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第253回、幻の多目的フォン


2005年、日本のとある企業から、革新的な製品が、生まれようとしていた。

若者「出来た‥ついに出来たぞ。 これはきっと、革新的な製品になるっ」

その若い開発者は、自分の開発した技術に、興奮を抑えられなかった。
この製品が世に出る事になれば、世界をきっと変える事になる。
若者は、そう確信をして、震えが止まらなかったのだ。

ちょうどそこへ会社の上司が、開発状況の確認をしに来た。

上司「おい若者、開発の方はどうなっている? 順調なんだろうな!?」

若者「上司、たった今完成をした所ですっ! これを見てくださいっ!!」

そう言って若者は、出来たばかりの試作品を、上司に見せるのだった。

上司「何だね、このカマボコ板みたいな物は? 私は君に、携帯電話の開発を命じたはずなんだがな?」

若者「はい、だからこれがその、携帯電話ですっ」

上司「これがか?君は私をバカにしているのかね!?携帯電話というのは、こういう物を言うんだっ!!」

そう言うと上司は、自分のポケットから、最新の携帯電話を取り出した。

上司「見たまえ、この洗礼された形状を。電波を受信しやすくさせる為に、アンテナを長く伸ばせるし、ここをこうして変形させれば、ワンセグだって見られるんだぞっ!!」

そう言うと上司は、嬉しそうに携帯電話のアンテナの伸び縮みをさせたり、画面の向きを変形させるのだった。

上司「君には、この機種に負けない、高性能な携帯の開発を命じたんだっ。それなのに、こんなカマボコみたいな物を作りやがってっ!遊んでいる暇があったら、携帯に一つでも、新しい機能を追加する事を考えろっ!!

大体これ、ボタンが付いていないじゃないか!これでどうやって電話をすると言うんだっ!?」

若者「これは、指で画面を操作するんです。電話だけではありません。
指で画面を操作する事で、これで様々な事が出来るんです」

上司「指で画面を操作するだと? そんな物、見た事も聞いた事もないっ。
いいか、世の中になぜそんな物がないのか、バカなお前にもわかるように、きちんと教えておいてやろう。 それは、必要がないからなんだっ!
必要のある物は、この携帯のようにこの世に存在するが、お前の言うそれは
必要がないから、この世に存在していないんだっ。お前は、必要のない物をわざわざ作って、一体誰がそれを欲しがるというんだっ!?」

若者「でもこれは、電話をするだけではないんです。ここをこうしてボタンを押せば、写真を撮る事も出来ますし‥」

上司「カメラがあるだろうっ!」

若者「この中に音楽のデータを入れて、好きな時に音楽を聴く事も‥」

上司「ウォークマンが、あるだろうがっ!!」

若者「これで映像を見る事だって、出来るんですっ」

上司「こんな小さな物で、映像をだって? バカも、休み休みに言えっ!
大体誰が好き好んで、こんな小さな物で、映像を見たがるというんだ!!」

先程まで、携帯のワンセグに、嬉々としていた人間とは思えなかった。

若者「それに、ネットに繋げて、様々な物を検索する事も出来るんです」

上司「それは、パソコンでする事だろうがっ!!」

上司の怒りは、頂点に達していた。


上司の怒りを買った研究チームは、それまでの研究データを全て処分され、それぞれ異なる部署へと、左遷されるのだった。

若者はその夜、研究チームの同僚達と、夜の街へ飲みに繰り出した。

若者「いいアイデアだと思ったんですけどね‥」

同僚「上司なんてそんな物さ。彼らは、初めて見る物は、そんな物は聞いた事がないと言って否定をし、見た事がある物は、既にあると言って拒絶するんだ」

若者「そんな、それじゃあどの道、否定をされてしまうじゃないですかっ」

同僚「そうさ、彼らの思考の外側にある物は、世に中にあってもなくても、否定をされるんだ。彼らの求めている物は、世界を変えるような革新的な
技術や製品なんかじゃない。彼らの思考の範囲に納まる、少しだけ進化を
した物なんだ。いや、変化というべきかな。
俺達の開発した技術は、彼ら上司の思考に収まる範囲を越えていたんだ‥
これはもはや、携帯電話と呼べる代物では、なかったのかも知れないな」

若者「そうさ、だから自分はこの製品に、携帯電話に代わる、新しい名前を付けようと考えていたんだ。 何でも出来る賢い電話、多目的フォンと‥」

同僚「それ名前が何か‥トイレを連想させるんだよな。もう少し何かこう、スマートな名前を、思いつかなかった物なのか?」

若者「そうですか?自分は結構、気にいっているんですけどね。この名前」

時は2005年、それは米アップル社から、携帯電話に代わる、革新的な技術の製品が発売される、僅か二年前の出来事だった。

画像は、第215回スマフォ探偵の未使用分を、今後使う事もないので、全て掲載いたしました。

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