超えて長いです)


理牌問題に見る麻雀の競技性とエンタメとの妥協点


理牌の仕方によって対局に不利が生じる可能性があるという側面は突き詰めれば否定できない。

これについて黒木さんも放送対局ということも踏まえ理牌することが必要との意見だが、実際のところ理牌をするにはするが分かりづらいという雀士もいる。

特に入り目に関しては別にする雀士はかなり多い。

だが、これもきちんと理牌すること。入り目もきちんと牌に入れること。これを全員に徹底すれば全員公平になり真剣勝負の競技性は揺らがない。入り目を牌に組み込むことで麻雀の競技性がゆがめられる側面もあるかとは思うが、そこは割り切らざるをえないのではないかと思う。(各団体のリーグ戦は入り目は別にしたらいいと思う)

Mリーグでは現状でも 盲牌する 毎巡考慮時間が長い 入り目が理牌されない などの視聴者ライクではない長年の麻雀界の常識が多く残っているが各プロ雀士の所作が尊重されている。

本が発刊された後の黒木さんのスペースで切るのが早い人は100%までの結論に至らないまでに80%程度の整理で切っているのではないかと黒木さんが言われていたが、視聴者が望むのはそういう雀士だと思う。

当然1局の間に数回は手を止めるシーンはあっていいと思う。逆にそれで判断の分岐点だと分かるし、そこで何を考えているか、雀士と一緒に考えるのも楽しい。しかし、それを超える回数の長考ならば単に切るのが遅いというだけで、雀士が100%理解したいだけという自己都合の考慮時間に視聴している100万人の時間が浪費されているだけになってしまう。

入り目を手牌に組み込む雀士も対局上は不利になるのだろうが、逆に視聴者には優しい雀士である。入り目が分かれていれば、三色や一盃口などの役が分かりづらい。待ち牌表示はされているにしても手牌を見て役を理解したいのが視聴者というものだ。

つまり、早く打つ雀士、入り目を組み込む雀士。こういった視聴者ライクな雀士ほど厳密な部分で不利を被っているのは、逆に真剣勝負の競技性の純度を下げる要素にもなってしまっている。

打つのが遅いということに関しては、対局中に対処はできないと思うが、対局後に個別に雀士に指導・注意すれば良いのではないだろうか。(それを視聴者に伝える必要はない)繰り返しになるが1局中に数回の長考はあっていい、しかし、長考が1局で5回を超える雀士、一打一打が遅い雀士には注意を促すべきと思う。

全体に局進行が早くなり番組の尺が不足する場合は、1局目と2局目の間に控え室の様子を映したり、何らかのイベントを挟んでも良いと思う。

また、盲牌しない。ツモ牌はきちんと見せる。リーチ後の捨て牌は手元に持ってこない。などの雀士の意識にばらつきがある部分も、局後に個別に指導・注意をすれば良いと思う。

この本では世の中の麻雀ユーザーに警鐘、警告を鳴らしている。麻雀界を良いものとする上でそれは必要なことだ。一方、プロ雀士側の自由は尊重し、自主的に視聴者ライクに対応することで良しとしているなら、麻雀界は自らに甘いんだなと言われても仕方ないのではないだろうか。

小林選手はMリーガーはきちんと理牌すべきと、視聴者ライクな対応に務められている。全体的な麻雀プロの意識も相当高く保たれているとは思う。しかし、やはりかなりばらつきはある。盲牌や遅い打牌、入り目を別にする、ツモ牌が見えないなども基本的には各麻雀プロの自主性に任せ、特に注意されることはない。麻雀界が信義則で成り立っているということなら、プロ雀士側にも相応の対応があっても良いと思う。

麻雀プロは人生を見せる存在


本の中で麻雀プロの存在意義について上記が書かれていたことについては同感だった。Mリーグを見て、一打一打の打牌の意味を理解して見ている視聴者がどれだけいるだろうか?

Mリーグの一打一打の意味までは理解できない

私の周りでMリーグを見ている人からはこういう声を聴くことがある。神域リーグを見て分かったが、誰か一人にフォーカスすれば場面の状況はかなり理解しやすい。しかし、4人の進行をそれぞれ平行に理解し、その中の1人に重要な判断局面が来ているというようなことは理解するのはかなり難しい。

私はあえて最初から追っかけ視聴しながら、重要と思われる局面は画像を止めて問題点を理解したりしている。

しかし、個人的には一打一打の意味を理解する重要性はそれほどないとも思う。

これは麻雀に限った話ではない。

人が人を説得する。説明するときにその人の説明が信用に足るかどうかは、話の内容ではなく「仕草や声の具合、態度でどう話しているか」ということに大半が左右されると言われています。

そういう意味では、解説者が「押した」「引いた」「これを目指した」という断片的な情報と、実際に打牌している雀士の姿があれば視聴者は大筋の流れを理解して見ていると言える。(リアルタイムで打牌の善し悪しを自ら判断できればそれはそれで素晴らしい)

