「神頼みっ!」第3話
韋駄天「犬神さん、風神を何とかするって言ってたけど、あんな強力な風、一体どうやって…?」
一回の表、二者連続のホームランで2-0、ノーアウト。
序盤からリードを広げられる犬神陣営だが、犬神には何か策があるようだ。
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武神陣営
武神「風神、キサマの風袋の調整が難しいのは理解できる。次のバッターも利用して少し風力を抑える練習をしろ」
風神「御意…!」
三人目のバッターが打席に立つ
風神 (ったく、なんであっしが小僧どもの球遊びを手助けせねばならんのだ。武神様の命令だから嫌とは言えんが、あっしはもっと派手な風を起こすのが好きなのに…)
ピッチャーも投球準備が整ったようだ
風神 (後半ほど言い訳が効かなくなる。今回は調整をミスしたことにして、また特大ホームランに貢献してやろうぞ!)
ピッチャーが振りかぶる…
と同時に風神は最大級の風を噴出する準備を始めた。
風袋がみるみる膨らんでいく…!
韋駄天「ああわっ…!!あの膨らみよう…今度はさっきの比じゃない風が来るぞっ…!」
ピッチャーが投げた球はストライクゾーンを的確に捉えた。
自陣、黒隣高校のバッターであれば問題なく打てると踏んだ風神。
風神 (バットに当たった瞬間、最大級の追い風をお見舞いしてやるぜ!!)
武神「ッ…!待て風神!!」
武神は何かに気づいた。
風神「いやー調整が難しくt…」
パァァァァアアン!!!!
突如、神々にしか聞こえない強烈な破裂音がし、風袋が勢いよく破れた!!
韋駄天「なんだぁぁぁ??!!」
武神「チッ…!」
風神「なんじゃこりゃぁぁあああ!!」
同時に全方位への風が発生し、バッターが打った球はフライに。
白成高校の守備はこのボールを見逃さず、堅実にアウトを獲得!
審判「アウトー!!」
初めてのアウトに沸く白成高校の選手たち。
一方、何が起こったかわからない風神はただ呆然としている。
犬神「うまく行ったようじゃのう」
風神「犬神…?!貴様、俺の風袋に何をしたァ?!」
すると、犬神の後ろから竜田姫が現れ、こう言った。
「私は竜田姫、裁縫の神。どんなものでも一瞬で縫い付けることができるの♡」
「そうじゃ!竜田姫がお主の風袋の出口を噴出寸前の所で縫い付けたのじゃ!行き場を失った強大な風は、袋を破ることしかできなかったようじゃのぅ…」
風神「ん…なっ?!…に…を……こ…の…」
韋駄天「うおー!!なるほど!竜田姫、さっきから姿が見えないと思ったらそれを狙ってたんだね!」
竜田姫「そういうこと♡」
風神「お の れ…下級神ごときが…」
風神が犬神と竜田姫に掴みかかろうしとした瞬間、武神が静止する。
武神「見苦しいぞ風神!これは貴様の慢心が生んだ結果だ。頭を冷やせ」
風神「ハイ…」
ドゴォォォオオン!!
突如武神は風神を自陣の神々の前へ殴り飛ばした!!
これは、自陣の神々への見せしめの意味合いが強く、振り返った武神の表情を見た神々は全てを理解し絶句した。
武神「少しはやるようだな、犬っコロ…俺様も全身全霊を持って相手してやろう」
犬神「…望むところじゃ!!」
依然、リードしているものの、黒隣高校の選手たちは格下の白成高校が1アウトで浮き足立っていることに怒りを募らせていた。
武神「完膚なきまでに勝つには神々の統制以前に、選手たちのメンタル面から手をつける必要があるな……おい羅刹天!」
羅刹天「ハッ!ここに!」
跪きながら答えた神は羅刹天。鬼神とも呼ばれ、破壊と滅亡を司る神。色黒で、髪の毛は赤く、鬼のような外見をしている。
武神「やれ…」
羅刹天「ハッ!」
韋駄天「まだ1アウトですけど白成高校の選手たちも希望が出てきたみたいですよ!」
犬神「うむ、このまま流れを掴みにいくぞ!」
黒隣選手A (クソっ、あいつら雑魚のくせに調子に乗りやがって…)
黒隣選手B (おいおい、こんな格下ごときに簡単にアウト取られてるんじゃねぇーよ)
黒隣選手C (あー、もうすぐ俺の打順か…今日結果出せなきゃレギュラー外されるし、圧勝しなきゃいけないことが逆にプレッシャーなんだよな…)
様々な思惑を巡らせる黒隣の選手たちはやや集中力が落ちていた。
そこに刀を持った羅刹天が近づき…
斬ッ!!
韋駄天「ええっ!?あの神様、選手たちを斬ったぞ?!」
犬神「あれは…羅刹天…?!」
竜田姫「選手たちの身体は斬れてないけど、表情が変わった…?」
羅刹天に斬られた選手たちは冷静さを取り戻した。
羅刹天「これで選手たちは元々高い、最大のポテンシャルで貴様らを叩きのめす…」
武神「ニヤリ…」
犬神「そうか!奴の刀は煩悩を断ち切る力があったのじゃ!もう相手チームのミスや動揺によるチャンスは巡って来んぞ…!」
そんなことを言っている間に白成高校のピッチャーは投球の構えに入っていた。
対する黒隣のバッターは至って冷静…
ピッチャーの一挙手一投足に集中し、ボールの軌道を読むことだけに集中していた。
犬神「まずいっ!もうボールを投げてしまう!」
ピッチャーの手からボールが離れる。犬神陣営は今回、何も手を打つことができなかった。
カキィィィン!!
