【R-18小説】ドアノブを壊して回る女 992文字【ショートショート】

僕に必要なのは頭を撫でてくれる女でも
過剰にお金をくれる女でも
猫なで声で甘えてきて征服欲を満たしてくれる女でも
切った手首の傷を成果のように誇って見せびらかしてくる女でも
首絞めセッ久じゃなくって
首絞めが好きな女でも
ベッドでいつも泣き腫らしているメイクの厚い女でも
その白い枕がピンクに染まるそんな夜でもなく
とにかく
そんな女が必要なわけじゃない
いや嘘嘘そんな女も大好きだけどさ
でも君はそれ以上に
ドアノブを壊して回る女だった
僕は涙を流しなら今日も眠れる

好きな仕事をしている、金には困ってない
年収200万でしあわせな生活だ、別にどうでもいい
帰りはいつも夜で、出社だっていつも夜
朝と昼は睡眠と快楽快楽と睡眠
増えた仕事にも快諾となりの同僚の女の子の
アンニュイな前髪にすこし愛抱く
でも一つ問題があるなら退屈だった
どこか心が渇いている
そんなことなんの問題もないと思っていたけれど
いまやそれは大問題
水をくれ
人はそれがないと生きていけない
水をくれ
自らを人と定義するためにはまず僕を観測する誰かが必要だ
水をくれそれを差してくれる存在が実はこの世界の根底を支えてきたんだから
飛ぶか吊るか二つに一つの世界に僕はもうない
人は飛べない落ちるだけ
だったら吊って落ちたいな
なんちって

狂る狂る回る思考は回る頭悪
渦渦してるこの気持ち目回すその目合わず
閑話休題君が夜道をフラフラとこちらにむけて歩いてる
飛べない僕だが、飛び込みそうな君にここはプールじゃないよと溜まった気持ちを吐き出すそれみて君は吐きそう
僕は君にキスしない
傷しかない

「どうかな」
「狂ってますね」
彼女は率直に感想を口にした。
「ていうかこれってなんですか?」
「詩だけど」
「×って感じですね」
「それは手厳しい」
「いや手心加えまくりですけど」
「どの辺(へん)が駄目でしたか」
「いやもう全部ダメだと思いますけど」
「全部はさすがに」
「いや全部です」
しかもキモチワルイ、と彼女は言った。
まあしょうがないか、ベッドの上で書いた うた なんてこんなものだろう。

けれども彼女は僕のヒーローだった。
今よりすこし前の話。
彼女はいつも僕のすこし先を行き。
そしてドアノブというドアノブを壊しまわった。
紐というかヒモの僕は、それによって吊ることは叶わず、
彼女にも敵わなかった。

僕は75センチの高さから落ちるのをやめた。
おセンチは今はおしまい。
もうそのためのドアノブもなくなってしまったからね。