つまるところ、Mリーグの視聴者はものすごく上手な麻雀を打っている人を見たいのではない。チームを背負ってどう押し引きをしているのかという部分を楽しんでいる。そして、結果として勝った負けたに一喜一憂する。その勝った姿、負けた姿に感情移入する。その一喜一憂の裏付けとして解説者が個別に説明される「ものすごく上手く打った」部分を聞いて納得する。そういう順序であって、ものすごく上手い麻雀を見たい人は少数になると思う。

私は職業的麻雀打ちを見たいのではなく 一人間としてのプロ雀士を見たいといつも思っている。

日吉プロが風の話をするが、小林選手は「あぁ、牌がそこに積まれているだけですからねぇ」と答える。これはこれでありだと思うものの、全員が全員「そこに積まれているだけですからねぇ」と淡々と麻雀を打って、役満を振り込んでも「あぁ、高いですねぇ でもそれが麻雀ですから」みたいな感想しかなかったら、Mリーグを見る人はかなり少なくなると思う。ウソでもいいから「あれは参りました」という悔しい表情の一つはしてくれても良いと思う。

デジタル派の雀士が言いがちなことだが

気合い入れても入れなくても積まれている牌は一緒でしょ?

これに対して返す言葉はない。

しかし、そうじゃないんだよなぁとも思う。

何十年と麻雀を打っていれば、どんなことがあっても動じないだろう。それが仕事であって、いちいち本気で一喜一憂していたら何十年も続けられない。

だが、それをうまく視聴者に表現することで皆がハッピーになることもある。

近藤プロが倍マンをツモった時のように、迫真のツモり方、息も絶え絶えに裏ドラを開ける仕草。それがあってはじめて成立したドラマだったのではないだろうか。そして「プロ雀士」とはそういうことではないのだろうか?

魂はないんです でも、魂は込めて打ってます

最強戦でコメントされた近藤プロの一言は印象的だった。

打牌を妥協する必要はない。ただ、プロ雀士はやはり人生をかけて戦っている。そういう要素をどうやって表現できるのかというのもプロ雀士の実力ではないかと思う。

麻雀が強い人がMリーガーになるのか


本の中で麻雀が強いプロと放送対局に必要とされるプロの違いに触れられていたが、ここは日ごろから感じるところだった。

将棋や囲碁は強ければ賞賛される世界。だが、麻雀界もそうだろうか?特にMリーグは麻雀が強ければ入れる世界なのだろうか?

Mリーグはチーム戦で、雀力の違う同士が1チームとなって戦うから面白くなっている。誰が出てきても等しく最強のチームとなった場合、それが面白いのか分からない。RTDは最強に近い人が集まって戦ったが、Mリーグほどの人気には到底及ばなかった。

ひりついた麻雀を見るのは面白いとは思う。

しかし、それが大衆にニーズがあるのかというとそれはよく分からない。そこまで集中して4時間の放送を見ている人がどれだけ居るか分からないし、大味な試合になったとしても実況と解説が優秀だからどんな対局でもそれなりに意味のあるものにしてくれている。

私個人の意見だが、Mリーグで必要とされる麻雀プロには何らかのプラスαを持っている方が見ている側からするとキャラクターを理解する上でわかりやすいと思う。

純粋に見た目が良いということだったり、俳優や声優のような別のジャンルでも一流であったり、ヒーロー気質を持っていたり、か弱かく純真無垢で思わず応援したくなるようなキャラだったり。

ある意味、麻雀プロがまず何か別の業界に入り込んで一定のファンを獲得することもあながち遠回りではないのかもしれない。協会の宮pがスリアロの人狼レギュラーをやっているのは非常に興味深いと思う。

しかし、各団体のトップタイトルを取るような雀士は何らかのプラスαを持っているからそのタイトルを獲れた。とも考えられるから、結果的には頂点を目指すことが近道なのかもしれない。

Mリーグは強いということが絶対の世界ではなく、視聴者のハートを掴んだ人が勝者ということが人選の一つになることは間違いないとは思う。

麻雀界を潰しかねない人


Mリーグを見てごちゃごちゃ言う人は多い。

それが麻雀界の弊害になっているのは間違いない。それは麻雀ガチ勢でもなくライト層でもなく、Mリーグについてネガティブな感想をいただきがちな人々だ。

正直、私もMリーグでネガティブな感想を持つことはある。だが、幸いにもそれをある程度抑えられるし、抑えられないときはある程度小出しに毒を吐いたりしてるので黒木さんに目をつけられるようなことはしていないと思う。

黒木さんはそのようなネガティブ勢のことを熟知していることもあり、この本の中には、そういう人々が文句言わないようにする伏線が多すぎて読み進めるのが非常に面倒な部分があったことは否めない。

