「神頼みっ!」第2話
「とうとうこの日が来ました。みんな今日のために毎日一生懸命練習をしてきたんです。神様、どうか力を貸してください」
マネージャーはあれから毎日犬神の神社を訪れていた。
「わかっておるよ…」
犬神は誰に聞かれるでもなくそう呟いた。
甲子園優勝の常連校を手助けするのは武神率いる最強の神々軍団…
そして弱小高校を手助けするのは最弱の犬神率いる下級神チーム…
いよいよ始まった試合…
犬神は強大な敵に勝つことができるのか?
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犬神と武神はそれぞれのチーム陣営に腰掛けていた。(神々の姿は人間には見えない)
韋駄天「まずは相手チームの攻撃からっスね」
犬神「うむ!」
対戦相手である黒隣高校の一番バッターは既にプロからも声がかかっている三年生。
一方、犬神側の白成高校ピッチャーは能力こそ平均的なものの、堅実に練習を重ねてきた、ガッツのある三年生だった。
犬神「さぁ、一球目、奴らはどう出るか…?まずは様子見じゃ」
ピッチャーが球を投げる!
韋駄天「悪くない!本番でも落ち着いた投球ができているぞ!」
竜田姫「いい感じね♡」
ボールがバッターボックスに近づいた瞬間、
武神がバッターに憑依し…!
カキィィィィィィィィィィン
ボールは打ち返され、そのままあっさりホームランとなった。
いきなりのホームランに一気に盛り上がる黒隣高校野球部とその応援団たち。
一方、白成高校の選手と犬神たちは言葉を失っていた…
韋駄天「マジかよ…」
竜田姫「すごい…」
犬神「これほどとはのぅ…」
憑依は簡単な技術ではない。
人間と息をピッタリ合わせないと無駄な力が働き、身体に激痛が走ってしまう。ゆっくりとダイヤモンドを回っている選手に、痛みの色は全く見えなかった。
いとも簡単にそれをやってのけ、何一つ不自然じゃないスイングをするには尋常ではない繊細さも求められる。
武神「まずは挨拶代わりだぜ、犬っコロ」
武神は誰に聞かせるでもなく、犬神の陣営を見ながらそう言った。
韋駄天「仕方ないっす!この空気に飲まれず切り替えていきましょ!」
竜田姫「そうよ!まだ試合は始まったばかりだもん!」
犬神「…うむ!ワシらが意気消沈していては選手たちに申し訳がたたん!」
韋駄天「しかし、武神のパワーで行う憑依は厄介すぎますね…これじゃあ手も足も出ない…」
竜田姫「ずっと続けられたら相手選手全員がホームランバッターになっちゃうわね…」
犬神「こちらも憑依を使おう」
竜田姫「ええ!?犬ちゃん憑依できたの??」
犬神「あんな高等技術、ワシには一万年あってもできん!!」
韋駄天「そんな自信満々に言わないでください..笑」
犬神「ワシじゃなくてこいつらに頼むんじゃ…ゴニョゴニョ…」
一方 武神陣営
「武神様やりましたね!奴ら、もう戦意喪失してるんじゃないですか?」
「気を緩めるな、まだ試合は始まったばかりだぞ」
武神は軽口を叩いた神を睨みながら言った。
「ヒェッ…申し訳ありません……」
武神陣営の神「さすが武神様だ、古来より様々な戦に参加してきた武神様には油断など一切ない。どんな相手であろうと完璧な勝利を目指す。これこそが常勝不敗の最たる要因なのだろうな…」
武神「このまま終わるとか白けることにはしてくれるなよ?犬っコロ?」
モブ神「武神様!二番バッターが打席に立ちました!」
武神「毎回ホームランでも不自然になる。ここはありのまま選手に任せるか。何より犬神共の出方も少し見ておきたい…」
ピッチャーが振りかぶって…投げるっ!
韋駄天「ここでまたホームランでも打たれたら完全に流れを持っていかれちゃう…!犬神さん、どうするつもりなんですか?」ハラハラ…
犬神「まぁ、見ておれ…」
ボールは的確にストライクゾーンに向かう!
同時にバッターは完全にボールに照準を合わせていた…!
今にもバットがボールに当たろうとしたその瞬間、
人間には確認できないスピードでバットはボールを避ける形に変形した!
