"GOAT" Tom Brady引退に思う

NFLファンの多くがこの1週間注目していたことがある。TBのエースQBであるTom Bradyの去就だ。Gratest Of All Time略してGOATの異名を持つプレーヤーが今年で引退する可能性が報じられていたからだ。今年でNFL22年目、44歳となった。年齢だけみれば引退もやむを得まい。もともと遅かった動きもさらに遅くなった。だが、成績だけ見れば「老化」は見られない。今年の成績だけ見れば、引退などあり得ない、それくらいの成績を残しており、個人成績だけであればキャリアハイの数字をいくつも残している。チームをスーパーボウル進出の一歩手前まで導いており、いまだにNFLで指折りのQBの1人だ。そのBradyが引退を表明した。

見始めたときにはすでに3度のスーパーボウル制覇しており、年齢的にも30歳頃。まさに全盛期であったはずだ。しかし、他の同年代のプレーヤーに衰えが見える中でもBradyだけは衰えを見せない。それどころか闘志全開で、時には相手を怪我させかねないプレーをしてまでも勝利にもぎ取ろうとする。実績もすごいが、そのような姿勢に対し、アンチも多い。当時所属していたNew England Patriots(NE)ばかり勝ち進む状態に嫌気がさす人たちも多いのだろう。NFL100周年を記念するイベントの時にはレジェンドの登場で盛り上がる場内を歓声とブーイングで二分した。その時の様子は忘れられない。

Bradyは入団時から注目されていたわけではない。ドラフトは6巡目。歴史的に見ても活躍したQBの多くがドラフト1巡目指名である。当時のNEにはDrew BredsoeというQBがどっしりと構えており、次世代を担うQBは必要なかったのだろう。Bredsoe怪我した時の代役に近い選手だったのではないだろうか。

その選手が2年目の2001年にBredsoeの怪我でスターターのポジションを獲得すると、強力な守備陣に支えられながらも、上手に試合を組み立て、勝利を量産。最終的にスーパーボウル制覇を成し遂げた。それ以降も試合を壊さない安定したプレーで2003,2004年に連覇した。2007年にはあわやレギュラーシーズン・プレーオフ無敗の「パーフェクトシーズン」未遂(スーパーボウルの最終盤まではリードしていたが、New York Giantsの最後の攻撃で逆転を許した)。2014年から2020年にかけては隔年でチームをスーパーボウル制覇に導いた。単に個人の成績だけでなく、チームの勝利に大きく貢献していたのだ。なお、選手としてのスーパーボウル制覇7回は史上最多だ。その選手が引退するのだ。

Brady引退後のTBは誰をQBに据えるのか。アメフトの試合でQBは大きな影響力を持つ。優秀なQBがいるかどうか、それだけでチームのレベルが大きく左右される。BradyがTBに移籍した2020年、元の所属チームNEは2008年以来プレーオフを逃した(その年はシーズン初戦でBradyが怪我をし、それ以降試合に出られなかった)。

誰がGOATの記録に近づけるのか。それとも、これほどリーグのパワーバランスを崩壊させるプレーヤーは二度と現れないのだろうか。仮にそうだとすると、Bradyのプレーを観られたのは幸福であったと、アンチBradyの私であっても言わざるを得まい。
注)Bradyではないが、カタカナ表記の場合、発信する主体によって表記ゆれが起こることがあるので、極力現地の言語で表記する

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