小説 「退屈なやつが偉そうにしてんのがゆるせないの」

常人が健常自慢してるみたいに、若さで人の金当てにしてキラキラ謳歌してるのがその実病んでそうなのが恥ずかしくて堪らないんよ。

『女みたいな口調で何書いてんの、きっしょ』

辛辣な彼女の言葉が僕に突き刺さる、いや妥当だけどさ。

「文章に男とか、女とかある?」
あるけど。
『もっと男らしく書けって言ってんの』
一人称僕とかやめろよ、男なら俺って言え、私も私は許可しない、だそうです。
「んなこと│謂《い》われても、……俺こまっちゃいますよ」
きんもー。

『処方薬でラリってんじゃねーよ』
「ラリってねーよ、ラリるってなんだよ」
らりるれろ
『どうせあとで思い出して恥ずかしくなるだろ』
「恥は書き捨て」
人生は長い長い旅のようなものだ。
『うっせーだまれ、いやだまるな、反省しろ』
「サイコロ振るのやめたら、後々虚無るだけっすよ?」
『普通の人間は積み立てるんだよ』
「あーあーまた健常なこといってる、お前そんなに普通が好きか?」
『お前って言うな馬鹿が、おまえが異常に固執してるだけだろ』
「お前だってお前って言ってんじゃねーかお前」
『アタシはアタシだからアンタにお前って言っていいんだよ、お前は止めろ』
「こんなこと言い合いして楽しいか?」
『たのしー』
「……、それなら……なにより」

「コーヒーギュウニュウがおいしくない」
『重症じゃん、大丈夫か?』
「米がたべたい」
『腹減ってるだけじゃないか』
「糖分がこんなにおいしく感じないなんて、どうかしてる」
『いいからさっさとめし食えよ』
「めんどい」
『オワってんな』
「最近キャベツがうまいんだよ」
『まじ?』
「まじ、信じらんないわ、自分のことながら」
『キャベツ食うか?』
「いや、米とからあげがたべたい」
あとキャベツな。

『でさ』
「なんぞや」
『なんでお前そんなにダメになっちゃったの?』
「元からだが?」
『最近ゲームすらあんましてないじゃん』
「……」
『お前、ゲームしろよ、好きだろ、ゲーム』
ほら、好きなやつ、新作でてんじゃん、ダウンロード版買えよ
あんなに好きだったろ
やり始めたらさ、きっとまた止まんないって
だからさ、騙されたと思って一度さわってみろよ
明後日のことは明日考えたらいいから
な?
『だから、寝てんじゃねーよ、……たく』

化石にはなりたくねーなあ。

「男はリスカじゃなくて筋トレしろ」
『……』
彼女はぽかーんと口を開いて黙っている。
『お前バカなんじゃないのか!??』
突然爆発した、爆弾女。
「そんなのわかってるでしょ」
臆せず僕は言う、ハイってやつだ。
『あのなあ、人様傷つけるようなことには気をつけろって言ってんの、分別ないのか』
「無い」
有る、捨てた。
『持て』
やだね。
「自重トレーニングがさ、痛くてくるしいんだよ」
そんで筋肉が残るんだよ、これが僕の心の痕。
『わからん』
「しかも次第に気持ちよくなってくる」
『……キモチのワリー自傷してんな』
でもなんか勘違いされるから、そんなこと人前では言うなよと釘を刺された、……トレーニングいいのにな、マゾくて。
『お前は伝え方がへ……オカシいんだよ』
「真っ直ぐに伝えた方がわかりやすくないか?」
『そのまんま貫くんだよ、言葉を無差別に刺してんじゃねえ』

今日も薬を口にする。
口にする言葉が碌でもない気がする、
いや気がするんじゃなくて実際に碌でもない。
どうしてこうなった?答えは明白、でもあんまり言語化するときっと迷惑。
だからそれとなく伝わったり伝わんないといいななんて思いながら、今日も僕は彼女に迷惑をかける。
あー、スースーするなあ。
眠るのが怖くなくなった。
朝になると彼女を起こし、彼女を見送り、昼間は掃除をすこしして、焦燥にかられ駄文をしたため、夕方には買い出しに行き、部屋に戻ると彼女がゲームをしていて、相変わらず僕は自炊ができない。
そのうえ自分で買い出しをするようになってから0カロリーのエナドリがやめられなくなった。
カップに入ったグレープフルーツ味の氷にそいつを注いでちびちび飲むのが3日に一度の贅沢だ、やめられない、早く飽きないかな。
起きて夢をみるようになった僕は、わずかな社会性と引き換えに優しさを失ったかもしれない。
皮肉だ、駄目人間の時のほうが人にやさしくできたのか。

彼女が眠剤で眠ったのを確認すると、僕は彼女に背を向けて同じベッドで眠る。
……普通ってなんだ。
苦虫を噛みしめる側になっただけなんだよ、あー外れたのは道だったんだな。

僕が歩かなくても、道は目の前に続く、背中は崖、あとがない。