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第231回、T刑事の奇妙な取り調べ事件簿 その6 シックス・センス(霊感少女)


長年刑事を続けていると、様々な人物の事情聴取を行う物だが、今T刑事の目の前にいる相手は、T刑事にとっても初めてな程の、幼い聴取人だった。

9歳程に思われるその少女は、白いクマのぬいぐるみを強く抱きしめたままその大きな瞳で、T刑事の事をじっと見つめていた。

T刑事「正直、今でも信じられません。私は、超能力や第六感という類の物を信じていないのですが、あなたに会って、その存在を少し信じる気持ちが出て来ましたよ」

今T刑事の街には、6歳以下の幼女達が次々に失踪をする、連続幼女失踪事件が起きていた。何の手がかりもなく捜査は難航していたが、ある日T刑事の前に少女が現れて、失踪した幼女達が監禁されている場所を指示したのだ。

少女「別にいいのよ。普通私の事を誰も信じてくれないし、私の言葉を誰も聞いてはくれないから。刑事さんは私の話を聞いてくれたから教えただけ」

そう言って少女は、クマのぬいぐるみを、さらに強く抱きしめた。

少女「それに刑事さんは、自分で気づいてないかもしれないけど、あなたは私以上に特別な力を持っているわ。
あなたはどんな相手でも、あなたの知りたい物事を相手が勝手に話し出して聞き出す事が出来るのではないかしら?
それはあなたの持つ特別な力が、相手にそうさせているからなの。
その力を超能力や霊能力という人もいるし、守護霊の力という人もいれば、ギフトやスタンドという人もいる。
ああそうそう、スペックなんて言い方をする人もいたかしら」

見た目の年齢に似合わず、饒舌によく話す少女だった。

少女「それがあなただけが持つ特別な力。私も今あなたの力に影響されて、話をしているのよ。普段はこんなに、おしゃべりじゃないんだから」

少女はそう言うと、クマのぬいぐるみを、さらにもっと強く抱きしめた。
T刑事は、ぬいぐるみが破裂をしてしまわないか、少し心配になっていた。

少女「刑事さん、彼女達の居場所を教えてあげた代わりに、もう一人少女を見つけて欲しいの。その子はずっとそこで見つけて貰うのを待っているわ」

T刑事が他の刑事達と少女の示した場所を捜索すると、そこにはぬいぐるみを抱いて眠る様に横たわる、一人の少女の白骨遺体があった。
白骨化した少女は、既に顔を判別する事が出来なかったが、その少女が抱きしめているクマのぬいぐるみは、先程までT刑事が事情聴取していた少女が抱いていた物と瓜二つだった。
一体これはどういう事なのだろうか? 自分が事情聴取をしていた少女は、この遺体の少女の幽霊だとでもいうのだろうか‥

少女「見つけてくれてありがとう、刑事さん」

T刑事の横には、先程まで事情聴取をしていた少女の姿があった。

少女「この子は、私の双子の姉なの。ある男に誘拐されて以来、二度と家に帰る事はなかったわ。当時も沢山の刑事さんが姉の捜索をしてくれたけど、その時は見つける事が出来なかったの。
もっと早く私に、この力が使える様になっていたら‥」

そう言って少女は、クマのぬいぐるみを、全力で抱きしめた。
圧迫されたぬいぐるみは、布の裂け目から中の綿があふれ出ていた。

T刑事は、この街の刑事をして数十年になるが、そんな少女の捜索等行った覚えがなかった。しかしこの少女には、どこか見覚えのある気もしていた。

それはT刑事がまだ小学生だった頃、白いワンピースのよく似合う、笑顔のとても愛らしい、双子の姉妹が近所に住んでいたのだ。
T少年はその姉妹と仲良くなり、何度か一緒に遊んだ事もあったが、程なくして二人の姿は見なくなり、T少年も姉妹の事を次第に忘れていっていた。
だがその姉妹の顔は、今T刑事の横にいる謎の少女にそっくりだったのだ。
なぜ自分は事情聴取で彼女の顔を見た時に、当時の事を思い出せなかったのだろうか‥

T刑事「君は一体‥」

そう言いながらT刑事は、少女のいる方に体を向けたが、そこに少女の姿はなかった。

同僚の刑事「T刑事、ぼっとして一体どうしたんですか? まさかこの子の幽霊でも見たんじゃないでしょうね」

同僚の刑事は、冗談のつもりでそう言ったが、T刑事はとても笑える気分ではなかった。

後日少女の遺体は、数十年前に起きた、双子姉妹の誘拐事件の被害者少女の一人である事が判明した。妹は自力で脱出して保護されていたが、姉の方はその後も見つからず犯人もわからずじまいのままで、数年後に未解決事件として処理される事となったのだ。
妹も家族の元に戻った後で、数年後に病気で亡くなっていた。

奇妙な事に、T刑事が少女の事情聴取をしていたはずの記録はどこにもなく他の刑事もその事を知る物はいなかった。
T刑事は、幽霊の存在を信じている訳ではなかったが、状況的に考えてどうやら自分が事情聴取をしていた少女は、その姉妹の妹の幽霊だったらしい。

少女「ようやく気づいてくれたのね、T君」

物思いにふけるT刑事の前には、事情聴取をしていた少女が、いつのまにか立っていた。

T刑事「君は病気で亡くなってから、これまでずっと、幽霊としてこの街に漂っていたのかい? 双子の姉の遺体を見つけて貰う為に‥」

少女「私が霊能力に目覚めたのは、私が病気で亡くなり、幽霊になってからなの。幽霊になってから霊能力に目覚めるなんて、笑えない話よね」

そう言いながら少女は、綿の出たクマのぬいぐるみを優しく抱きしめた。
このぬいぐるみも又、姉妹の元に一緒に買われて来た、姉と共に失踪をしたもう一つのぬいぐるみの行方を、妹と一緒に探していたのかもしれない。

T刑事「その幽霊の君にこんな事を聞くのもなんだが、お姉さんの方は幽霊にならなかったのだろうか?お姉さんが幽霊になって、自分で自分の身体を見つけて貰う様にする事も出来たのではないかと思うのだが‥」

少女「幽霊になれるかどうかは、その人次第みたいなの。どうも私は姉より幽霊になれる素質があったみたい。姉が亡くなった後、姉の魂がどうなったのかはわからないけど、私が会えていない所を見ると、無事成仏をしているのかも知れない。本当の所はわからないけど、そうであって欲しいわ。
私もいずれ、成仏する事になるのかしらね‥」

T刑事「君は姉が見つかり、この世に思い残す事はもうなくなったんだね。せっかく数十年越しに会えたのに寂しいけれど、これでもう本当にお別れ
なんだね」

少女「いや勝手に人の事を成仏させないで欲しんだけど。あの時私達姉妹を誘拐した犯人はまだ見つかっていないんだし、あの時の犯人を見つけるまで私は成仏するつもりはないわ。
私の声を聴く事が出来るのは、今の所、T君だけみたいだし、私決めたわ。あの時の犯人を見つけるまで、T君の相棒として、傍にいる事にするわね。
これからよろしくねT君。あとそれに‥T君の守護神?をしているあなたも」

そう言って微笑むその顔は、T刑事の記憶の中にある子供の頃に見たままの無邪気で屈託のない少女の笑顔だった。

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