基本的にネガティブ勢に対しては

なら見なきゃいいじゃん

ってことに尽きると思う。

話は逸れるが、Mリーグで画面上に出てくる専門用語の解説も、いわゆるうるさい人対策で面倒くさい説明になっていないか?と思うことがある

暗刻(アンコ) ポンをせず配牌やツモで揃えた刻子(コーツ)555、西西西など手牌に3枚同じ牌を揃えたメンツ

abemaテロップ

これには誰も文句を言えない。しかし、ぱっと見てこの内容を理解できる麻雀初心者の人がいるようにも思えない。

そういう人を割り切ってしまえばこうなると思う

暗刻(アンコ) ポンをせずに同じ牌を3枚集めたもの

これならすっと入ってくると思う。麻雀という複雑な競技についてはケチをつけようと思えば、いくらでもつけられるから、メディア側も必要以上に警戒しなきゃいけないのは分かるが、それによって弊害も出てくるならそれはいただけない。

私たち視聴者は出されたものを食べることしかできない。100万人視聴者全員に同じものが提供されるのである。それは自分の意にそぐわないものが出てきても仕方ない。

「わぁ~美味しそう」と言って食べれる人はだいたい幸せな人だと思う。自分に暗示をかけてたとえ味が普通でも脳内である程度美味しいものに変換できる。

そういう「楽しめる能力」が高い人をネガティブ勢は良しとはしない。

「あそこで勝負にいくなんてプロとしてありえない」

「それを見てかっこいいとか言っているやつは本当に理解しているのか?」

これはつまり余計なお世話だ。せっかく自分が脳内でポジティブに変換しているのに、ネガティブな方向に持って行こうとする力が働いてしまう。

Mリーグを見る95%の人はすべてをひっくるめてMリーグを応援している。

残りの5%の人は楽しんでいないのか?と言えば、そんなこともない。結果的に残りの5%程度の人は批判することを自らの燃料にしてMリーグを楽しんでしまっている。

問題はこのネガティブな楽しみ方がポジティブな楽しみ方をしている人の弊害になっていることだ。

MリーグがSNSを利用して大きくなっている以上、そういった弊害はどうしてもついて回るし、ある意味どうしようもない。

私は雷電ユニバースの人々と付き合いが多い。雷電ユニバースはそのようなネガティブ勢に対する耐性ははっきり言ってかなり強い。

だが、選手は?と考えると、それは別の話になる。

ネガティブな楽しみ方をすることを否定はできない。しかし、それでポジティブにがんばっている選手の足を引っ張ることは許されない。

それこそ、麻雀界をつぶす原因ではないだろうか。

麻雀プロは麻雀を追求し、また、ファン層拡大のためにジャンル違いのことにも活動範囲を広げるなどに忙しい。ネガティブなSNSに足を引っ張られるヒマはない。

ネガティブ勢の選手批判の裏にはプロ選手は批判されて当然という理由があるようだが、叱咤激励と批判は性質が違う

本当に雀士に強くなって欲しいと願うのであればじっと見守ることも必要で、状況と言い方によっては叱咤激励もあり得るだろう。しかし、批判したいだけならやはり見なきゃいいじゃん、もしくは、自分の中で整理つけろよ と言われても仕方ないと思う。

本の中で黒木さんもここまでは書いていない。しかし、ネガティブ勢に対するヘイト感はあって、そこはとても面白い。

この本の隠れた見所でもある。


本のお買い得度


1,150円+消費税という価格だが、読んでみての満足感があるかと言われると、それはそれである。あらゆるテーマに触れることができたという意味で、満足感はある気がした。

そして、この本は麻雀界の道徳本である。

麻雀界において、日ごろ問題行動を起こしている麻雀ファンには無料でもいいから強制的に読ませたほうがいい。

逆にわざわざお金を払ってこういう本を買う人は、日ごろ問題行動を起こしていない人が大多数だと思うので、この本をあえてお金を払った人に読ませるべきものなのかという部分もある。

麻雀界に存在する各種の問題を選手の実名入りで読めるという意味でお得であり、そういうことを知っておきたい人にはお勧めしたい。



追記 近代麻雀金本氏の策略


表紙にある「メディアの横暴か アンチのTwitterか 競技のマニア化か プロ団体の固執か」という部分だが、本の中で掘り下げられた箇所はないので、そこまでの刺激性は期待しない方が良いと思う

この本は黒木noteを母体に編集されており、黒木noteの中で麻雀ファンに向けた内情説明や新人麻雀プロへの教育関連の詰め合わせになっている。

色々問題はあるけど希望はある、といったような盛り上がりはなく、プロ雀士のちょっといい話的なものも荒さんの部分を除いてはない。

第2弾では黒木noteの麻雀プロの良い話を集めたのが出るのではないだろうか。個人的にはそう予想する。

また、全体的に問題点を説明し、ファンにも一緒に考えることを促しているようにも思えるが、清水香織さんや長村大さんのような改革してくれそうな人の意見も取り入れたらもっと面白かったかもしれないと思った。

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