見出し画像

世界は僕を救わない

17歳の誕生日は1人暮らしの古びたマンションで迎えた


1時間後には先月から働き始めた新聞配達に行かなくてはならない

12月も下旬、寒い冬の深夜にバイク運転するだけでも嫌だし

配達が遅くなれば客からクレーム入り、犬に吠えられるのだって怖い

それに比べ同級生は冬休み、クリスマスと1番楽しい時期

そう考えると布団から出るのもどんどんと億劫になる


僕が好きだったあのコも今頃好きぴとメールしてるんだろうな

中林さんも好きだったし、藤井さんも好きだったな

もし同時に告白されたらどっちと付き合おうかな

上手くやれば2人と同時に付き合う事もできたり

バカバカ、僕のバカ!そんな事していいはずないじゃないか!

でも大金持ちで楽天の社長ぐらい自由にお金を使えたら

バカバカバカ、僕のバカ!中林さんも藤井さんも札束にお尻振らないよ!

でもでも・・・ぐぅーぐぅー・・・



そんなこんなで



17歳初出勤は2度寝してがっつり遅刻した




新聞屋の人達はみんな優しかった

孫のように可愛がってくれて朝刊終わりに吉野家に連れてってくれて

「食べれないので並でいいです」って断わってるのに特盛を奢ってくれる亀さん

20歳と21歳のイケイケのお兄さん方には遊びを教えてもらった

自分で言うのも変だけど尖ってたし、気難しい時期だったのに

すぐに打ち解けてすんなりと仲間入りできた事に

驚いたし、漠然と苦手意識を持ってた社会に光みたいなものを見た気がする


社会に対しての苦手意識をちょっと掘り下げて書くと

なんだろう、怒りとかではなくガッカリしてた

両親には愛情注がれて育った故に

これまで大人を美化し過ぎてたのか

失望する機会が増え、不信感を強く持ってた

それは周りからの見る目だったり

学校での不平等な扱い、飯能駅交番の岸さん

思い当たるフシはたくさんある

もしかすると単純に

例に洩れず思春期特有アレだっただけかも知れない


それがおそるおそる社会に出たら

勝手に思い込んでたクソをブチ撒けた社会じゃなくてあっ気に取られた

何これ、これならやっていけるかも~まじチョロQなんですけどぉ!

久し振り会う同級生には「老けた?」ってバカにされても

全然へっちゃらさ!

ひねくれたガキがちゃんと大人になってく高揚感さえ味わえた

大好きだった深夜徘徊もお陰でやらなくなり

大変ながらも心が浄化されてくような日々が続いた


この調子で仕事続けて

社会というものを学び、お金を貯めて

起業し、温暖化問題とも危惧しちゃって?

政治?まぁ関心持っちゃうどころか考えちゃうよね?

投票する側というか、される側?的な



と思ってた矢先


亀さんのウエストポーチ紛失事件が起こる





ウエストポーチには勧誘で使うビール券が大量に入ってたという事で

亀さんも新聞屋も大騒ぎ

僕は自分のチラシ入れで精一杯だったので我関せずで

せっせと新聞にチラシを挟んでた

ササッ!シュパッ!ササッ!シュパッ!

新聞にチラシ入れ職人のような鋭い目つきで

ササッ!シュパッ!ササッ!シュパッ!


朝刊終わりに亀さんは吉野家に誘ってくれなかった

ビール券代は自腹切るルールって知ってたし

金銭的にキツいのかな、ちょっと心配になり

次の日の朝刊終わり

いつも奢ってもらってたから逆に僕から誘う事にした

「亀さん、吉野家行きませんか?お金は勿論僕が出すので」

元気なく亀さんは答えた

「このままビール券が出てこなかったら警察に相談しようと思ってる」

返事に違和感があってハテナマークになった

Qに対して思ってたAと違った

亀さんの表情で察した







あー・・・そういう事かと







その日、日中寝てるとチャイムが鳴った

仲良くしてたお兄さん方だ

「どんな所に住んでるか遊びに来た!」

部屋に上がり、あの時ああだったね、こうだったねと

話ながらも部屋を伺う2人に対してもすぐに察した



しばらくして試用期間が終わったという事で解雇になった









ふてくされて僕はあのビール券で浴びるほどビールを飲んだ

「やっぱりこの社会は腐ってる!」と









冗談ならそう書きたいけど


実際は社会に対して疑心暗鬼だった僕にトドメを刺した

世の中に本当の意味でいい人なんて一握りしかいないし

ちょっとした事で簡単にひっくり返っちゃうんだなって

時間を掛けてだけど理解する事で人に対しての諦めを学んだ

今、思うと良い意味で性善説の幻想を早めに砕いてもらって感謝してるが

それからしばらく大好きな深夜徘徊は続いた

世界は僕を救わないが、僕もまた世界を救わないのでおあいこだ











余談だが

一人称が「僕」の時は少々気取った気分で書いてる

ボサノバが流れるカフェでカモミールティーを頂戴している




※続き※ 救われた話