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2月5日(朝)

リビングに降りると、そこはひどく静まり返っていた。


―あぁ、今日日曜日か。

自分が仕事だからうっかり忘れていた。
私以外の家族はみんな、日曜日はお休みと決まっているのだ。
きっとまだ、各部屋で惰眠を貪っていることだろう。
「……」
諸事情あって、現在パートをしている私だが。
以前は別の職場で正職として働いていた。
実は、その頃から、土日は仕事で平日休み、が当たり前だった。
だからまぁ、それについては何も思いはしないが。
こう……自分だけ仕事ってのも、嫌な気分だ。
「……」
炬燵机の上には、ビールの空き缶が一本置かれていた。
きっと、昨夜父が飲んだものだろう。横にコップも置かれているし。
あの、長時間冷えるとかいう機能高めのコップ(マグ?)
いい加減、それを流しに片すぐらいはしてくれないだろうか。
なんかこう……寝起きから散らかった机を見るのは。気持ちよくはない。
―困るのは私じゃなく、母なので別段どうでもいいのは、良いのだが。
「……」
仕事が嫌すぎて、思考がマイナスに落ちまくっている。
さっさと準備でもするか。

―行きたくなくとも、行かなくては。生きてけない。

さて。
さてさて。
何をしようか……も何もないのだが。
とりあえずは、朝食の準備をして。
ついでに、水筒も準備して。
あと、白湯を飲むためにお湯を沸かす。
「……」
アイロンもかけないといけないので、それの準備も。
ただのルーティンを、黙々と1人静かにこなす。
テレビは点けない。ニュースは少々苦手だ。
「……」
諸々準備を済ませ、浴室に向かう。
仕事がある日は、軽くシャワーを浴びて、気分転換をする。
代謝はよくはないのに、寝ている間は割と汗をかいているようなので、私は。
それを流すのも含め、朝シャワーだ。
「……」
浴室の扉を開けると、ヒヤリとした空気が流れてくる。
ん。今日は乾燥かけてないのか。
よく見れば、昨日の残り湯もそのままだ。
普段は、夜のうちに洗濯を母が回すので、ここにある洗濯物を取り出すところから始まるのだが。
あぁ、だから、今日は日曜日だって。そりゃ、今日の朝にでもまとめて回そうとするだろうよ、うちの母は。
「……」
ならば、さっさと入るとしよう。
着替えを脱衣所に置き、タオルを持ち、浴室内へ。
シャワーはあらかじめ出しておく。
湯が出るのに時間がかかるし、気持ち温めてくれるからな。
「……」
足元からお湯をかけ、最後に心臓にかける。
こういうのは、ホントに気にした方がいい。
前も言ったが。倒れかねない。
「……」
流す際に、シャワーの水が浴槽の蓋にかからないよう気を付けつつ、汗を流していく。
……これ、昨日最後に蓋したの誰だ?
「……」
ピタリと閉じているはずの、中心辺りに三角形の穴が開いている。
ちゃんと蓋をすれば、こんなことにはならないはずなのだが。
昨日一番最後に入ったの……は、あの妹か。
そういう、中途半端に適当なところは誰に似たんだ。
「……」
三角形の奥は、真っ暗で何も見えない。
ただの、水が溜まっているだけだ。
それだけなのは、分かってはいるが。
こういうのは、少々……。
「……」
何とも言えない、少しの恐怖に、襲われるのは私だけだろうか。
深淵を覗くものは、また深淵から―。
その奥に、何か別のものが居そうで。
「……」
さっさと、出よう。
気分が若干下がりつつある。
今日は仕事だってのに。
しかも、あの苦手な人も居るんだから。
……あの人居るのか。嫌だな。

訳も分からぬ恐怖は、さっさと忘れて。
分かりやすく苦手とするあの人との、共存の仕方を考えよう。

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