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連続小説「アディクション」(ノート4)
ギャンブル依存症から立ち上がる
この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。
〈「緊急理事長講話続き」〉
ほとんどお約束的なコントのような前置きに続き、理事長から本題が語られます。
「私がこのフロアに話をしに来たのは他でもない」
(何が「他でもない」んだろう)
「ここで、君たちに残念な話をしなければならない」
(「残念な話」が他でもないのか)
「君たちの仲間がスリップをしてしまい、今朝、逮捕されたということだ」
「まぁそんなとこだろう」塩月さんが小声でまたつぶやく。
「逮捕されたのは、まぁ、今日急に来てない人だから名前を言うのはやめておこう。君たちがよくわかってるはずだ」
真後ろで露骨に名前をつぶやいている人が複数人いました。
「スリップするということが、即被害者を出し逮捕されることにつながるというのは、本人も当然分かっていただろう」
理事長がもったいぶって話を進めていますが、つまり、痴漢の再犯をしたということなんです。有り難いことに、塩月さんが想定される問題行動について詳しく横でつぶやいてくれています。
「ああ、諸君、仲間を思う気持ちは分かるが静粛にしてくれ。ここから大事な話をしようと思う。」
仲間を思う気持ちはたぶんそんなにないと、新参者の私でも感じられますw
「いいか、これが、依存症の怖いところなんだよ。依存症っていうのは、一口で言うと『わかっちゃいるけどやめられない』っていうことなんだよ。」
理事長の目の前で大北さんが太鼓持ちかと思うくらい、大きく相槌を打っておりまして、それを見て塩月さんが失笑しているという図柄となっております。
「まぁ、今回は満員電車での痴漢行為ということなのだが、これを言うと一般の人は暴言とも捉えられるかもしれないが、専門家の僕からすれば、一番悪いのは『満員電車』ということになるんだ。つまり、彼は満員電車でないと痴漢行為をしないし、もっと言えば行為時には一切勃起をしないんだよ。」
勃起しないなんてことあるのか?と私は耳を疑いましたが、斜め後ろにいる倉骨さんが「これについては、理事長の言うことは正しい」と囁いておりました。
「痴漢は性的欲求を満たすことを目的とする人は大体半分、いや、もっと割合が少ないかもしれない。あの状況の中で騒がられずに痴漢行為をやり切れるかどうかの高揚感を欲しがってやってしまう人の方が多いんだよ。きっかけは満員電車で手が女性の身体に偶然に触れたとかなんだけどね。」
「ギャンブルとそこは似てますよね」
「その通り。さすが大北君だ。ギャンブルも痴漢も行為に関する依存症ということで共通している。ギャンブル依存症のはじめの一歩はビギナーズラックが多いといわれているんだよ」
大北さんのゴマすりは筋金入りだと思いつつ、確かにそれは言えているとも思いました。
「つまり、依存症には『完治』がないと僕は考えているんだ。これを受け入れて日々の克服に努め、問題行動を起こさない。そのためのプログラムをこのクリニックで用意しているというわけだ。」
調子が出てきた理事長、さらに続けて
「いいか君たち、だからここには通い続けるんだよ。通い続けても今日みたいに捕まった者もいるが、捕まらないためには通い続けるしか道はないんだ」
説得力があるのかよくわからなくなってきました。
「そして、これだけは約束する。例え君たちがスリップしても、このクリニックは絶対に君たちを見捨てない。君たちが希望を持って生きるためには、この、私のクリニックが必要なんだよ。」
「ありがとうございます!」
と、大北さんだけが絶賛しました。この人はなんか洗脳でもされたのだろうか。
「うん。そういうわけで、依存症に完治はない!一生通い続けてください!終わります!」
大北さんのみの拍手とともに、理事長はエレベーターに向かって行きました。
「今日のプログラムはこれで終了です。あとは夕食を取ってお帰りください。」
フロアには、20個くらいの弁当箱を積んだワゴンが到着していました。
メンバーが列を作って並び、弁当箱を取って自席で特段話もせずに食べ始めました。皆さんとっとと食べて、さっさと帰りたい様子でした。
中身はまぁ、幕の内弁当かなと。そういえば壁に日毎のメニューの書いた紙が貼ってありました。一応、栄養士が監修しているようです。
ともかく、食事を終えて、クリニック初日が終わりました。本当に長く感じた1日でしたが、実は私は今日はこれで終わりません。
愛人と会う約束をしていたのです。
〈「金の切れ目が縁の切れ目」〉
クリニックを後に、私は家に帰らず新宿に向かっていました。ちなみに家は間もなく追い出されることになってます。すでに差し押さえられ登記も名義が変わっていて、配偶者がそこに居座るだけで、裁判所から退去命令が出るのは時間の問題で、一応、福祉事務所には退去後の行き先を物色してもらってる状況です。
家のことや、引き離された子供のことについて考えるのは、個人的にはそれまでどれだけ必死で戦っていたか誰にも分かって貰えないだろうと思います。配偶者は統合失調症と診断され、当然それを否認しつつ、さらに家を明け渡すことや、私の破産手続きの話を一切信じていません。
生きることに疲れ、自殺するまでの逃げ場所として、競艇場と愛人にすがるようになってしまいました。ギャンブルとセックスだけのために生きていて、どちらも金が必要なので、金が無くなったら人生ゲームオーバーと腹をくくっていました。腹をくくったら、首をくくるか水にくぐるかでした。最後の食事はククレカレーにでもしようかと(やめとけ)。
あ、すいません。これは小説ですw。ここの話だけは特に「フィクション」ということで。
で、いよいよ金が無くなって、水にくぐりに行こうと思った矢先、職場に連れ戻され、現状を吐露したところ、正力クリニックにつながったというところです。そして、クリニック初日の終了後、私は愛人と新宿で会う約束をしてたと。
愛人はデリヘル嬢でした。D専マニアの私(いきなり性癖暴露)が当時客として通って、その後なぜか深い関係になり店を離れて会うようになりました。実は私が自殺未遂したり仕事を休職し、この日クリニックに初登院することを前日にラインで知らせたところ、会うということになったのです。
「一軒め酒場」で酒も頼まず、これまでのことを話し、ホテルに行き、2回戦何とかこなし、ピロートークで「免責決定されるまでは会うのはやめておこう」ということに決め、距離をおいたまま、そしてこれを最後に翌朝もう1回戦ありましたが、二度と会うことはありませんでした。
「金の切れ目が縁の切れ目」って、実はそんなに悪い話ではなく、かえっていい方向に進むのかなと。あ、どうして「金の切れ目が縁の切れ目」になるのかって?そりゃあ、普通そうだと思いますw
「お金が無くなって離れて行った」ってことなんですが、結構気分は晴れやかなもんですね。
そういうわけで、長い一日終了。
今回はここまでとします。
GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ
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