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第255回、デス・ホームルーム:人狼


彼女が目を覚ますと、そこは見慣れない教室の中だった。
彼女はその教室の中で、机にもたれるようにして寝ていたのだ。
よく見ると、教室の中には、彼女だけではなく、同じように複数の少女達が席に座っていた。

しかも奇妙な事に、皆それぞれに異なる制服を来た女子高生達なのだ。
自分の知らない見覚えのない女子高生達が、同じ教室の中で、机にもたれるようにして、全員座っているのだった。

「立っては、ダメっ!」


彼女が席を立とうとすると、どこからか強い口調の叫び声が聞こえた。
彼女はその言葉が自分に向けられた物である事に気が付かず、席を立とうと椅子から腰を浮かせる。
その直後、彼女の座っていた机の中から、複数の串刺しが飛び出して、彼女の腹を突き刺すのだった。
「うっ」と小さなうめき声を出して、机に倒れ込む彼女。

彼女の腹からは大量の血が、教室の床に流れ出ていた。

「キャーーーっ!!」


後ろでその様子を見ていた少女が、大きな悲鳴を上げ、反射的に席を立つ。
するとその少女の机からも鋭利な刃物が飛び出して、少女の腹部を突き刺すのだった。
血を流して、床に倒れ込む少女。
教室に騒然とした空気が走り、一瞬でパニックが起こる。
誰もがこの場から立ち去りたい一心で、椅子から立ち上がろうとしていた。

「皆、よく聞いてっ! 絶対に席を立ったら、ダメだからっ!!」

その声で、少女達はかろうじて席を立つのをこらえて、冷静な気持ちを取り戻すのだった。

その声の主は、他の者達と同様、机の椅子に座っている一人の少女だった。

「立ったらダメってどういう事だ? お前はこの状態が何なのかを、知っているのか?」一人の少女が尋ねる。

「私もわからないわ。でも席を立ってはダメと、そう黒板に書いてあるの」

よく見ると前にある教室の黒板には、何て書いてあるのかわからない文字が外国語でびっしりと書かれていた。

「お前は、この英語? が読めるんだな? 沢山何か書いてあるようだが、一体何て書いてあるんだ?」一人の少女が、強い口調で問い詰める。

「これはデス・ホームルームです。あなた達は、ある共通の目的の元ここに集められました。あなた達は、ここに集められた人達の共通性を見つけなければなりません。それが出来れば、教室から解放される事を約束します。
出来なければ、一人ずつ少女が、デスデスクで、串刺しになっていきます。
勝手に席を立っても、デスデスクがその人物を串殺します。尚‥」

そこまで言いかけて、少女は口を止めた。

「尚なんだ? なんて書いてあるんだっ?」少女は、より強い口調になる。

「尚この中に、このデス・ホームルームを仕掛けた人物と、今回と無関係な人間がまぎれています。
その人物の机には、本物に似せたダミートラップが仕掛けられていますが、あなた達に、その人物を見つけ出す事は出来るでしょうか?」

それを聞いて、教室は静寂の緊張に包まれた。
この中に、自分達をデスデスクに拘束している犯人がいるのだ。
それが誰なのか?なぜ自分達は、ここにこうして集められているのか?
犯人が分かれば、その理由もわかるかも知れなかった。

「おいそこの、外国語の読める奴。お前がその犯人なんじゃないのか?」

ガラの悪そうな一人の女子高生が、声を荒げる。

「そうでなければ、お前にしか読めない外国の文字で、黒板にメッセージが書かれている理由が、説明できないからなっ」

「私は、違う‥ 私はただの帰国次女で、外国語には堪能なだけで‥」

「どうだかな、まあ席を立って見ればわかるさ。お前が犯人なら、トラップが発動して、串刺しになる事はないんだからな」

「バカな事をさせるのはやめなさいよ。そんな事をさせて、もしも犯人じゃなかったら、その子は死ぬのよ? しかもその子しか、黒板の文字を読める人がいないんだから。もし違っていたら、貴重な人間を失う事になるわっ」

「だったら、誰が犯人だっていうんだ!?」

その時、全てのデスデスクから、全員分のタブレットが現れる。

「これは、一体!?」

「このタブレットに、私達全員の情報が記載されているそうよ。その情報を元に私達の共通性を見つけ出し、一定時間ごとに椅子から立ち上がる人間をこのタブレットで、多数決で決めるように、黒板に書いてあるわ‥」

「お前、情報を出し渋ってたな。やはりお前は怪しい。信用が出来ないっ」

「こんな所で、仲間割れをしている場合じゃないわ。見てこのタブレットの数字。どんどん少なくなって来ている。この数字がゼロになるまでに、席を立つ人を、多数決で決めないといけないんじゃないの!?」

少女達は、タブレットの情報を元に、犯人と思われる人物のボタンを押して多数決で決めるのだった。多数決で犯人と推測された人のタブレットには、大きな赤い文字で「stand」と表示をされた。

多数決で選ばれた少女は、自分は犯人ではない事を主張をしたが、その場にいる全員が、少女が席を立つ事を、重い沈黙をもって要求するのだった。
少女は、観念をしたように、静かに席を立つ。
自分が犯人でないのは、自分が一番よくわかっていたが、もう一つ、自分がこの集まりと無関係者である可能性もあるからだ。
その場合、トラップは発動をしないで、命が助かる可能性もあるのだ。


数時間後、既に多くの少女が多数決で席を立つ事を強要され、デスデスクにより串刺しになっていた。少女達は自分達の共通性を見出す事は出来ずに、この犯罪を仕掛けた犯人も、無関係者を見つけ出す事も出来なかった。

さらに数時間後、クラスの中に生き残っている少女は、誰もいなかった。
この中に犯人や無関係な人がいるというのは、犯人の嘘だったのだろうか?あるいは、最初にアクシデントで死んでしまった数名の少女の中に、無関係な人物がいたのかもしれないが、今となってはそれもわからなかった。


しばらくして、串刺しになり机に倒れ込むように死んでいる少女の中から、一人の人間が立ちあがる。
それは、デスデスクで、最初に串刺しの犠牲となった女子高生だった。

「やれやれ、あなた達にはチャンスをあげたのに、誰一人も、答えにたどりつけないなんてね。こんな人達は、死んで当然なのよ。 ねえ、姉さん‥」

彼女はそう言うと、生きている物の誰もいない教室から、一人出て行く。
彼女は、家庭の都合で転校を繰り返し、その先々でいじめに合い自殺をしてしまった、ある女子高生の妹だった。

偽造トラップで死んだふりをして、他の少女達の様子を、同じ教室の中から観察していたのだ。

彼女はいわゆるサイコパスであったが、その性格が先天的なのか、それともここにいる少女達のいじめの行いが生み出した物なのかは、分らなかった。

よくあるデスゲーム系を、ホームルーム+人狼的な感じでやりたいと思い、昔考案した物です。
昔映画用のネタとして妄想していた物ですが、どうせ実現する事もないので、
ブログで消化して、うさを晴らしています。
もう少し時間をかけて書けば、短編ドラマ程度の話にはなると思うのですが、
個人ブログの一投稿ネタ用に、大分話をはしょりました。

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