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うつ抜けの友 その3.イギリスの紅茶

学校を卒業する春休みに、友だちとロンドンに行った。
教授に紹介してもらったB&B(ベッドアンドブレックファスト)に2週間滞在し、ロンドンをうろつきまわる。

我々の宿は宿主の経営するレストランから2~3分離れたところにある
古い建物の一室で、やたらと広かった。初めての海外で何もかもうれしかったので、古くてもお湯がまともに出ないのも、それほど不満には思わなかった。

不満は朝食で、品数の多いイングリッシュブレックファストを期待していたのに、トーストと卵、それに紅茶だけという質素なものだった。

この紅茶、愛想のないお姉さんが、みんなバラバラのマグカップにティーバッグを入れた上に
熱湯をジャバーと注ぎ、蒸らし時間を図ることもせず、冷たい牛乳を上からなみなみと注ぎ、ドカンと目の前に置く。

紅茶の国なのにこんないい加減にいれるのか…とがっかりしたが、口に運ぶと…すごくおいしい。全く渋みがないのにしっかり濃い。ミルクがオプションではなく、茶葉とW主役だった。

このB&Bに滞在中、愛想のないお姉さんに何度か「おかわり」をお願いした。
めんどくさそうにしながらも淹れてくれて、量を計っている様子もないのに、いつもちゃんとおいしかった。

学生の貧乏旅行なので、外食も屋台やファストフードが中心だったが、ファストフードで紅茶を頼んでも、B&Bと同じく濃い(のに渋くない)ミルクティが飲めるのはありがたかった。

イギリスを経つ前に、紅茶の味が忘れられずFortnum&Masonの店に行って
缶に入った紅茶を買った。スーパーでも買った。

B&Bのティーバッグは糸と紙ラベルがついておらず、カップに入れてしまうタイプだったのでブランド名がわからなかったのだ。

それから30年。
Fortnum&Masonも、有名な紅茶店に行っても、あのB&Bのミルクティの味には再会できなかった。

ある日紅茶好きの同僚にそんな話をしていたら「これ、イギリスのティーバッグです。よかったら」といくつかおすそ分けしてくれた。

そのティーバッグのそっけない長方形の形状と、香りに良い予感を感じていたら、なんと!今まで飲んだ中で一番30年前にロンドンで飲んだ味と近かった。

慌ててメーカー名を尋ね、日本にオンラインショップがあることを知り、注文する。

以来、朝は大きなマグカップ(600ml)に紅茶をたっぷり入れて、その上に牛乳をまたたっぷり入れて飲むのが習慣になった。

しかし、何種類かある中で、最高級の「ゴールド」と「トラディショナル」の味の違いが、私にはどうしてもわからなかった。

前置きが長すぎるがここからがタイトルに関係のある本題。
うつが徐々に回復してきた今年の夏ごろ、はじめてこの2種の味の違いに気付いた。

高級な方が雑味が更に少なく、すっきりしている。
そして、それがわかった上でも、自分は「トラディショナル」の方が好きだと感じた。

そして「うつ」の症状の一つに「何をたべても味がしない。おいしくない」があることをおもいだした。

食事に関しては細々とでも食べていたので、自分には関係のない症状だと思っていたが

次の診察の日、クリニックの先生にこのことを話し「鈍感だった味覚が戻ってくるということはあるか?
ときいたところ、「あります!」と回答されたので、そういう理解をしておこうと思う。

この紅茶屋さんは「RINGTONS(リントンズ)」という。自身の店は構えていないが、各地のデパートのイベントにポップアップショップを出展している。

リントンズさんはイギリスの東北地方が本拠地で、ロンドンにはまた別の紅茶商が存在するという。なので、私が30年前に感動したB&Bの紅茶は、たぶん別のメーカーなんだろうけど、どちらもおいしいからいいのだ。

東京近郊の方限定になってしまうが、11月3日まで、新宿伊勢丹で「英国フェア」を開催中で、リントンズさんも出店されているので
イギリス式紅茶やお菓子に興味があったらぜひどうぞ。
イートインコーナーも充実してる。混んでるけど(^^;

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