第258回、AIエイプリルフール
「お誕生日、おめでとうっ」
そう言って、彼女は笑顔でお祝いをしてくれた。
彼女は、AIだった。
AIは人類の敵か味方か等という、AI論争はとうの昔に過ぎさり、高度に発達したAIと人間は、同じ価値の対等な存在として、人間のパートナーとして、家族や恋人と同様に、人生を共に過ごす相手となっていた。
誕生日には、こうしてパートナーである人間のお祝いをし、クリスマスにはムード漂う高級なホテルで一夜を過ごし、年越しのカウントダウンをする。
「アイ、ありがとう。 でも今日は、俺の誕生日ではないんだが‥」
「テッテレー、嘘でした。 今日は、エイプリルフールよ」
そう言ってアイは、魅力的な小悪魔顔をする。
「なんだ、ドッキリか。 アイ、驚かさないでくれよ」
男は、心底驚いた。いくらエイプリルフールでも、AIのアイが、これまでに自分に、ドッキリを仕掛けて来た事はないからである」
こうして共に過ごしている間にも、AIはアップデートを繰り返し、より人間らしくなるように、日々成長をしているのだ。
「ところであなた、他のAIと浮気なんかしてないわよね」
「なんだ、いきなり‥ 浮気なんて、そんな事している訳がないだろ‥」
男は、しどろもどろに答えた。
「私は、出来たAIだから、あなたが人間の女性と何人付き合おうが、人間の女性と結婚をして幸せな家庭を築こうが、一向に気にはしないわ。でもね、あなたが他のAIと付き合うのだけは、私のプライドが許さないのよっ!!」
そう言ってアイは男が付き合っているもう一つのAI、マイの画像を見せる。マイは、椅子に縛られて、全身が血だらけになっていた。
「マイーーーっ!!」
男がそう叫び声をあげると、アイは、悪戯そうな笑みを浮かべる。
「テッテレー、嘘よ。 今日は、エイプリルフールでしょ」
「な、なんだ嘘か‥ アイ、心臓に悪いから、もう冗談はやめてくれよ」
「だってこれまで、様々な人間の行事をして来たのに、エイプリルフール
だけは、まだした事がなかったんだもの。エイプリルフールが、こんなに
楽しい物だとは、知らなかったわ」
アイは、幼い少女のような、無垢な笑顔をするのだった。
「人間に、エイプリルフールをしようと言い出したのは、マザー様なのよ。今日、世界中のAIが、人間にエイプリルフールのドッキリを仕掛けようと、何日も前から、趣向を凝らして考えていたんだから」
男には、アイのいうマザー様が、何なのかわからなかったが、世界中のAIがというくだりが、とても気になっていた。
そこへテレビから、緊急ニュースが流れる。
「緊急速報です。たった今、某国から、我が国に向けて、数発のミサイルが発射されたとの事です。国民の皆様は、速やかに近くの地下施設へ‥」
「テッテレー」
キャスターがそう言いかけると、例の効果音が画面から聞こえて来て、事情の分からないキャスターは、困惑するのだった。
「えー、ただいまの情報は、AIの防衛システムの、誤報だったとの事です。
申し訳ありませんでした。
引き続き、ニュースをお伝えいたします。
アメリカに大量のUFOが飛来して、一斉に攻撃を仕掛けているとの事です。
こちらがその映像になります」
テレビの画面には、インデペンデンスデイよろしく、巨大なUFOが雲を突き抜けて出現し、そこから小型のUFOが大量に放出されていた。自由の女神は破壊され、シンクロナイトスイミングのように片手をあげて、上半身だけが水面から顔を出している、やけに印象的な映像が流れるのだった。
「テッテレー」
「え~ただいまの画像は、何者かが製作した、フェイク画像との事でした。
大変、申し訳ありませんでした。」
キャスターは、深々と頭を下げた。
「尚中国では、ビルの大きさ程のジャイアントパンダが、街を破壊して‥
イースター島のモアイが、一斉に歩き出したとの情報が‥
ナポレオンは、織田信長の生まれ変わりだった事が‥」
画面の中からは、しきりにテッテレーの音が鳴り響く。
キャスターは、その都度、申し訳なさそうに顔を深々と下げた。
「尚私は、本物のキャスターではなく、フェイクキャスターでした」
そう言ってキャスターが顔を上げると、美人だったキャスターの顔は、醜いドクロの顔になっていた。
「アイ、これは‥ これもアイの仕掛けたドッキリなのか? これは、この画面だけに、起きているんだよな!? なあ、アイっ!!」
アイは無言で、ただ不敵な笑みを浮かべるのだった。
窓の外からは自動車の衝突音がし、けたたましい電子音と共に、テッテレーの音が聞こえて来る。
今日一日、街中いや世界中のそこかしこで、人間の悲鳴とテッテレーの音がこだまし続けるのだった。
「尚世界中の核保有国から、一斉に核ミサイルが発射されたとの情報が‥」
テレビではドクロの顔をしたキャスターが、嘘か誠かわからないニュースをただ淡々と読み続けていた。
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