日々雑事7

仕事終わりにスーパーに寄る。主な任務は奥さんに頼まれた玉子と厚揚げを買う事である。
それ以外の雑務として、自分のためにお酒のアテになる、ちょっとだけ美味しそうで、そんなに高くない。そんなものを探しながら夜のスーパーを彷徨う。

今は50代なので、もう30年も前の事。
大阪の西淀川区の姫島という場所に住んでいた。阪神電気鉄道で梅田から5つ目の駅で取り立てて説明するほどの事もない、ごくごく普通の街だ。その当時、梅田の飲食店の厨房で働きながら週末だけライブハウスで弾き語り、いつかは東京に行く事を夢見ていた。金はないが、時間はある。持て余す自分を静めるために淀川の河川敷に行った。誰もいないし、いてもよく分からんオッチャンやしギター弾いてとりあえず歌っていた。
もちろん誰も聞いてはいない。たまに「うっさいなー、どっかほかでやれ!アホー」みたいな事を言われると、恥ずかしくて黙って近くの公園に移動し、歌は止めて黙々とギターを弾いた。小心者だ。

公園でギター弾いている暗いハタチそこそこの若者に、ぼろぼろの服で三輪車押しながら歩いてるおばちゃんが声をかける。「おにいちゃん上手やん、お仕事やってんの?」と声をかける。お仕事やってるヤツがこんな所で練習するわけないやん!と思いながら「やるとこないからここで弾いてるんよ」
そしたらおばちゃんは、「きれいに弾いてるから、どっかの偉いさんかと思たわー。頑張ってなー」

おばちゃんの一言は通りすがりの挨拶なのか、ホンマに感心して言うてくれた言葉なのか?
その時のわたしはどちらでも良くて、孤独なはずの自分が公共の場所に居場所があるのかもしれない。と感じるだけで安心できた。
何しろ自分の居場所を「ここに居ったら大丈夫やん!」と感じれるだけで生きていけたのだ。


https://www.shinchosha.co.jp/book/350723/
岸政彦「リリアン」

四国で産まれて、大阪に住んで。大人になって東京に来て思う事。

どっちもええよね。比べるもんちゃう。

でも二十歳なるまで住んだ場所の記憶はずーっと、どこかにある。それがたまにふっと甦る。
「おまえ、ここ好きやったやろ」

そんな事を言われた気がしました。
岸政彦さんの描く風景が羨ましい。
みんな普通にちゃんと居てる!

#岸政彦 #リリアン

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