「ッ!………ストラーイク!!」
誰もが当たりを確信していただけに審判も一瞬判定が遅れる。
バッターは何の変哲も無いバットを見て目をパチパチとさせていた。
韋駄天&竜田姫「えええっ?!!」
犬神:ニヤリ
武神「チッ…なるほどな…」
犬神「さすが、武神はもう気付いたようじゃの」
韋駄天「何なんですか犬神さん!俺たちにもわかるように説明してくださいぃ!」
犬神「付喪神じゃ」
竜田姫「……!なるほどね!」
韋駄天「つくもがみ…?」
犬神「百年生きた狐や狸が変化したのが付喪神じゃ。ワシと同じ、元はただの動物である最下級神じゃよ。彼らは生き物に憑依するほどの力は無いが、バットなどの道具に憑依し、自在に動かすことができる。」
韋駄天「…なるほど!バットの形をボールが避けられるように変えて、すぐに戻したってことですね!」
犬神「うむ、そう何度も使える手ではないがのぅ…」
犬神の予想通り、武神はバットを握りしめ、付喪神を追い出そうとしたが、既にその姿は無かった。
武神「チッ…!逃げ足の速いこって…」
「ミーミーミーミー」
韋駄天「ああっ!この子が付喪神なんですね!可愛いなぁ!」
付喪神は物に憑依すると愛くるしい目玉だけが視認できるようになり、
何にも憑依していない時には目玉だけが浮いているように見える。
犬神「うむ、こやつには仕事を終えたらすぐこちらに帰還するよう指示しておいた。でないと今頃武神に捕まっておったじゃろう。憑依には憑依じゃ。ようやってくれたのう」
付喪神「ミーミーミー♪」
竜田姫「やるわね♡」
犬神「うむ!じゃがまだ1ストライクを取っただけじゃ。勝負はこれからじゃぞ〜!今度はボールに別の付喪神を忍ばせておる!」
武神陣営
いきなりのホームランで盛り上がっていた黒隣高校の選手たちだが、
二番バッターのフルスイングがストライクになったため、少しだけ冷静になっていた。
モブ神「次はどうします?武神様」
「まぁ、俺を警戒して同じ手は使わんだろうな……
所詮、犬神の考えることだ。裏をかいて今度はボールに付喪神を忍ばせる魂胆だろう。おい!今度はお前が格の違いを見せつけてやれ!」
??「御意!」
第二球、ピッチャー振りかぶって…投げるっ!
犬神「うむ、いいコースじゃ」
ボールに憑依した別の付喪神「ミーミー…ミ…??」
付喪神がスイングされたバットを避けようとした瞬間、局地的な風に吹かれ、軌道が変わってしまった。
カァァァァン
犬神「クッ…!ヒットになってしもうた!」
犬神がそう叫んだ次の瞬間、猛烈な風がバッターボックスから吹き荒れ
打球がグングン伸びていく!
韋駄天「ぬわああああああああ?!何だこの突風?!!」
犬神「…………これは…風神か!」
一足早く答えを得た犬神だったが、上級神である風神の風を、下級神である付喪神がどうにかできるはずもなく、ボールはスタンドに着地した。
「うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
二者連続のホームランで黒隣高校側の熱気は最高潮を迎える。
竜田姫「そんな…」
韋駄天「嘘だろ…」
犬神「ぬぬぬ…」
武神陣営
武神「風神、少しは抑えろ、あまりホームランが続いても不自然になる。我々はあくまで人間にとって自然に勝たねばならない」
風神「すみません…あっしの風袋は力の加減が難しくって…」
風神は風袋と言われる袋で風を起こし、その気になれば台風を発生させることもできる。
武神「まあいい、次からは気をつけな」
風神「へい」
犬神陣営
竜田姫「風のせいってことにすれば、どんな手助けもできちゃうわね…」
韋駄天「風と野球って、相性良すぎじゃないですか…!これって逆にこっちがヒットを打っても、風で威力を殺されちゃうってことですよね??」
犬神「うむ…それより選手たちが心配じゃ!二者連続のホームランで意気消沈しておらんか!?」
守備についている選手たち、そして何より二連続でホームランを打たれてしまったピッチャーは青ざめた顔をしていた。
犬神「やはり…どうすれば…」
「大丈夫!!!!!」
ベンチから特大の声で選手に檄を飛ばしたのはマネージャーだった。
「まだ始まったばかり!!しかも一回の表でなんて顔してんのアンタたち!!絶対に大丈夫だからしっかりしなさい!!!」
彼女自身、大丈夫だという根拠はどこにもなかった。しかし、時として根拠のない自信は人を勇気づける。
マネージャーの声を聞き、選手たちは顔を見合わせ冷静さを取り戻した。
犬神「なんとも頼もしい娘じゃのう…」
韋駄天「アクセスの悪い犬神さんの神社に毎朝来る子ですから、ガッツはありますよね!」
犬神「違いない!」
犬神「さて、ワシらも集中するとしよう」
竜田姫「風神の風…何か策はあるの?」
犬神「無いが、何か突破口はあるはずじゃ…」
三人目の打者がバッターボックスに入り、再度球場の緊張感が高まる。
犬神「そうじゃ!」
韋駄天「犬神さん、何か閃いたんですか?!」
犬神「うむ、ワシに考えがある……ゴニョゴニョ…」
『神頼みっ!』
第2話
おしまい
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