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徳島視察を実施しました。(橋本山林・四国の右下木の会社)

2024年4月1日から新たな体制でスタートしたこうべ森と木のプラットフォームの運営メンバーで、2日間の徳島視察を開催しました。


概要

日時:2024年4月8日〜9日
場所:橋本林業・橋本山林(徳島県那賀町)、株式会社四国の右下木の会社(徳島県美波町)

1日目 橋本林業・橋本山林

徳島視察1日目は徳島県那賀郡那賀町にある橋本林業さんを見学しました。

橋本林業・橋本山林
橋本林業は、明治時代から4代にわたり自伐型林業を専業としている。所有する橋本山林は113ヘクタールあり、30年の期間で総延長30キロメートルの道が敷設された。
基本的にはスギを中心にした人工林で、地形や環境の特性に応じてスギの複層林やスギ、モミ、シイ、カシなどが混在する針葉樹と広葉樹の混交林、天然林として管理されている。
この地域には92科254種の植物が確認されており、その中には徳島県のレッドリストに登録されている10種も含まれる。これらの生物多様性に富んだ森林は、環境省によって自然共生サイト・OECMとして認定されている。

今回の視察では、橋本延子さん、忠久さんに案内いただき、橋本林業における山林管理・作道の考え方や、今までどのように山林を管理してきたかなどの話を聞きました。

橋本山林の大きな特徴として「高密路網」があります。一般的な針葉樹林業における路網密度(面積あたりにどのくらいの距離の道がついているか。m/ha)は100~200 m/haなのに対し、橋本山林は300 m/haとなっています。単純計算すると、道と道の間が30m程度です。この道は幅が2m〜2.5mで、2トントラックで走ることができます。そのため、山のどの場所にも最低限の徒歩でアクセスすることができます。このアクセスの良さが山林管理のハードルを下げると共に、いつでも搬出できるインフラとなっています。

一般的に高密路網は山が崩れやすくなると言われていますが、橋本林業では山の地形を読んで崩れにくいところに道をつける、転圧回数を大幅に増やす、谷のような地形は川のナワバリなので極力触らない、道に排水を地形的につけるなど、山全体の水の流れを意識した道作りを行っており、過去30年・30kmの道で崩れたのは30m(0.1%)とのことでした。

あいにくの雨の中での視察でしたが、実際に水が流れている部分もあり、上記を意識した道作りの理解を深めるにはむしろ良い天候でした。

橋本さんのお話の根本には自然への深い敬意と、超長期目線での山林経営への意識が感じられました。
ふとした道端の苔、多種多様な樹種が生育していても整っているようにも見える複層林など、人の施業と自然が調和した美しい風景が随所にあり、約4時間山の中を歩きながらの視察でしたが、あっという間の時間となりました。

紹介HP(外部リンク):橋本林業・橋本山林(自伐林業推進協議会HP)
紹介HP2(林野庁) :橋本山林(林野庁自然矯正サイト)


水の道に作られた丸太組による洗い越し
スギの複層林
スギと広葉樹の混交林、道の分岐

2日目:株式会社四国の右下木の会社

視察の2日目は四国の右下木の会社(徳島県海部郡美波町)の視察を行いました。

株式会社四国の右下木の会社
2021年に「株式会社あわえ」の代表でもある吉田基晴さんが創業した会社で、四国の右下に位置する徳島県南に多く分布するウバメガシを伐採し、備長炭を製造・販売している。かつて徳島県南地域では、照葉樹をはじめとする広葉樹を択伐し、萌芽更新させることで持続的に生産性の高い森林として管理する「樵木林業」という林業技法が確立され、関西圏の燃料需要を支えていた。この思想を現代に継承し、長年放置されてきた旧薪炭林を再び経済循環させるために活動している。

四国の右下木の会社の視察では、事業について説明いただき、その後に備長炭の窯の見学を行いました。強風のため施業現場は見学できませんでした。

備長炭は木炭の中でも最も高級な炭で、焼き鳥・うなぎだけでなく近年はフランス料理などに幅広く使われています。
燃料革命以後木質エネルギーの需要は激減しましたが、国産備長炭の飲食店からの需要は根強く、近年は海外輸出も増えてきており、木炭は旧薪炭林を価値化できる可能性を秘めています。

しかし、国産備長炭は現在担い手の高齢化や経済性を重視した乱雑な伐採やナラ枯れといった要因による原木不足から生産量が減っていっている状態です。

四国の右下木の会社では、備長炭業界において分業化していることが多い「原木生産・備長炭製造・販売」を全て自社で行うことで、持続可能な山作りと、販売から製造までの品質管理を実現しています。山づくりにおいては橋本林業の橋本忠久さんを講師に招き、壊れない道作りを実践しています。

備長炭の製造工程は、原木から焼き上がるまでに20日〜30日ほどかかり、昔は徹夜で火の番をするといったこともあったようですが、木の会社の窯ではIoTの導入などで極力人間の関与を簡略化する。炭窯の仕様を標準化することで生産技術を体系化し、備長炭の製造技術の継承を行いやすくする、樵木林業の思想に則った持続可能な原木生産を行う。など国産備長炭を未来に持続させるための取り組みを行なっています。

神戸に分布している広葉樹でも、カシ類(アラカシやシラカシ)などは備長炭になるということで、今後材として利用ができないような曲がり材や、小径木の活用方法には有用であるなと感じました。一方でナラ枯れの被害木は良い炭にならないらしく、被害が広がらないうちに伐採して利用することが重要とのことでした。

また、地域のエネルギーで地域の食材を食べるという「地炎地食」というコンセプトは、神戸牛をはじめとする食材と森を繋げるのに良い考え方だと感じました。

会社HP(外部リンク):株式会社四国の右下木の会社

新しく建造された炭窯棟の見学
窯の様子
備長炭窯出しの様子
高品質な備長炭は焼き締まり、金属光沢を宿す

まとめ


徳島県南と、神戸では分布する樹種や気候が違うものの、橋本林業、四国の右下木の会社の双方から、神戸でも活用できそうなことをいくつも得ることができました。

神戸の里山林がより活用できるように、今後も他の先進的取り組みをされている地域への視察をPFメンバーの方々とともに開催できたらと考えています。

用語
複層林:違う種類の木や、同じ種類でも樹齢の違う複数の樹高の木が生育している森林のこと
混交林:針葉樹と広葉樹が混在して生育している森林のこと
萌芽更新:主に広葉樹に見られる伐採後の切り株から出る新たな芽(萌芽)によって森林の再生を試みる手法


記事編集スタッフ:鳥越洋平
紹介:神戸大学工学部卒、神戸大学大学院を休学し、徳島県地域おこし協力隊として樵木林業の復興に従事、2024年4月から神戸森と木のプラットフォームに参加している。


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