絶妙なタイミングでバットが球を捉える。打球は凄まじい速度でグラウンドを切り裂きスタンドは歓声の渦に。
打者は目にも止まらぬ速度でファースト、セカンドベースを駆け抜け、次なる目標、サードベースへと向かう。
犬神「まずいっ…!」
白成高校の守備たちは全力でボールを追いかけるが、嵐のような会場の熱気に気圧され、動作がもたつく。一つのミスが次のミスを呼び、プレッシャーは確実に彼らを苦しめていった。
韋駄天「あああっ…みんな落ち着いてっ!」
バッターは三塁ベースを踏み、冷静に歩みを止めた。観客は立ち上がり、彼の名を連呼する。
フィールドに響くのは黒隣高校陣営の喜びの声のみ。
竜田姫「今気づいたけど、観客席って相手チームを応援している人が大半なのね…これじゃあ選手たちが可哀想よ…!」
三塁打に抑えたものの、白成高校の選手たちも自分たちがアウェーな立場だと感じずにはいられなかった。
韋駄天「煩悩を断ち切っただけなのに、やっぱり選手個々の能力が高い…このままだと羅刹天だけで完封されちゃいますよ..!どうします?!犬神さん!」
犬神「考えていても仕方ない…まずは羅刹天の能力がどこまでのものか試してみるかのぅ…?」
武神「また犬っコロどもがくだらないことを始めようとしてるな…羅刹天、貴様の煩悩を断ち切る効果は完璧なんだろうな?」
羅刹天「ハッ!私の能力が破られることは未来永劫絶対にありません。ご安心を…」
武神「クックック…ではこのまま悠々と点差を広げるとするか」
一方、犬神たちは相手選手の本能に語りかけることにした。
韋駄天「結構汗かいてるけど、水分補給は大丈夫?今日は暑いからミネラルが不足して肝心な所で足がつっちゃうかもよ??」
竜田姫「あの観客席の子、すっごく可愛くない?さっきからずっとあなたのこと見てるけど、あなたのことが好きなのかしら?♡」
犬神「今、君のお母さんがベッドの下を掃除しておるぞ」
効果なし
犬神「ゼェゼェ…高校生男子が一番されたくないことを想像させたというのに……羅刹天、なんと恐ろしい能力じゃ……強すぎる……恐ろしい…」
韋駄天「ハァハァ…信じられないぐらい強靭なメンタルですね…心が折れそうだ…」
竜田姫「なんでアンタ達がメンタルやられてるのよ」
犬神「やはり元を絶つしかないようじゃの…次の標的は羅刹天そのものじゃ」
韋駄天「と言っても、羅刹天って見るからに堅物だし、そもそもかなり強いのでは?攻撃能力の高い神はこっち陣営には居ませんよ??」
犬神「一瞬でも奴の集中力を奪えば効果が切れるかもしれん!次はこやつらに頼むとしよう…」
そうこうしている間に次のバッターが打席に立ち、ピッチャーも投球の準備が整った。
武神「ハッハッハ!本当にくだらないことを考えやがる!」
羅刹天「武神様の言うとおりだ。ワシが居る以上、選手達の煩悩は決して断ち切れん…ってうぉぉぉわ?!!」
突然、羅刹天がその場に倒れた!
武神「!!…どうした羅刹天?!!」
その瞬間、黒隣高校の選手達が煩悩を取り戻す。
カァァァァン
黒隣高校のバッターが打った球はファールボールとなった。
羅刹天「痛たた…なんだ?何が起こった?!」
犬神 (やはり羅刹天自身の集中力が切れると、能力も解除されるようじゃのう…)
何が起こったかわからない武神陣営の神々、しかし司令塔である武神は違和感を見逃さなかった。
武神「羅刹天…その脚の傷は元々あったものか…?」
羅刹天「傷?いえ、私はここ500年傷をつけられたことも無く……っていつの間にか脚が切れてる?!でも痛みは……無い…??」
武神「かまいたちだ…」
羅刹天「かまいたち!?」
犬神「武神め…もう気づいたようじゃな…」
かまいたち三兄弟「えーバレないようにやったのになー」
かまいたち:
三人連れの悪神。最初の神が相手を転ばせ、次の神が刃物で切りつけ、三番目の神が薬をつけて去っていくため出血がなく、痛まない。
竜田姫 (目つきは悪いけど可愛いイタチちゃんたちね♡)
韋駄天「ああっ!見てください!武神が指示して武闘派の神が羅刹天の守りを固めましたよ!」
かまいたち三兄弟「あれじゃあもう近づけないよ…」
竜田姫「どうする…?犬ちゃん?」
犬神「ぬう…近づかずに奴をなんとかせねばならんのか…」
犬神はしばらく考え込んだ。
犬神「羅刹天の特性…羅刹天の弱点……………そうじゃ!」
韋駄天「犬神さん!また何か思いついたんですか?!」
竜田姫「ナニナニ?聞かせて♡」
犬神「うむ、ワシに考えがある…ゴニョゴニョ…」
『神頼みっ!』
第3話
おしまい